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01.契約内容のレベルで


 一夜明けて授業を受けてから放課後になり、あたしは『敢然たる詩ライム・オブ・ブレイブリー』のみんなと王都に繰り出していた。


 あたし達のパーティーへの指名依頼について、屋台などで買い食いをしつつ打合せしようという話になっていたのだ。


 もっとも、カリオやレノックス様、キャリルなどは打合せよりは買い食いがメインで繰り出している気がするけれど。


「それじゃあ、まずは肉だな」


「ちょっと待ちなさいカリオ。あなたに任せると肉料理メインの屋台巡りになるんじゃないの?」


「別にオレはそれでも構わんぞ」


「わたくしは甘いものも食べたいですわ」


「ボクは大食いするつもりは無いから、普段食べないようなものを食べたいかな」


 そんなことを話しながら、あたし達は市場の人混みの中を進む。


 学院を出て身体強化した状態で建物の屋根を駆け抜け、市場に着いたらいきなり食べる話である。


 これで指名依頼の話がどうなるかは少々不安ではあったけれど、とりあえずみんなは悩んでいるような表情も無い。


 それぞれの中ですでに答えが決まっているんだろうと思い、あたしもまずは甘いものを食べるためにみんなを誘導することにした。


 ちなみにあたし達の周囲にはレノックス様の警護目的であろう暗部らしき人たちの気配だとか、キャリルの家の手勢の庭師の人達の気配が展開している。


 安全性という意味では少々過剰な戦力が同行している気配があるけれど、あたしは気にしないことにした。


 それよりも昼食に山盛りの肉料理を食べるカリオの独走を抑えなければ、この屋台巡りが肉々しいものに変わる心配の方が大きい。


「まずはクレープ行くわよ! 肉料理のクレープもあるから、カリオはそれで我慢しなさい」


「分かったよ。仕切るなーウィンは」


「あんたが肉に飛び込もうとしてるからよ!」


 そんな感じであたし達は市場の屋台を巡って歩いた。




 一通り屋台を巡っておなかが膨れたあたし達は、商業地区にある公園のベンチに座っていた。


「さて、それでは腹も膨れたことだし、打合せを始めるか」


 レノックス様の言葉に頷き、あたしは【風操作(ウインドアート)】使って周囲を防音にした。


「それで、指名依頼の件だが、引き受ける方向で話を進めようと思う。何か気になる事はあるか?」


「先生たちとリスクの話をしたけれど、安全面での対策は先生たちが手を打ってくれるようだし、その面では安心してるけどね」


 コウが応えるが、みんなも特に異論は無いようだ。


「マクスのダメージを抑える方法っていうのは詳しく訊けなかったけど、その点は大丈夫なのか?」


「あたしもそこは気になるけど、本人やマーヴィン先生が大丈夫っていう以上信じるしかないんじゃないかしら?」


「事前の準備と言っていましたわね……」


「それに関しては恐らく、複合的に魔法を掛けて常に回復が掛かっている状態を保つのだろう」


 カリオやあたしとキャリルの疑念に、レノックス様が何かを想像しつつ応えた。


「常に回復が掛かっている、かい?」


「ああ。マーヴィン先生たちとの話の後、オレはオレで個人的に調べてみた。恐らくだが、創造魔法の【状態保持(キープステート)】を使うなどするのだろう」


「【状態保持】か。……工房向けの魔道具で、その魔法の効果を元にしたものが市販されているね」


 レノックス様とコウの話によれば、【状態保持】の魔法は“使用された任意の魔法の効果を維持し続ける魔法”とのことだった。


 燃焼を行う魔法なら火の勢いを保つし、冷却なら冷やし続ける。


 今回のマクスの回復という意味では、彼を回復し続ける効果を維持するのだろう。


「でもマクスの魔力暴走に近い状態で、回復の維持などは出来るのでしょうか?」


「恐らくできるということなのだろう。魔力暴走は結局、環境魔力の取り込みによって外部からの魔法が効きづらくなる状態だ。だが事前準備で魔法の効果を維持する仕組みを用意しておけば、魔力の取り込みと事前準備とが干渉しないことを確かめてあるのかも知れん」


