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05.魔法化を試してもいい


 プリシラの“役割”である、『魔人形師(パペッティアメイガス)』のスキルの力を魔法化する。


 そしてそれを元にして魔道具を開発する。


 やりたいことを言葉にすればシンプルな話ではある。


 問題はどこから手を付ければいいのかということか。


 実際プリシラたちも、糸口をどこから見出すかで悩んでいるわけだし。


「まずは情報集めに聞き込みをしなければならないわね」


「でもどこから行ったらええかな? 順当に魔法の教科担当の先生のとこに相談行ってみる?」


「それも悪く無いけど、あたしがここまで話を聞いて思い出したのは、【分解(デコンポーズ)】の魔法なの」


「……なるほど、あの魔法はたしかダンジョンが魔獣の死体を分解する仕組みを調べて生まれたのだったね」


 それまで横であたし達のやり取りを聞いていたクルトが冷静な口調で告げる。


「そうなんです。魔力の流れと現象の観察を元に魔法として成り立つなら、それを研究している先生がいるかも知れません」


「最悪そういう先生がおらんでも、研究の進め方を知っとる先生がいはるかも知れんね」


「そうなのよね。……ということで、まずはアーシュラ先生に連絡を取ってみようと思います」


「その方が、魔法の開発に詳しい方でしょうか?」


 プリシラに確認されるが、そこはちょっと分からないんだよな。


「史跡研究会の副顧問をしている先生だけど、専門は魔法文献学って言ってたの。研究のためにダンジョンに潜るとも言ってたわ」


 たしか自己紹介の時に、好きなものはステーキとワイン、得意技はアッパーカットとも言ってたっけ。


 関係無いので黙っておくけど。


「だから【分解】の魔法が出来たいきさつとか知ってるかもって思ったのよ」


「ふーん、研究者つながりで色々知ったはるかもやね。ウィンちゃん連絡できるん?」


「ええ。前に会った時に魔法で連絡できるように頼んだら「いいよ」って言われたのよ」


 魔獣に詳しいっていうパーシー先生もそうだけど、ダンジョンに縁がある研究者の先生とはネットワークを作っておこうと思ったのだ。


 ちなみにあたしはパーシー先生とも魔法で連絡は取れる。


 デイブとノーラのことを話してから微妙にローガン先生のことが気になっているので、パーシー先生経由で話を聞いてみてもいい気がするけど、怖くて聞けないでいた。




 ともあれあたしは、アーシュラ先生に【風のやまびこ(ウィンドエコー)】で連絡を入れてみた。


「アーシュラ先生済みません、魔法科初等部のウィンです。いま大丈夫でしょうか?」


「ん、ウィン? …………あー、コウとレノのクラスメイトっていう子か。どうしたんだい?」


「ちょっと魔法のことで質問というか相談事があって連絡したんです」


「別に構わないよ。魔法の何の話だい?」


「実はクラスメイトに、ちょっと珍しいステータスの“役割”を覚えた子がいるんです。その子がスキルを元に魔道具を開発しようとしてるんですね」


「……ええと、お前さんのクラスメイトってことは初等部一年か。なかなか攻めてるね! それで?」


「それでいきなり魔道具製作をするのが難しそうなので、いったん魔法としてまとめてから回路を作ろうとしてるんです」


「なるほど。最近の若い子はキレてるねー」


 キレているというよりは、さっきのアーシュラ先生が言った“攻めてる”という方が気分的にはしっくりくる。


 今回の件に関しては、プリシラの執念が凄いんだとあたし的には思うんだけど。


 もちろんサラやあたしの興味も影響してるんだけどさ。


「それで、アーシュラ先生はそういう方法か、それを知ってる先生に心当たりはないですか?」


「そうだなー………………」


 やや長めにアーシュラ先生が考え込むけど、けっこう珍しい研究なんだろうか。


 何となく魔道具研究会の部室内に視線を走らせると、マーゴット先生を中心に部員たちが動いて大き目の甲冑のようなものをいじっていた。


 ジューンもいつの間にかそちらに加わっているし、魔道鎧『ピンク色の悪夢(アルプトラオムローザ)』後継機開発の作業中なんだろう。


「アーシュラ先生? また連絡をし直しましょうか?」


「いや……、大丈夫だよ。いちおう当ては思いついたけどひとつ教えて欲しい。お前さん達が魔法化しようとしているスキルって、どんなスキルだい?」


 アーシュラ先生的にはスキルを確認しておきたいのか。


 確かに危険なスキルだったりすると、それを魔法化するのは問題があるかも知れない。


 あたしはプリシラの縫いぐるみを操るスキルの話をした。


「――なるほど、学院生徒とはいえ、十歳の少女が二十体の人間サイズの縫いぐるみを自在に操れるスキルか」


「なにか問題がありますかね?」


「まあ、そこまで目くじらを立てるものでも無いとは思う。危険性という意味では、火魔法の上級魔法である【火焔壁(フレイムウォール)】とかの方がよっぽどヤバい」


「それじゃあ……」


「うん。使い方の問題だと思うし、わたしは魔法化を試してもいいと思う」


 よーし、話が前に進みそうだぞ。


「附属研究所の研究者に心当たりがある。直接の面識は無くて論文でしか知らないけど、わたしが同行して協力を求める分には問題無いだろう」


「ありがとうございます!」


「ああ。……そうだね。いまちょっと書き物の区切りが悪いし、先方の先生に一声かけておきたい。今から大体一時間後に附属研究所の玄関まで来て欲しい」


 あたしは承知した旨を返事して連絡を終えた。




 一時間後、あたし達は学院附属研究所の玄関前に居た。


 メンバーはあたしの他にはプリシラとサラとホリー、そしてクルトだ。


 クルトはスキルの魔法化という話に食いついて付いてきてしまった。


 いや、魔法に興味がある人なら誰でもそうなる可能性はあるか。


 そういう意味ではアルラ姉さんやニナに声を掛けなかったのは失敗だったかも知れない。


「よう、来たね。サラも居るのか。その三人は?」


「こちらの女子がクラスメイトのプリシラで、件のスキルを持っている子です。その隣が同じくクラスメイトのホリーです。男子がクルト先輩で、魔道具研でプリシラとサラの先輩になります」


