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10.狩猟に関わる者の匂い


 放課後になるとサラがあたしの席までやってきた。


「ほな行こかウィンちゃん」


「え、うん。別に逃げないわよ、あたしからディナ先生に頼んだんだし」


 そこまで狩猟部の参加者が増えるのが嬉しいんだろうか。


 あたしとサラは実習班のみんなと一緒に部活棟まで移動し、入り口でみんなと別れて狩猟部の部室に移動した。


「こんにちはー」


『こんにちはー』


 あたしが部室に入ると「あ、必殺委員(キラーモニター)だ」とか「ウィンちゃんが来た?」なんて声がした。


 先に部室に来ていたライゾウも、あたしの顔を見て不思議そうな表情を浮かべている。


 カールはまだ来ていないみたいだ。


 狩猟部はどちらかといえば女子の比率が多い部活だけれど、“必殺委員”と呼ぶのは男子の先輩ばかりだったりする。


「また後で先生も交えて挨拶すると思いますけど、魔法科初等部一年のウィン・ヒースアイルです。今日から入部を考えています。実際には風紀委員の仕事とか他の部の活動などもあるので、週一回くらいの頻度になると思いますが、よろしくお願いします」


『よろしくおねがいします』


「あ、あとできれば名前で呼んでください。あたし、称号が気に入っていないんです」


 あたしの言葉で、さっき“必殺委員”と呼んだ人を含めた男子が「ごめんよー」と言ってくれた。


 その後部室にあるパーティションで戦闘服に着替え、スカートの下にレギンスを着てブーツを履いた。


 着替え終わった段階でパーティションから出るとカールが来ていたので挨拶した。


「ウィン君は結局狩猟部に参加するような気がしていたんだ」


「そうなんですか?」


「気配と言うのかな。狩猟に関わる者の匂いを感じたんだ」


「そうですか。自分ではよく分からないですけどね。……あと女子に“匂い”とかいう位なら、“気配”という言葉で統一してください」


 あたしがにこやかにそう告げると、カールは本当に済まなそうに謝罪してくれた。


 その後、狩猟部のみんなと一緒に部活用の屋外訓練場に移動すると、すぐにディナ先生がやってきた。


「はい、皆さんこんにちは」


『こんにちは』


「今日もいつもの通り練習をしていきましょう。その前に一点、連絡事項があります。今日から彼女、ウィンさんが狩猟部に所属してくれることになりました。皆さん仲良く練習してください。ウィンさん、挨拶をお願いします」


「あ、はい。部室でも簡単にあいさつしましたが、一年のウィン・ヒースアイルと申します。風紀委員会や他の部の活動などで週一回くらい伺うのが基本になると思います」


 そこまで挨拶すると、サラや初等部らしき部員たちが嬉しそうな顔を浮かべた。


 何かあるんだろうか。


「狩猟に関しては実家が狩人なので、地元で親と動物を狩りに出かけたことがあります。ただ、ここしばらく弓矢を使っていないので腕が鈍っていないか心配になったこともあって、今回の入部となりました。色々至りませんがよろしくお願いします」


