01.竜と縁が深いって
夕食も済ませ自室に戻ったあたしは、宿題は昨晩終わらせているので日課のトレーニングを始めようとした。
そのときふと思い立って、何気なく自分のステータスを確認した。
すると、新しい“役割”を覚えていることが分かった。
「なんか和風なイメージがある“役割”ね、コレ」
思わず呟きつつ確認した最新のステータスはこんな感じだ。
【状態】
名前: ウィン・ヒースアイル
種族: ハーフエンシェントドワーフ(先祖返り)
年齢: 10
役割: 雷切
耐久: 80
魔力: 210
力 : 80
知恵: 240
器用: 250
敏捷: 360
運 : 50
称号:
八重睡蓮
必殺委員
加護:
豊穣神の加護、薬神の加護、地神の加護、風神の加護、時神の加護、
薬神の巫女
スキル:
体術、短剣術、手斧術、弓術、罠術、二刀流、分析、身体強化、反射速度強化、思考加速、専心毀斬、隠形、環境把握、魔力追駆、偽装、毒耐性、環境魔力制御、周天、無我、練神、風水流転
戦闘技法:
月転流
固有スキル:
計算、瞬間記憶、並列思考、予感
魔法:
生活魔法(水生成、洗浄、照明、収納、状態、複写)
創造魔法(魔力検知、鑑定)
火魔法(熱感知)
水魔法(解毒、治癒)
地魔法(土操作、土感知、石つぶて、分離、回復)
風魔法(風操作、風感知、風の刃、風の盾、風のやまびこ、巻層の眼)
時魔法(加速、減速、減衰、符号演算、符号遡行)
数値が細かく伸びているのは嬉しいんだけど、“運”の値が一向に伸びる気配が無い。
前から気になっていたけど、ソフィエンタに相談した方がいいんだろうか。
それはともかく、役割は『雷切』というものを覚えた。
何となく日本の記憶で、日本刀にそういう名前のものがあった気がするんだけど気のせいだろうか。
ステータスで『雷切』に意識を集中させてみるけど、日本刀云々の説明は出てこない。
その代わりというか、“双剣士+雷属性魔力を切断→雷切”という説明が出てきた。
確かにいままでキャリルとスパーリングした時に、役割を意識したことは無かったかもしれないな。
そこまで考えてあたしは、他の属性魔力を切断したら同じような役割が出てくるのだろうかと思い付いた。
コウ辺りは火属性魔力をつかう刀術を修めているから、一度訊いてみてもいいかも知れないな。
案外『火切』とかいうのを覚えていたりして。
そしてスキルの方では新しく『専心毀斬』というものを覚えた。
意識を集中して説明を確認すると、“素早く動くほど斬る動作が安定する”とある。
そこであたしは考え込む。
単純に速度などの数値化される速さという意味では、速さは速さでしかない。
ただ、スキルというか身体を動かす技術という意味では、素早さとか速さには質の違いがあると思う。
効率とか動作の洗練の部分といえばいいんだろうか。
「当たりのスキルだと思うけど、スキルを無効化するスキルの対策は考えておかないといけないんだよな。そのためにはスキルの効果の本質を押さえとかなきゃ……」
そう呟いて、あたしはその面倒くささにため息をついた。
気が付くとあたしは廊下に立っていた。
廊下に窓は無く、後ろは壁になっているから前に進むしかない。
問題はその廊下の様子だけれど、黒と赤の壁紙に床には分厚い赤の絨毯が敷かれている。
そもそも何でこんな場所に居るのかを考えるが、あたしは日課のトレーニングを終えて自室で寝入ったハズだった。
「まさか夢の中とかいう話かしら……」
けれど、夢の中というには自身の身体感覚が現実と変わらないことが確認できる。
加えて、反射的に周囲の気配を探り始めると、廊下の先に圧倒的な存在感をもつ者が控えていることが分かる。
ソフィエンタやテラリシアス様から感じる、神格のような存在感だ。
あたしは廊下の意匠からある神格のことを想起する。
「まあ、他に出入り口も無いし嫌な感じも無いから、先に進むか」
やや暗い廊下を少し歩くと、直ぐに一枚の扉に辿り着く。
いきなり開けるのも無作法だろうしノックを三回ほどしてみると、ドアが独りでに内側に向かって開いた。
「失礼しまーす」
そう断ってから部屋に入ると中は広めの応接室のようで、ここまでの廊下と同じ赤と黒の意匠からなる内装になっていた。
幸い室内は照明によってそれなりの明るさがある。
そして部屋の中央にある机の脇に、豪華な椅子に座った黒いドレスの女性が佇んでいた。
彼女は椅子から立ち上がって告げる。
「ようこそウィンちゃん~。ワタクシが誰か分かるかしら~?」
女性は白い肌に黒に近い紫のロングストレートヘアで、瞳が真紅だ。
その顔つきと気配や言動から、あたしは直ぐに察する。
「闇神さまですね。ウィン・ヒースアイルと申します。お会いできて光栄の極みです」
そう言ってあたしはカーテシーをするが、女性はくすくすと笑う。
「やっぱり分かるわよね~。ワタクシは闇神たるアシマーヴィアです。座って頂戴。少しお話をしましょう~」
「はい」
そうしてあたしは用意された椅子に座るが、アシマーヴィア様が机の上に視線を動かすと焼き菓子と紅茶が出現した。
