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01.精霊魔法の才能は


 あたしとキャリルが演習林でキノコ鍋を味見した翌日、朝のホームルームの時にディナ先生からの連絡事項があった。


 学院内でクッキーが乱れ飛んでいた件についてだ。


「学院から皆さんに連絡事項があります。いま一部の男子生徒が大量のクッキーを作成し、日頃の感謝という意味でこれを女子生徒に贈るのが流行っています――」


 ディナ先生からの連絡事項としては以下の内容だ。


 ・クッキーを際限なくやりとりするのは、学業に専念できなくなる生徒が出るので望ましくない。


 ・料理研究会などの部活動を大きく超えた、食堂の設備を使った調理は許可制とする。


 ・原則、食堂の設備を使った部活動以外の調理は、学業に関連する内容以外では許可しない。


 ・菓子作りは学習すべき内容と判断できるので、学院が定めた期日に行事としてこれを行う。


「――そして今ある案としては、魔法科初等部、教養科初等部、魔法科高等部、教養科高等部でそれぞれ日を分けて実施する話が出ています」


 ディナ先生がそこまで話した段階で、クラスの生徒からは「おぉー」という歓声が上がったが、先生が右手を上げて沈黙を促す。


「そのようなことが決まりました。ですから皆さんは誰からどれだけクッキーを貰ったとか、自分は貰えなかったなどと気にせずに過ごして欲しいと思います」


 そこまで言ってからディナ先生はあたし達を見渡してから口を開く。


「たかが焼き菓子で、皆さんひとりひとりの人格が評価されることは無いのです。そう思いませんか?」


 そう言ってから優しく微笑んだ。


『はい』


 あたし達の返事に一つ頷いて、ディナ先生は次の連絡事項を話し始める。


「それではつぎに、今日の魔法の実習の連絡事項を伝えます――」


 そうして朝のホームルームはいつも通りに進められた。


 その後いつも通り授業を受け、昼休みに実習班のみんなとお昼を食べてから、あたしはニナに頼まれごとをされた。


「みんな済まんのう、妾はこれからとある件で先生と打合せをしてくるのじゃ」


「何の件なん? お昼休みなのに大変やね」


「まあ、ちょっとした研究絡みのことじゃ。それでのう、王国のことで諸々相談したいこともあるやも知れんのじゃ。済まぬがウィンよ、妾と一緒に来てくれぬか?」


 そう言ってニナは微笑むが目は笑っておらず、真剣な光がそこにはあった。


 なにか面倒事を含む打合せなのだろうか。


「別にいいわよ、デイブからもあなたのことは頼まれてるし」


「助かるのじゃ」


 そんなやり取りがあってあたしとニナは食堂を後にする。


 そしてニナに連れられて向かった先は、マーヴィン先生の執務室だった。


「打合せの相手ってマーヴィン先生なの?」


「そうなのじゃ。少々面倒なことも一つ含むゆえ、ウィンにも来てもらったのじゃ」


「面倒事?」


「詳しいことはマーヴィン先生も交えて話すのじゃ」


 そう言ってからニナは執務室のドアをノックした。




 室内にいたマーヴィン先生に出迎えてもらい、あたし達は来客用のソファに腰掛けた。


「わざわざ昼休みに来てくれてありがとうございます、アルティマーニ君。それで、ヒースアイル君も一緒という事は、彼女も関わるという事でしょうか?」


「うむ。ウィンにはまだ何も話して居らんのじゃが、こ奴には妾の助手を頼みたいと思っておるのじゃ」


「そういうことでしたか。まだ何も話していないということでしたら、前提になる部分から説明する必要がありますね――」


 そう言ってマーヴィン先生はニナが学院で特別講義を行う話を説明し始めた。


 ・精霊魔法の才能がある生徒をニナが選び、学院に報告する。


 ・学院は対象者の適性を検討したうえで本人に説明する。


 ・本人が希望すれば精霊魔法を教える。


 ・学院OBの宮廷魔法使いが補佐で加わる。


「――と、ここまでは今決まっていることです」


「お話は分かりましたが、あたしは精霊魔法の才能は多分無いと思うのですけど」


 前にゴッドフリーお爺ちゃんから聞いた話だと、精霊の加護が無いと精霊魔法は使えなかった気がする。


「精霊魔法の才能は確かに無いのう。ただ、ウィンは月転流(ムーンフェイズ)を修めて居る関係で環境魔力の察知であるとか、万一の魔力暴走への対処や参加者の護衛など諸々で都合が良いと判断して居るのじゃ」


 そういう理由なら協力することはできるか。


 元々ニナを助けるのは、デイブからの言葉で判断すれば王都の月輪旅団としての方針でもあるのだろうし。


 何よりニナはもう友達になっちゃったしな。


「分かったわ」


 あたしの言葉にニナは嬉しそうに微笑む。


「因みに、才能云々に関しては、それが無い人間でも鍛錬を積めば精霊魔法を使える可能性はあるのじゃ」


「それは……、興味深い情報ですね」


 ニナの言葉にマーヴィン先生が鋭い視線を向ける。


 確かに面白い話ではある。


 少なくとも武術なんかの分野なら、ステータスの加護の有無で習えないなんて話は無い。


 でも魔法については肉体というよりは魂に関わる部分の技術だし、その辺りはどうなんだろうと、あたしは考えていた。


「うむ。しかし、使えるようになるまでのコストもリスクも、才能の有無でずい分変わるのじゃ。その最たるものが、精霊の試練――要するに魔力暴走の発生確率じゃのう。同一期間内で数倍以上は発生するのじゃ」


