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06.絶望を癒して


 夜の闇の中、学院構内の某所に濃い色のフード付きローブを着込んだ少年たちが集まっていた。


 その数は十三名。


「同志が増えたな!」


「ああ、怖気づいている場合じゃ無いと気が付いたんだ」


「そうだとも、俺たちはイケメンの数を減らさねばならん」


 そんなことを語りつつ、彼らは怪気炎を上げる。


 だがそれぞれの意気を浮かべるはずの目には、深い諦念の色が含まれていた。


 ただ一人を除いて。


「きみ達、盛り上がるのは構いませんが、ぼくは部外者です。呪いの件でオブザーバーとしてここに呼ばれただけに過ぎません」


 冷静な口調でフレイザーはそう告げた。


 もっとも、フレイザーもこの場に居るその他の者も、互いに相手の名を知りはしないのだが。


 学院非公認サークルである『虚ろなる魔法を探求する会』へ、依頼者として連絡をした者が居た。


 そして会が送り出したのがフレイザーだったに過ぎない。


「ああ済まない。それで、我々でも実践できそうな呪術を教えてくれることになっていて、とにかく対象の髪を用意しろと言われているんだ」


「そうですね。ただ、丸刈りは過剰だった気がします」


「量は伝えられていなかったのと、後はこちらの参加者で決めたことだ」


「呪いではなく、嫌がらせと思わせたところで計画を進めるつもりなのさ」


 フレイザーの言葉に、ローブの集団は次々に言葉を補足する。


 その様子に、本人たちが納得しての行動ならとフレイザーも理解を示す。


「分かりました。出過ぎた言葉を申し訳ありませんでした。そういうことでしたら、ぼくはレクチャーを始めさせて頂きます。デュフフフフフ」


 フレイザーはねっとりと笑うが、その場の者たちは特に反応することは無い。


 呪いを使いこなす、『虚ろなる魔法を探求する会』の部員を刺激したくないという事があった。


 同時に、事前に抱いていたイメージからズレていなかったという事もあった。


「……よろしく頼む」


「はい。今回のご注文は抵抗(レジスト)が難しく、実行がしやすく、効果が分かりやすいものとのことでしたね?」


 フレイザーは丁寧な口調でそう告げてその場に居る者たちを見回すが、みな承知しているからか黙って頷いたりしていた。


「そのご注文に従いぼくらの方で選定を行った結果、今晩お教えする呪術が選ばれました――」


 闇に溶けるように熱の無い声で、フレイザーは呪術についてレクチャーを進めて行った。


 やがてフレイザーによるレクチャーも終わり、彼は一人その場を去った。




 しばらく経ってから、その場にフード付きローブを着込んだ少女たちがやってきた。


 その数は十一人。


 少女の一人が口を開く。


「こちらの賛同者はこれで全部よ。少ないけど、これでもあなた達の協力者だから」


 少女の言葉に頷き、少年の一人が告げる。


「全く、女は恐ろしいな。自分のものにするためなら、呪うことにさえ協力するとはね」


 別の少女が応える。


「それが女というものだわ。けれど、目的のために手段を選ばないのは、性別は関係無いでしょう?」


「……いいだろう。標的の数はまだ揃っていないが、次の段階の打合せをしておこう」


 少年の一人が出した提案に、少女たちは頷く。


 だが少女の一人が声を上げた。


「ちょっと待って。この集まりに名前はあるの?」


 その問いに、その場に居る者たちは互いに視線を交わす。


「特に無いが、そうだな……。『秘密結社丸刈り』と言ったところか」


 少年の一人が応えたが、その言葉に少女たちは一様に肩を落とす。


「話にならないわ。あなた達、そんなのだからモテないのよ……」


 一人の少女がそう告げる。


 他の少女たちも口々に「可愛くない」とか「センス無いわ~」などと呟いているが、その反応に少年たちは愕然とする。


「な、なら妙案があれば出してくれよ」


「……そうね、ならこうしましょう。『秘密結社マルガリータ』なんてどう?」


 少女の一人がそう告げて嫌らしく笑う。


 突如飛び出した案に少年たちは吹き出し、少女たちは「可愛いわ」とか「それならアリね」などと反応を示した。


「ま、まあ俺たちは何でもいい……」