「まずは礼を。ワタクシの分身たる、ノーラの心を救ってくれてありがとう。本当に感謝してもしきれないわ~」
「いえ、そんな。あたしは話を伺っただけです」
「いいえ。あなたはキチンと自分の言葉で、あの子の心に届く話をしてくれました。ワタクシが何を言っても、あの子の悩みには届かなかったもの」
「そうでしょうか……」
「ええ、ノーラが“分身仲間”と言っていたでしょう~? 」
確かにノーラはそんなことを言っていた気はする。
神格の分身である魂が転生した人間など、珍しいといえばそうかも知れないけれど。
「同じ境遇のあたしの言葉を待っていたということですか」
「そうなるわね~。神と人とでは、立場の違いはどうしてもあるじゃない?」
「そうかも知れません」
以前、ソフィエンタともそういう話はした記憶はある。
ノーラの悩みの場合は、アシマーヴィア様が言葉を尽くしてもノーラには対等なものと思えなかった可能性はあるのか。
「だから感謝しているのよ~。そういうことで、ウィンちゃんには何かお礼を考えていたんだけど何がいいかしらね~」
「お礼と仰いましても……」
正直そこまでおカネに困っていないし、神の力で人間関係とかを改善してもらうとかもちょっと違う気がする。
改善が必要な人間関係は特にないけど。
「あ!」
「どうしたのかしら~?」
「あたしの称号で『八重睡蓮』と『必殺委員』ってあるんですけど、必殺委員の方は消せないですかね?」
「ムリね」
「え゛?」
まさか神さまでも無理だったのか。
そうなるとほとんど呪いじゃ無いのこれ。
ニコニコと微笑んでいるアシマーヴィア様を見て、あたしは思わず机に突っ伏した。
「ステータスの称号は他の人間の認識が関わるし、その時点で因果律というか運命の流れみたいなものに関わってしまっているの」
「はあ……」
「でもワタクシに頼みたいほどイヤだというのなら、何らかの事象で上書きできないか試してみるわ~。他に無いかしら~?」
「え、他にですか?」
「称号の方は確約が出来ないから、他にお礼になりそうなものを訊いておきたいの」
あたしが唸りながら頭を捻っていると、困ったようにアシマーヴィア様は微笑む。
「まったく~、欲のない子ね~」
「ええと、何だか済みません」
「いいのよ~。――そうね、そういうことならあなたの未来にも関わりそうな、あなたが知らない秘密でも話しておきましょうか?」
「え、何ですかそれ?」
あたしの未来に関わるって時点で、穏やかじゃ無い響きがあるんですけど。
「面白いお話よ~。あなたが暮らす王国だけど、竜と縁が深いっていうのは良く聞くでしょう~?」
「そうですね、“竜とお姫様”って伝承があったりしますね」
「ええ。まずアレは実話なの~。覚醒した竜たる“神性龍”がお姫様に惚れて添い遂げたお話ね~。ロマンチックよね~」
なにやらサクッと、聞いたことが無い話を聞いてしまった気がするな。
「……神性龍って何ですか? 覚醒した竜とかおっしゃいましたね」
「ここからは王様も知らない秘密なんだけど~、神性龍って神々から役目を託されてるの。この星の大精霊と交感して、星をめぐる環境魔力を調整しているのよ~」
「…………はい?」
王様も知らない秘密とか聞いちゃって良かったんだろうか、いや良くない。
「ちょ、ちょっとストップ! アシマーヴィア様待って下さい」
「どうしたの~、面白くなかったかしら~?」
「いや、お話自体は面白いんですけど、王様も知らない秘密ってヤバい奴じゃないですか?!」
「細かいことを気にしちゃダメよ~。そもそも神性龍は竜として生まれた子たちが、いわゆる“精霊の試練”を乗り越えて辿り着く存在なの~」
「はー…………。ええと、“精霊の試練”って魔力暴走のことって聞きましたけど」
「魔力暴走は結果よ。精霊と繋がろうとする者が、環境魔力の制御に失敗することで暴走するの~」
「……竜が魔力暴走とか大変そうですね」
あたしは何とかそんな言葉をひねり出す。
じっさい、魔力暴走に近いというマクスの『無尽狂化』の状態でも大ごとだった。
それが竜で起きるというなら大騒ぎになるだろう。
「確かにそうね~。そもそもあなたの国では――」
アシマーヴィア様がそこまで言いかけた段階で、扉をノックする音がした。
音がする方に視線を向ければ、あたしが入ってきた方の壁と別の位置に扉があることに気が付いた。
「あ、ヤバいかも~……」
アシマーヴィア様が割とのんびりした口調でそう告げた。
ノックされていた扉は、次第にダンダンダンダンッと激しく叩かれ始める。
次の瞬間、叩かれていた扉は真っ白に変色したあと、ザーッと音を立てながら形を崩して床に白い粉が広がった。
あの白い粉の感じは塩だろうか。
「アシマーヴィアーーー?!」
その声はソフィエンタだった。
「あなた、なにうちの子を呼びつけて、要らないことを勝手に吹き込んでるのよっっっ?!」
なにやらソフィエンタはかなり怒っている様子だった。
アシマーヴィア イメージ画(aipictors使用)
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