「そういうことですか……」


「うむ。じゃから、精霊魔法の才能が無い者は、王国ならば広域魔法を修めた方がリスクは少ないし、得られる効果も高いハズじゃ」


 ニナの説明にしばらく何かを考えていたマーヴィン先生だったが、やがて表情をやわらげて告げた。


「いずれにせよ、王国では精霊魔法自体が希少なのです。まずは確実に根付かせるところから始めたいというのが、王国としての方針です」


「それはこちらも把握して居るのじゃ。――というのがおおよその背景じゃが、ウィンよ理解したかの?」


「一応理解したわ。まずは得意な人に覚えてもらって、使える人を増やそうってことね」


「そういうことです」


 あたしの言葉にマーヴィン先生が頷いた。




「それでじゃ、具体的な話に入る前にウィンに確認したいことがあるのじゃ。週一回放課後に特別講義という形で開く予定じゃが、この曜日が良いとか悪いとか希望はあるかの?」


 放課後の予定か。


「現状では冒険者パーティー『敢然たる詩ライム・オブ・ブレイブリー』として水曜日にダンジョンに挑むのと、光曜日は風紀員会の打ち合わせに出ているわ」


 あたしの言葉に少し考えて、ニナは口を開く。


「そういう事なら、仮置きじゃが週明けの地曜日放課後に手伝ってもらうのは大丈夫かの?」


「急な用事が入らない限りは大丈夫と思うわ。でもいままで急な用事なんてほぼ無かったし、多分平気ね」


 風紀委員関係で仕事が入ってきたらちょっと不安だけど、あたしの他にも風紀委員は居るし何とかなるだろう。


「分かったのじゃ」


 あたしとニナのやり取りを見ていたマーヴィン先生が追加で説明を始める。


「それで、具体的な開始時期ですが来月十二月に入ってからを考えています。アルティマーニ君とも擦り合わせましたが、まず初年度の目標としては週一回一時間を半年間実施します」


 特別講義と名前が付く以上、時間で管理されるわけか。


 半年間で足りるのかはあたしでは判断が付かないけど、ニナが認めているなら問題は無いんだろう。


「単純計算ですと全三十回ほどの特別講義を行います。これによって、一つの属性の精霊魔法を初歩的に制御することができるようにするのを目標にします」


「初歩的な制御とはどんなものですか?」


 あたしの質問にマーヴィン先生はニナの方に視線を向ける。


 ニナは一つ頷いて、あたしに説明をしてくれた。


「まず大前提として、精霊を喚び出した時に魔力暴走を起こさぬことがあるのう。それに加えて、精霊を使った攻撃と防御の基本ができることを考えておるのじゃ」


「参考に教えてニナ。攻撃と防御の基本を習うと、どの程度の相手と戦えるようになるの?」


「そうじゃのう……。単独での実戦はムリじゃが、威力は(バリスタ)と同じかやや劣るくらいかの」


「防御はともかく、攻撃はどの位連射出来ますか?」


 ニナの説明に興味がわいたのか、マーヴィン先生も質問に加わった。


「魔力切れは環境魔力を使うゆえ起こらんのじゃ。ただ、威力や継戦能力は本人の集中力や想像力、意志力などによって幅があるのじゃ」


 そこまで聞いてあたしはふと思う。


 幅があるとは言っても精霊魔法のノウハウがあれば、どの位の練習時間でどのくらい習熟するという目安がある気がした。


「それでも共和国ならある程度は目安があるんじゃない?」


「確かにあることはあるが、妾は数値化する基準は余り採用したくは無いのう」


 そう言ってニナは苦笑いしてみせた。




「アルティマーニ君が、学院が軍ではないと主張している話は把握しています。目標設定に関してはまたおいおい細かく決めていきましょう」


「分かったのじゃ」


 マーヴィン先生の言葉にニナも少しホッとした表情を浮かべた。


 というか、さりげなく『軍』なんて単語が出たけれど、王国としては色んな思惑があるんだろうな。


 あたしは二人の表情を伺いながら、そんなことを考えていた。


「それからマーヴィン先生よ、特別講義の参加者で希望する者が居ったら、妾が刈葦流(タッリアーレレカンネ)を仕込む話はどうなって居るかのう」


「その話は王宮と共和国大使館に確認しましたが、アルティマーニ君に全て任すとのことで落ち着きました」


「分かったのじゃ。精霊魔法の使い手は近接戦闘を不得手とすることが多いからのう。その点は手当てすることを勧めるのじゃ」


「仰る通りです。ただ、あくまでも精霊魔法の特別講義が優先であるのを、忘れないようにして下さい」


「うむ」


 ニナが修めている武術を教える話までしていたのか。


「ニナ。刈葦流は王都では希少だけど、広く教える気は無いの?」


「それは無いのう。妾は人間性を見定めたうえで教えたいのじゃ」


「それは凄くよく分かるわ」


 確かに妙な弟子を世に送り出しても問題だよね。


 あたしはニナの言葉に頷いた。



挿絵(By みてみん)

ディナ イメージ画(aipictors使用)




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