 少年の一人がそう告げて仲間を見渡すが、他の少年たちも困った目をして頷いていた。


「ならば今宵、秘密結社マルガリータは発足した。……今日は俺が仕切るぞ、スローガンを唱えてから打合せを始めよう。『イケメンたちに絶望を!』」


『イケメンたちに絶望を!』


 少年たちはそう叫びながら手にした手動バリカンを掲げる。


 その気勢に少女たちは一瞬ひるむが、彼女たちの一人が口を開く。


「そういうことなら、私たちも覚悟を決めるわ。『絶望を癒して我らのものに!』」


『絶望を癒して我らのものに!』


 少女たちはそう叫びながら拳を突き上げる。


 その唱和に、少女たちはニチャアと嗤った。


 それを見た少年たちも昏い笑みを浮かべた。


 そして夜は更けていった。




 一夜明けてあたしは普通に授業を受け、みんなとお昼を食べた後にキャリルとパトロールを行った。


 ニッキーとも相談したのだが、当面は学院内を警戒した方がいいのではということになったのだ。


 他の風紀委員のみんなもパトロールをしているはずだ。


 二人で手分けして初等部一年の各クラスを回るが、講義棟の外は男性教師などが巡回すると聞いていた。


「学院に関係ない部外者の犯行の可能性はゼロでは無いけど、ふつうに考えたら生徒の犯行よねー……」


 そんなことを呟きながらあたしは魔法科の各クラスを回る。


 キャリルは教養科の各クラスを回っている。


 普段と変わったことは無いか訊いて回ったけれど、今回クラス委員が教室に居ないクラスでは手近な生徒に話を訊いた。


 自分の目でも見て回ったし話も聞いてみたが、特に変わったことは起きていないようだった。


 ただ、各クラスとも先日の呪いのアイテムの話題は、まだ関心が高いように感じられた。


 そうしてパトロールをしていると、魔法で連絡があった。


「ウィンちゃん、キャリルちゃん、今いいかしら?」


「ニッキー先輩? 大丈夫ですよ」


「わたくしも大丈夫ですわ」


「また『連続男子生徒丸刈り事件』で被害者が出たわ。こんどは二名よ」


「え? それじゃあ、これまでの分と合わせ、六名の被害者が出ているということですの?」


「そうなるわね」


 また被害者が出たのか。


 そうなると、各クラス委員や教室をパトロールするよりは、構内を回って監視を増やすべきかもしれないな。


「被害者の共通点は分かりませんか?」


「リー先生が分析中ね。あと、アイリスちゃんの例の伝手で照会中よ」


 例の伝手って『美少年を愛でる会』か。


「アイリス先輩の伝手で当たりだったとしたら、荒れそうですね」


「……確かにそうね。私たちより先に犯人を見つけたら、血みどろの戦いに発展するかも知れないわ」


「犯人の規模が不明ですわ。場合によっては陰惨な私刑(リンチ)へと発展する危険もありますわね」


 ニッキーやキャリルの懸念ももっともだ。


 被害者には悪いけれど、あたし的には頭髪が丸刈りになったくらいは大した話では無い気がする。


 でもそれがきっかけに暴力事件に発展するようなら問題だろう。


「だんだん風紀委員を抜けたくなってきましたよ……」


「まあまあ……。ウィンちゃんのクラスメイトが被害に遭ったり、私刑を始めたりしたらイヤでしょう?」


 ニッキーがあたしをなだめてくれるが、彼女が言っていることは妥当だ。


「丸刈りくらいは見過ごせますけど、……後者はダメですね」


 そう応えてから思わずため息が漏れる。


「大丈夫ですわウィン。わたくしとあなたが居るのです。どんな難局も打開できますわ」


「そこはそうかも知れないけど、面倒じゃない。ラクに行きたいのよ、あたし」


「なら作戦を考えるべきかも知れませんわね」


 たしかに、ノープランで対症療法的に対応するのは、有効では無くなってきているかも知れないな。


「分かったわ。そういうことなら今日の放課後、風紀委員のみんなに集まってもらいましょう」


 キャリルの言葉にニッキーが応じた。


「その方がいいかも知れませんね」


「分かりましたわ」


 あたし達はそう応えてからニッキーとの連絡を終え、パトロールを再開した。



挿絵(By みてみん)

ウィン イメージ画(aipictors使用)




お読みいただきありがとうございます。




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