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04.簡易に対処できる方法


 史跡研究会にニナが呼ばれた件は片が付いた。


 寮に戻るにはまだ時間があったので、史跡研究会の部員以外はそれぞれの部活に向かった。


 レノックス様は見学という話だったけれどコウに誘われて来ていたようで、そのまま入部を決めて部室に残っていた。


 あたしは回復魔法研究会に顔を出したけれど、ジェイクの姿は無い。


 回復研の先輩たちに訊いてみたけれど、ジェイクはまだ学院に戻っていないようだった。


 そのまま回復研の先輩に相談しながら、前回ダンジョンでイモリの魔獣から採取した麻痺毒の鑑定を魔法で行ったりして過ごしていた。


 寮に戻るとあたし宛てに母さんから手紙が届いていた。


 自室に戻って確認すると、以下の内容が書かれていた。


 “ウィンへ。元気に過ごしていますか? お爺ちゃんのことは手紙で書いてくれて助かりました。父さんと一緒にお爺ちゃんの家を訪ねて、お婆ちゃんを交えて吊るし上げ、色々たっぷりとお説教をしておきました。しっかりきちんと反省させておいたので、しばらくは問題無いと思うわ――”


 なるほど、母さんは父さんと一緒にゴッドフリーお爺ちゃんの家を訪ねたのか。


 吊し上げっていうのが、リアルに縄で縛りあげてそうで恐ろしいんですけど。


 色々たっぷりお説教したというのは、あたしの事ではないとはいえ背筋が凍るけど、自業自得だと思うんだよな。


 せめてリーシャお婆ちゃんを王都に連れてこれば良かったのに。


 手紙はまだ続いているな。


 “お説教のこととは別の話として、入学祝いを貰ったことにはお返しを渡しておいたので気にしないでね。ウィンの先輩を助け出したり、色々あなたに伝えたことに関しては、それはそれできちんとお礼を伝えておきました――”


 ミスリル武器の短剣と手斧、蒼月(そうげつ)蒼嘴(そうし)はすっかり手になじんでいる。


 それぞれ二本ずつ貰った上に、自己修復する回路が入ってる魔剣らしいので、まだ何年も使えるだろう。


 極伝を伝承されたり、時魔法を教わったりもした。


 カレンを助けるときに手伝ってくれたのは心強かったし、母さんからもお礼を言ってくれたなら嬉しいな。


 “学院に入ってから、あなたは頑張っているようで安心しました。気が付くとウィンはラクをするようなところがありますね。それが学院に入ったことで、課題や問題を効率的かつ効果的に解決するという意味でラクをするようになったなら、お母さんは安心です――”


 似たようなことは、学院の先生にも言われたんだよな。


 回復研の顧問をしているアミラ先生だったか。


 今のところそこまで緩んではいないとは思いたいけど、気を付けておこう。


 “入学するときに伝えたと思うけれど、年末には父さんと王都に向かいます。そのときに成長しているウィンが見られることを楽しみにしているわ。最後に、これから冬に向けて段々と寒くなりますが、身体に気を付けて過ごしてください。ジナ”