『よろしくお願いします』


 狩猟部のみんなはそう言って拍手してくれた。


 中には「これで来週の交流戦も安心だね」なんて声がある。


 交流戦て何だろうと思いつつ、ディナ先生の方に視線を向ける。


「それじゃあウィンさん。まずはあなたの今の実力を確認しましょうか」


「あ、はい。――ところでディナ先生、“交流戦”てなんですか?」


 あたしがその質問をすると、狩猟部のみんなはこちらに視線を向けて固まった。


「ええと、説明していませんでしたか?」


「何も聞いていません。どこかと試合でもするんですか?」


「――そうです。実はブライアーズ学園にも狩猟部があって、定期的に狩猟技術を競うことを行っているんです」


 そういうことか。


 それで狩猟部としては戦力が増えるからあたしを逃がしたくない訳だ。


 それなら初めにひとこと言ってくれればいいのにディナ先生とサラめ。


「そうですか。別にあたしで良ければ隅っこの方で大人しくしてますし、大丈夫ですよ」


「いえいえいえ。ウィンさんには初等部のチームで参加して欲しいんです――」


 詳しく話を聞けば、来週の闇曜日の午前中に王都南門を出た草原でゴーレムを放って狩るのだそうだ。


「――という流れになります。その後は、お昼には皆さんでバーベキューをして解散することになっていますが大丈夫ですか?」


「大丈夫です!」


 反射的に即答した。


 バーベキューと聞いてあたしは逃げる訳にはいかなくなった。




 ディナ先生があたしの今の弓術の実力を確認してくれるということだったけれど、狩猟部のみんなは何故か全員見学することになってしまった。


「そんな皆さんに見せるほどの腕でも無いと思いますよ」


「弓の経験者が来ると皆さん気になるようなんですよ」


「はあ……」


 部員(ギャラリー)のみんなを見てみれば、結構興味津々な感じでこちらを伺っている。


 失望させなければいいんだけど。


「それで、ウィンさんは短弓と長弓はどちらを使いますか?」


「両方いけますよ? 山に入りたての頃は短弓が多かったけど、最終的には長弓に落ち着きました」


「そうですか。それならこちらの弓矢を使ってください」


 そう言ってディナ先生は持参したマジックバッグから長弓と矢が入った矢筒を取り出した。


「分かりました」


 矢を数本手に取って確認するが、偏りもなくいい矢だった。


 弓の方もサイズ的に丁度良さそうだ。


 その後矢筒を装備してあたしは弓を手に取った。


 先生に案内されて開始位置に移動し、まずは身体強化なしの状態で的を射るのを指示された。


 的は【土操作(ソイルアート)】で作られた土人形で、一つの的に三本ずつ射なさいとのことだったので淡々と射る。


 開始位置から地球換算で三十メートル、四十メートル、五十メートルの位置に出現した的を、胸に二本と頭部に一本打ち込んだ。


 幸いそれほど強い風が無かったし、木立などの遮蔽物も無いので気楽なものだった。


 一本命中するごとに、部員のみんなが拍手してくれるのが微妙に照れ臭いです。


 その後、魔力による身体強化をした状態で、地球換算で百メートル離れた的に当て続けるのを試された。


 これも特に問題は無かった。


 そこからさらに難易度が上がっていくが、弓矢に属性魔力を込めて射るのを試されたり、魔力だけで矢を形成するよう試された。


 弓矢に魔力を込めるのは、風と地属性魔力で成功した。


 魔力の矢を作り出すのも風と地属性魔力で成功したけれど、射ることが出来なかった。


「はい、いいですよ。ありがとうございましたウィンさん」


「ありがとうございました」


「いいですね。他の武術を修めているだけあって、現時点ですでに白梟流(ヴァイスオイレ)の技である千貫射(せんかんしゃ)の基礎に近いことが出来ていますね」


「そ、そうなんですか?」


「ええ。ただ地属性魔力と風属性魔力のみということでしたので、いずれは水と火の属性魔力でもできるよう練習しましょう」


 ディナ先生は嬉しそうに告げた。


 だがちょっと待って欲しい。


「はい……。え……? 白梟流って四大属性魔力を全部使えるようにするんですか?」


「そうですよ。他の属性を覚えている人なら意外と何とかなるので、心配しないでくださいね」


 ディナ先生はそう言って微笑んでくれたけど、あたしはデイブの“初心者の心を叩き折る流派”という言葉を思い出していた。


 火魔法は【熱感知(センスヒート)】しか覚えていないし、水魔法は【解毒(デトックス)】と【治癒(キュア)】しか使えない。


 そもそも魔法が使えることと、属性魔力を操って武術で用いるのは別の技術なんだよな。


 ちなみに【熱感知(センスヒート)】は熱を視覚情報に変換して暗視とかすることができる。


 でも魔力感知に引っ掛かるので、隠密には向かないと母さんに言われている。


 まあ、魔力の感知とか気配察知で暗視に近いことは出来てるから、あたしは煮物料理のとき手伝いでたまーに使ったくらいだけどさ。


 母さんの話だと、鍛冶屋さんが仕事で金属の熱を把握するのに覚えていることが多いらしい。


 それはともかく、あたしの試技はあと何をするんだろう。


「遮蔽物を使ったりとか、動く的を射るのはやらなくて大丈夫ですか?」


「ウィンさんの場合は気配遮断で近づけたりしますね。それに、この風の状態で身体強化して、百ミータ以上離れた的を狙って射ていました。その時点で大丈夫と判断します」


「あ、分かりました」


「それではウィンさんは弓の上級者ということで、白梟流(ヴァイスオイレ)の練習から始めてもらいます」


『お~~~!』


 あたしとディナ先生のやり取りを伺っていた狩猟部のみんなは、先生の言葉で拍手をしてくれた。


 あたしとしてはかなり照れ臭かった。



挿絵(By みてみん)

ライゾウ イメージ画(aipictors使用)




お読みいただきありがとうございます。




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