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08.凶暴な存在の主張


 運営担当の生徒の案内で、部活用の屋外訓練場では『学院裏闘技場』の予選が始まっていた。


 屋外訓練場は【土操作(ソイルアート)】でも使ったのか、真ん中付近に地球換算で高さ一メートル程の土壁が用意されている。


 土壁は訓練場を二等分しており、各ブロック戦はそれぞれのエリア内で行うということだった。


 すでに戦いが始まっているのだが、第一と第二の各ブロックは同じ人数で十四人ずつだ。


「やはり学院内の戦いだからでしょうか、参加者の皆さんはどこかでみた事があるような人ばかりですわ」


「というか、第二ブロックにライナス先輩が居るんですけど」


 キャリルの言葉にあたしはため息をつきながら応える。


 武術研究会で普段世話になっているライナスが、何やら嬉々とした表情で暴れている。


 もし彼が勝ち上がってきたら対戦するのか。


 そこまで考えてあたしは再び重い溜息を吐いた。


「たぶん第二ブロックはライナス先輩で決まりにゃ」


 鼻歌でも歌いそうなご機嫌な声でエリーが告げる。


「エリー先輩とライナス先輩は蒼蛇流(セレストスネーク)で同門なんでしたっけ?」


「そうにゃ! 強さでいえばアタシと同格かそれ以上にゃー」


「そ、そうですか……」


 武術研では身体強化を行わない状態の試合を、ライナスとは何回も行っている。


 武術史の研究を行っている家系だけあって流派にこだわらない技を挟んでくるので、試合をすると立ち合いにくい相手だ。


「なかなか楽しみになってきましたわね」


「あたしは不安感が増してきたわ……」


 キャリルとあたしのやり取りを見て、アイリスやニッキーは苦笑していた。


 結局第一ブロックはあたしの知らない高等部の先輩で、第二ブロックはライナスが制した。


 ニッキーの話によると、第一ブロックの勝者は広域魔法研究会の部員らしい。


 あたしとキャリルは会ったことが無かったけれど。


「無詠唱と環境魔力が使える奴が出てきたのは厄介だな」


「先手必勝にゃ! 見敵必殺サーチアンドデストロイにゃー!」


 カールとエリーがそんなことを話している。


「必殺って、殺しちゃだめですよー……」


 あたしは一応ツッコんでおいた。




 続く第三ブロックと第四ブロックの試合でも知った顔が出てきた。


 先ず第三ブロックは、観戦していると妙に動きがいい参加者がいることに気が付いた。


 防具は頭部も覆った頑丈そうな全身鎧(プレートアーマー)で、大きな身体で大剣をぶん回している。


「やっぱり出てきたな、あいつめ……」


「カール先輩の知り合いなんですか?」


 カールがため息交じりに告げたので、あたしは訊いてみた。


「スティーブン・クックだよ。筋肉競争部部長、と言った方が通りがいいだろう」


「え゛? ……あの人が?」


 スティーブンには以前謝罪されたことがあったんだよな。


 大剣ということは竜征流(ドラゴンビート)を使うのか。


 確かにどこかでみた事があるような動きだな。


「もしかしてスティーブン先輩はカール先輩の同門ですか?」


「そうだ。……今あいつは三年生だから、ここで何か実績を作っておきたいとでも考えたのかも知れん」


 そう言って第三ブロックの戦いを、カールは見入っていた。


 それよりもあたしは第四ブロックの方が気になっていた。


 何やらフード付きのロングコートを着込んで頭を隠し、目の部分を覆うマスクを装着して体術で戦っている生徒が居る。


「ええとキャリル、第四ブロックなんだけどさ……」


「そうですわね。動きでバレバレですわ」


「だよねえ。あのヌルヌルした独特の武器の往なしの時点で、いくら気配を抑えても関係者には分かるわよ」


 コソコソと地味に戦おうとするのは、ヌルヌル往なすカリオだった。


 王都南ダンジョンでのボス戦のときの話はコウからの情報も含めて聞いている。


 本来カリオは、振動波を敵に叩き込んで内臓とかをジュースに変えられるそうだ。


 そんな壊し技を試合で出せば死屍累々になる。


 そんなわけには行かないから、ああいう動きをしているんだろう。


 結局その後、第三ブロックはスティーブンが制し、第四ブロックはカリオが制した。


 『学院裏闘技場』の予選初日も終わり、あたしはようやく寮に戻った。


 いつもよりも若干遅れ気味だったけれど、姉さんたちと夕食を食べて自室に戻り作文を二本仕上げた。


 仕上げた作文は【収納(ストレージ)】に仕舞ったので、いつでも提出できるようになったからあたしは安心した。


 日課に関してはいつも通り行った後、時属性魔力を果物ナイフに纏わせて木の枝を切るトレーニングを行った。


 そういえば時属性魔力を試した結果については、キャリルに話して無いような気がする。


 思い出したら話そうと思いつつ、その前にソフィエンタから言われた通り学長先生に相談すべきかをあたしは考えていた。




 翌日、朝のホームルームで一日目の分の作文が回収された。