 微妙にクギを刺されたような気もする。


 次に会う時まで、色んなことをサボらないで頑張りなさいとかそういう感じのことを言外に書いている気がするな。


 まあ、学校の勉強は内職を中心に授業より先行して勉強してるし、サボっていない。


 日課のトレーニングでも色々とあたしなりに工夫して腕を磨いている。


 その辺りは問題無いだろう。


 ただ、予感という程ではないけど、微妙に月転流(ムーンフェイズ)関係で腕を磨いておいた方がいい気もする。


「年末までにもうちょっとグライフとかデイブのところに行くかなあ……」


 思わず呻くように独り言を吐いてしまったけれど、その答は自分で見つけるしかないんだよね。


 そんなことを考えているうちに夕食の時間になったので、いつものように姉さん達と一緒に食べた。


 母さんからの手紙のことを話したら、キャリルやロレッタからは笑われ、アルラ姉さんは人ごとのように「頑張ってね」と爽やかな笑顔で応援された。解せぬ。


 夕食後は自室に戻り、宿題を片付けて日課のトレーニングを行ってから寝た。




 翌日、いつものように授業を受け、実習班のみんなと昼食を食べて午後の授業を受けて放課後になった。


 あたしとキャリルは敢然たる詩ライム・オブ・ブレイブリーの指名依頼の件で、集合場所の付属研究所入り口に向かった。


 コウやレノックス様とはタイミングをズラして教室を出たのだけれど、他意は無い。


 他意は無いけど、クッキーをコウとレノックス様からもらった時に、クラスメイトから特殊な手紙がどうとか言われたのは影響したかも知れない。


 それはともかくあたしとキャリルが付属研究所に着くと、そこにはマクスが居た。


「あれ、マクスは付属研究所に何か用?」


「おお、ウィンとキャリルか。俺様は本日の主役なんだぜ」


「主役ですの?」


「そうだぜ」


 その言動で、先日マクスがマーヴィン先生達と実習棟で何かを計測していたのを思い出した。


 あの時マクスは『無尽狂化』を発動したらしく、妙な魔力の集中を起こしてたんだよね。


「少々遅くなっただろうか」


「そんなことは無いだろ、大体同じ時間にクラスを出たんだしさ」


「でも女の子に気遣いを見せるのは大事だよ、カリオ」


 そうしているうちにレノックス様とカリオとコウが来た。


「女の子……」


 そう呟いてカリオはキャリルを一瞬見やってからあたしをじーっと眺め、コウに視線を戻す。


「あ、うん。そうかも知れないな」


「ちょっとカリオ、いまの間はどういう意味よ?」


「べーつにいいい?」


「あ゛?」


 あたしとカリオのやり取りを見つつ、マクスが何やらため息をつく。


「なんつーか、楽しそうで良かったなお前らはよ」


「「別に楽しくない」わよ」


 あたしとカリオが声を揃えると、コウが苦笑いしていた。




「どうやら皆さん、揃ったようですね」


 附属研究所の入り口から姿を現したマーヴィン先生が告げる。


「マーヴィン先生、敢然たる詩ライム・オブ・ブレイブリーへの指名依頼の件で伺った」


「先生、俺も今日は同席した方がいいんだな?」


 レノックス様に次いでマクスがマーヴィン先生に話しかけた。


 珍しくマクスは自分のことを『俺様』ではなく『俺』と言っている。


 さすがにマクスでも、マーヴィン先生相手では大人しいようだ。


「ありがとうございます敢然たる詩の皆さん。マイヤーホーファー君も同席してください。今日は実質的にキックオフミーティングになると思うので」


 レノックス様とマクスは頷く。


 まだ受けるかどうかは分からないけど、初会合キックオフミーティングといえば確かにそうだ。


「さあ、会議室に移動しましょう」


 マーヴィン先生の案内であたし達は付属研究所に入り込み、一階にある会議室に移動した。


 会議室の中にはすでに数名の参加者がいたが、全員大人たちだ。


 職員室で見たことがある人も居るけど、普段見掛けない人も居る。


 全員が適当な席に着くと、突然室内からは周囲の音が消えた。


 直前にマーヴィン先生から風属性魔力が感知できたので、無詠唱で魔法を使って室内を防音にしたんだろう。


「さて、まずは簡単に先生方から自己紹介をお願いします」


 マーヴィン先生が口を開くと、一番年長の男性が自己紹介を始めた。


 所属と名前程度だったけれど、この場に居る大人は附属研究所の研究員か、高等部の先生であるようだった。


 続いてあたし達もレノックス様から順に名前だけ自己紹介していった。


 マクスもあたし達の後に普通に自己紹介していたから、初対面の先生たちが居るのかも知れないな。


「自己紹介が済んだところで、今日の本題に入りたいと思います。そもそもの話をすれば、王国のみならず少なくとも我々のいる大陸では、魔力暴走がたびたび魔法が使われる現場で問題になっています――」


 マーヴィン先生の説明は以下の内容だ。


 ・食品などの摂取や魔獣の毒などの中毒、あるいは突然の魔法などによる体質変化から、魔力暴走と呼ばれる現象が発生する。


 ・魔力暴走を起こした生物は、際限なく周囲の環境魔力を体内にため込む。


 ・魔力暴走を起こした生物は身体強化され、外部からの魔法の効果がほぼ影響しなくなる。


 ・魔力暴走を起こした生物は体内にため込んだ魔力の影響で全身が壊れ、凶化して最後には死亡する。


「――というわけで、魔力暴走は非常に厄介な状態異常なわけですが、『状態異常を治す魔法』さえも弾いてしまいます。このため今までは体力的に弱らせてから意識を奪う方法で対処することが多かったわけです」


 ここまで話してマーヴィン先生は会議室内を見渡すが、特に手を挙げたりする人は居なかった。


 それを確認した先生はさらに話を続ける。


「ところが今般、マイヤーホーファー君が有するスキルが、意図的に魔力暴走に似た状態を起こせることが分かりました。そしてこのスキルを調べることで、魔力暴走へのより良い対処を調べられると考えています」


 そこまで話してからマーヴィン先生はあたし達に視線を向ける。


「ここで目標としたいのは、戦闘訓練などをしていない一般人は難しいとしても、衛兵などが簡易に対処できる方法です」


 なるほど、そのために実験を行うから、衛兵役としてあたし達に参加して欲しいとかが指名依頼の内容かな。


「そのために、皆さんにはこれから殺し合いをして貰います――――といった事には絶対させませんので、安心してください」


 一瞬あたしたち敢然たる詩のメンバーは息を呑むが、直ぐにマーヴィン先生の言葉で脱力した。


「マーヴィン先生、我々敢然たる詩は衛兵役として関わることになるだろうか?」


「そうです」


「なぜ、実際の衛兵に協力を依頼しなかったのだろうか。学院は王国の組織であるし、調整すれば可能だったと思うのだが」


 レノックス様の言葉に頷いて、マーヴィン先生が応える。


「理由としては、マイヤーホーファー君を中心とした実験系を考えた時、彼と同年代で基礎体力が同等以上であり、衛兵のように連携が取れる集団というのが必須条件でした」


「なるほど、それでオレ達が候補となり、冒険者登録していることもあって声を掛けたと」


「そうです。加えて実験に際しては、マイヤーホーファー君の能力を隠す意味でも、守秘義務をどう担保するのかも問題でした。その点、冒険者でありギルドにパーティー登録してある集団であれば、依頼者の秘密を守るのは法的な意味で義務です」


 もちろんマーヴィン先生が義務と言っているのは、王国のみならず冒険者ギルドが展開している各国の法律を依頼者が守っている場合だ。


 賊だとか違法取引をする商人なんかがしょーもない依頼を冒険者にした場合は、冒険者はむしろ当局に通報するべきだったりする。


「マーヴィン先生、ここまでの話は理解した。敢然たる詩のリーダーとしては前向きに検討したい。――みんなは何か、気になる点はあるだろうか?」


 レノックス様はそう告げてあたし達に視線を送った。



挿絵(By みてみん)

ジナ イメージ画(aipictors使用)




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