「そう考えればマーヴィン先生たちが実験に踏み切った理由にはなるか」


 キャリルとレノックス様のやり取りに、カリオが納得した表情を浮かべる。


「そうなると後は、結局マーヴィン先生たちを信用できるかという話になる気がするわね」


「信用ね……。なら、いざってときはボクたちがペナルティ無しで依頼を降りることができるよう、契約内容のレベルで縛っておくのもリスク対策になるかも知れないね」


「その辺りかしらね」


 コウの実家は鍛冶屋だし、取引という意味ではシビアな目を持っているのかも知れないな。


 あたしとコウのやり取りに、他のみんなは頷いた。


 もっともそれは途中で依頼を抜ける契約ということだし、最悪のケースを想定した対策だろう。


 それでも話を持って行くことで、マーヴィン先生たちに安全を念押しできる効果はありそうだ。


「それでは指名依頼の契約内容に、依頼を破棄できる条項を追加しておこう。そこはオレに任せてくれ。――ほかに何かあるだろうか?」


 その後あたし達は公園のベンチで打合せを続けた。


 装備品や使用アイテムなどの金銭的負担など幾つか細かい課題は出たけれど、最終的にはレノックス様が契約内容の段階で調整することに落ち着いた。


「――それではみんな、最後に確認するが、今回の依頼は受けていいな?」


 レノックス様の問いに、あたしを含めてみんなは頷いた。


「そういうことでしたらみなさん、拳を出して下さいませ」


 そしてキャリルが仕切ってみんなでグータッチを行い、『敢然たる詩』の公園での打合せは区切りをつけた。




 打合せを終えたあたし達は、寮に戻るには少し早かったのでみんなで商業地区を散策した。


 食料品や衣類、書店や雑貨屋など、庶民の生活用品を扱う店を中心にみんなで見て回った。


 その内の一つ、とある金物屋に立ち寄ったときに、あたしは奇妙な魔力の流れを感じた。


 気配を追うようにしてその魔力の流れを探すと、店主のおじさんが身に着けているペンダントから怪しい魔力が感じられた。


 どうしても気になってあたしは声を掛けた。


「あの、済みません。突然ですけどそのペンダントはどこで手に入れたんですか?」


「ん? お嬢ちゃん、こいつの秘められたチカラが分かるのかい?」


「秘められたチカラですか?」


「ああ。……と言っても俺もよく分かってねえんだけどな」


 分かってないのかよ。


「どこで手に入れたのかって言われても分からねえな。こいつはブライアーズ学園に通ってる甥っ子から貰ったものでな」


「ちょっとだけ見せてもらっていいですか?」


「いいけど、壊さんでくれよ」


 そう言う割には無造作な感じでペンダントを外し、あたしに見せてくれた。


 手渡すつもりは無いのか、しっかりとチェーンの部分を握っている。


 身内からもらったという物なら、迂闊に触って壊しても問題だろう。


 あたしはそのまま目の前のペンダントを観察するが、矢張り微妙な魔力の流れがある気がする。


「【鑑定(アプレイザル)】を使ってみてもいいですか?」


「構わねえけど、そんなに気になるかね」


 あたしが【鑑定】を使うと、“人から好かれやすくなる首飾り”という名前と、持ち主のおじさんの名前くらいしか分からなかった。


 ただ、分類上は魔道具などでは無いことは分かったので、魔力が感じられるのは矢張りヘンだと思う。


「うーん……。あたしの【鑑定】だと首飾りと、おじさんの名前くらいしか分からなかったです」


「そうか。俺の【鑑定】だと製作者まで分かるが、妙な名前なんだよな……」


「何て名前なんですか?」


「『底なしの壺』っていう名前なんだ」


「なんですって?!」


 思わず大きな声が出てしまい、店の客や『敢然たる詩』のみんなの視線がこちらに集中する。


「あ……、大きな声を出して済みません」


「いや、構わねえけどよ。……何かヤバいネタでもあるのか、お嬢ちゃん?」


 努めて穏やかな表情を作ってから、店主のおじさんは声を潜めてあたしに問う。


 その様子が気になったのか、『敢然たる詩』のみんながあたしの近くに集まってきた。


「ええと、他言無用でお願いしていいですか?」


「商売人は信用第一だ。情報の大切さは分かってんよ」


「そうですね。ええと実は少し前に、“呪いが掛かったお守り”が流行しそうになったんです」


「そりゃあ……、呪いなのかお守りなのか気になるところだな」


 そう言っておじさんはニヤリと笑みを浮かべて見せるけど、そのネタはすでにやったんだよな。


「それはその通りなんですけど、【上達(プログレス)】っていう良い効果の魔法を腕輪に定着させるために、呪いの技法が使われてたみたいなんです」


「なるほど」


「でも見つかった腕輪はたまたまいい効果の魔法でしたけど、次の効果はヒドイ呪いの腕輪かも知れないじゃないですか」


「そのため学院では、呪いのアイテムに注意喚起がされたんですの」


 あたしの説明を聞いていたキャリルが、横から話を補足した。


 話を聞いて店主のおじさんは何やら考え始めた。


「それで、もしかしてこのネックレスがそういうものだっていうのか?」


 店主のおじさんはそう言って怪訝そうな顔をする。


 確かにいきなり来店した子供にそんなことを言われてもピンと来ないよな。


「事実だけを言います。学院で見つかった腕輪ですが、製作者が『底なしの壺』という名でした。ちなみに学院がこの名前を冒険者ギルドと衛兵に照会しても、該当者は見つからなかったようです」


「わたくしとしては、店主さんのお知り合いで魔法に詳しい方に詳しく鑑定してもらうことを勧めますわ」


「なるほど……、考えとくよ」


 あたしとキャリルの言葉に、店主のおじさんは溜息をつきながらそう言った。


「ところでおじさん、そのネックレスはブライアーズ学園の甥っ子さんからのプレゼントなんですよね?」


「ああ。甥っ子の周りで流行ってるみたいだな……」


「そうでしたか……」


 これはイエナ姉さん達にちょっと確認する必要があるかも知れないな。


 金物屋店主のおじさんが大切そうにネックレスを高い位置のカギ付きの戸棚に仕舞うのを見たところで、あたしは姉さん達のことを考えていた。



挿絵(By みてみん)

イエナ イメージ画(aipictors使用)




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