 忘れた人は明日朝二日分を提出すればいいらしいけど、あたしは隙が無かった。


 そしてみんなで今日の午前の試合会場に移動し、日向ぼっこをしながらのんびりと三本目以降の作文の下書きを仕上げ、時々試合を観察したりした。


 二日目の午前はプレートボール女子代表の試合で、セデスルシス学園との対戦だ。


 どうやら我が校が優勢なようだったけど、昨日と同じく早めに売店にお昼を買いに行った。


 今日は別の売店でバゲットサンドセットを買ってみたが、店員のオバさんによれば普段はセデスルシス学園の食堂で営業しているそうだ。


「野菜がおいしいっていう初日のオバさんの話を確かめなきゃな……」


 そんなことを呟きつつ、あたしは観客席に戻る。


 試合の方は無事に我が校の女子代表が勝利し、その後あたしたちは昨日と同じくイエナ姉さんたちとお昼を食べた。


 続く午後の試合も平和に過ごし、プレートボールの全試合が終わるまでにあたしは全ての作文の下書きを終えた。


 試合結果については、午後の第一試合が学院男子代表とボーハーブレア学園の試合で我が校が勝ち、午後の第二試合で女子もボーハーブレア学園に勝利していた。


「今日も『学院裏闘技場』の予選を観に行く?」


「行った方がいいと思いますわ。おおよその対戦者のレベルを把握しておくのは重要でしょう」


 あまり乗り気でないあたしだったが、キャリルに半ば引きずられるようにして部活用の屋外訓練場に足を運んだ。


 観客席で委員会のみんなに合流し、程なく始まった予選を観戦する。


 まずは第五ブロックと第六ブロックの試合だ。


 ここでも知った顔が大暴れしていた。


「ライゾウ先輩じゃない……」


「すごい勢いで他の参加者を投げ捨ててますわね」


 第五ブロックには素手で戦うライゾウの姿があった。


 鎧組討とか言ったか、魔力操作を併用した体術で危なげなく戦っていた。


「何、第五ブロックで投げまくってるのはウィンちゃんの知ってる人?」


「ここから見る限りでは、集団舞踏の一種に見えてくるくらい鮮やかだね」


 アイリスとジェイクがそう告げる。


 武器を持っていようがいまいが、あれだけぽいぽい投げ技を派手に決めていたらジェイクの言葉にも納得してしまう。


「いちおう知合いです。このまえ狩猟部に紹介したんですが、マホロバからの留学生です。体術を使って賊を狩ったことがあるとか言ってました」


 あたしはアイリスに応えると、狩猟部に所属するカールが口を開く。


「ライゾウ君だな。僕もこの前本人と話した。体術の腕前を見るのは初めてだが、部活では正確な弓を披露してくれたな。先祖にハイオーガの血が混じってるとか言ってたが……」


「あの様子を見ると納得だねえ」


 ライゾウの暴れっぷりに見入っているカールにエルヴィスが告げた。


「どうにも今年は支援魔法がカギになりそうね」


「ぼくが敵の能力を低下させますが、ニッキー先輩も状況を見てお願いします」


 すでに対抗策を練り始めたのか、ニッキーとジェイクがそんな話を始めた。


 やがて試合は終わり、第五ブロックはライゾウが残り、第六ブロックは上半身裸で素手の男子が残った。


 第六ブロックの選手はニッキーの同学年で、筋肉競争部に所属する生徒らしい。


 無詠唱とディンルーク流体術を使うとのことだった。




 続いて予選最後となる第七ブロックと第八ブロックの試合が始まった。


 異変は試合直後に起きた。


 観客席まで距離があるというのに、強烈な吠え声があたしの鼓膜を叩く。


「おおぉおおおオオオおおぉおぉおおぉおおオオオオ!!」


 同時にあたしの気配察知でも異様な状態が示されていた。


 強いて言えば、森の中で大型の魔獣でも見つけたような凶暴な存在の主張というか。


 その声の主はマクスだった。


「……なんだ、あの魔力の集中はっ!!」


 最初に絞り出すようにそう告げたのは、席から腰を上げて呆然と視線を送るジェイクだった。


「魔力の集中……。そうね、ちょっとアレは普通の状態じゃ無いわ」


 呻くようにニッキーが言葉にするが、その間にもマクスは移動を開始していた。


 本能的な部分で脅威を覚えたのか、彼と同じ第八ブロックの選手全員がマクスに視線を向けていた。


 だがマクスはそれに臆するでもなく、最寄りの選手に直線的な動きで襲い掛かり手を振るう。


 それは見た目にはただの張り手だったが、避けようとした選手に掠っただけで相手をそのままコマのように回転させて吹っ飛ばした。


 相手のダメージを確認するでもなくマクスは動き続け、他の選手を一撃のもとに吹っ飛ばしていく。


 やがて数分のうちに同じブロックの選手を倒し終えて立ち止まり、マクスは狂ったように笑い始めた。


「ぎゃはははははっ。ぎゃーっはははははははっ。ぎゃはっぎゃははははははは――」


 観客席に居る者は、ただ茫然として彼の様子に釘付けになった。



挿絵(By みてみん)

ライナスイメージ画(aipictors使用)




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