 その後アーシュラ先生とプリシラとホリーとクルトは簡単に自己紹介した。


 クルトがいつもの調子で自分に酔いしれるような自己紹介を始めなかったので、研究所の玄関先ということもあってあたしは安心した。


「それじゃあさっそく、目的の研究者の先生を訪ねてみよう。まあ、わたしはさっき挨拶を済ませたけどね。朗らかそうないい先生だよ」


 あたし達はアーシュラ先生の案内で附属研究所の中を移動した。


 建物の中は講義棟などと同じく歴史を感じさせる建築になっている。


 最近だと『敢然たる詩ライム・オブ・ブレイブリー』の指名依頼の打合せで来ているし、初めてという訳でも無い。


 やがてあたし達は“魔法構造学研究室”と書かれた扉に辿り着いた。


 アーシュラ先生は迷わずその扉をノックする。


 すると中から一人の男性が現れた。


「こんにちはー、みなさん。アーシュラ先生、さっきぶりですね」


「時間を作ってくれてありがとう、ウィラー先生」


「いえ。僕としては面白そうな話を持ってきてくれて、先生には感謝しかありません」


「そ、そうかい?」


「ええ、今度お礼をしますよ」


「ありがとうよ」


 ウィラー先生の言葉になにやらアーシュラ先生が顔を微妙に赤くしているな。


 年齢的にもそれほど離れていないし、彼女のストライクゾーンに入っているんだろうか。


 彼氏を募集中らしいし、もしかしたら結構脈があるのかもしれない。


「さあ、廊下で立ち話も何ですし、みなさん我が研究室にどうぞ」


 案内された室内はそれなりの広さがあったけれど壁際は本棚で埋まり、他には移動式の黒板が置かれている。


 その黒板にはチョークで何やら数式やら注釈のようなものが延々と記され、文字でびっしりと埋まっていた。


 図形が一切なく、手書きの数字と文字で埋め尽くされた黒板なんて初めて見た気がするな。


「適当なところに座ってくださいねー」


 そう案内されたのは打合せに使える大きな机で、それを囲むように実習室にあるような背もたれの無い木の椅子が置かれていた。


 これとは別に事務机があるので、そちらがウィラー先生の机なんだろう。


「さて、まずは僕の自己紹介をしておきますねー。僕はウィラー・レスター・サマースケイルといいます。専門は魔法構造学で、新魔法開発とかその方法論の研究なんかは大好物です。よろしくおねがいします」


 その後あたし達は改めてみんなで自己紹介をしていたけれど、ウィラー先生はこまかい相槌を打って色々聞き出していた。


 研究者にしてはコミュニケーション力は高そうで、むしろカウンセリングとかを本業にしていると言われても信じてしまいそうだった。


「はい、それでは一通り自己紹介も終わったところで本題に入りましょうー。プリシラさんのスキルが今回の相談事の本題ですね」


「はい、そうです」


「今日は時間も遅いですし、実際の調査であるとか検討はまた次回以降にしましょう。ただ、どういうスキルなのかを僕たちに見せてもらえますか?」


「分かりました。実演を開始しますが、ステータスの“役割”は『魔人形師(パペッティアメイガス)』、スキル名は『眷族覚醒』で、効果は“生物を模した物を意のままに操る”です」


 そう告げるとプリシラは【収納(ストレージ)】から手のひらサイズの縫いぐるみを三つほど机の上に取り出し、順に「起きなさい」と声を掛ける。


 すると縫いぐるみたちは立ち上がって整列し、円陣を組んでダンスを踊り始めた。


 その様子をウィラー先生は目をキラキラさせながら観察している。


 やがて適当なところでプリシラが「眠りなさい」と言うと、縫いぐるみたちは開始位置に戻って座りこんでから動かなくなった。


「ウィラー先生、ご意見を希望します」


「そうだね。……現時点での感触では、魔法化自体は十分できそうかな」


「それは、強く推進することを希望します」


 ウィラー先生の返事にプリシラの目は輝きが増した気がする。


「うん。僕が見た限り、四大属性魔力でいえば地と水と風が関わっていそうだね」


「三属性ですか」


「うんうん。そして、この三属性を同時に組合わせた魔力は“進化”属性だよ。まあ、今日直ぐにどうこうするのはムリだね。でも来週また日にちを決めて集まろうじゃないか」


「そうしましょう」


 ウィラー先生とプリシラのやり取りでそのような話になったけれど、みんなも興味を持ったようだ。


 その後、来週の風曜日辺りで放課後に集まることが決まった。


 アルラ姉さんだとかニナなど、興味を持ちそうな生徒を誘っていいかを確認したら、みんなは了承してくれた。


 ちなみに次回以降の開催にもアーシュラ先生は顔を出すようだ。


 スキルの魔法化の手順に興味があるのだという話だった。



挿絵(By みてみん)

ホリー イメージ画(aipictors使用)




お読みいただきありがとうございます。




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