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05.状態異常の一種だから


 風紀委員会で『笑い杖』の話が出た翌日、闇曜日で今日は学院が休みだ。


 あたしはゆっくり目に起き出して、朝食を食べずに寮を出発した。


 ダンジョン行きの仲間内で話してあった通り、キャリルとレノックス様とコウとで屋台巡りをするためだ。


 身体強化して気配遮断し王都を走って移動すると、すぐに待ち合わせ場所の小さな公園に着いた。


 商業地区の中にある公園だが、約束の時間には少し早かったかもしれない。


 まだ誰も来る様子も無いので、念のため周囲の気配を探って異常が無いことを確認する。


 そうして空いているベンチに座り、日向ぼっこをはじめた。


 その上で【状態(ステータス)】の魔法を使って、“役割”を切替えたりしながら使えそうなスキルが無いかを色々調べてみる。


 現時点のあたしでも覚えられるスキルの中に、罠士という“役割”で『危地察知』というものがあるのに気づく。


「なになに……。『危険地帯や罠を仕掛けるのに向く場所を見出す』か。ミスティモントでは父さんと結構ワナも仕掛けたからなぁ。一応有効化しておくか」


 以前ソフィエンタからは、スキルに関しては有効化しすぎると管理が雑になると言われた気がする。


「スキルかぁ。別にスキルが無くても家事が出来たりするし、必須では無いんだよな。……何というか便利なのかも知れないけど、スキルが無くても出来るようになったら有効化を切ってもいいのかな」


 そこまで思い立って公園の樹木に目が留まり、ソフィエンタ(本体)に少し相談してみようとあたしは目を閉じた。


「ソフィエンタ、一瞬だけいいかしら?」


「どうしたのウィン?」


 すぐに念話で応答があった。


「スキルのことなんだけどね、スキルが無くても出来るようなことは、有効化を切ってしまっても問題無いのかしら?」


「構わないと思うわよ。そうね――世の中には“スキルを無効化するスキル”なんてのもあるし、覚えてしまったことはとっとと頼らないようにした方がいいかも知れないわ」


 いまサラッとソフィエンタが重要なことを言った気がする。


「ちょっと待って、そんな面倒なスキルがあるの?」


「あるわよ。前に言わなかったかしら、時間とか寿命とかの制限はあるけどあなたの世界は大抵のことは実現できるって」


「そ、そうなんだ……」


 じゃあ、スキル頼りで生活すると、いつかしっぺ返しが来るかも知れないのか。


「『能力無効化』はあまり一般的なスキルでは無いけど、戦闘を行う人は気を付けた方がいいわね」


「了解よ。……もし無効化されたらどうすればいいの?」


「状態異常の一種だから、教会に行って神々に祈れば誰かが対応するわよ。ウィンの場合は邪神群対応のこともあるし、教会で無くてもあたしに言えば対処します」


「分かった。そのときはお願いするわ。――他は大丈夫よ、ありがとう」


「はーい」


 その後もしばらくステータスを確認しているとコウが現れた。




「やあウィン、待ったかい?」


「こんにちはコウ。ちょっとあたしが早めに着いちゃっただけよ。いま自分のステータスを確認してたの」


「そうなんだ」


「うん。ところでコウ、あなた“スキルを無効化するスキル”の噂って聞いたこと無いかしら?」


「え、何だいそれ?!」


 どうやらコウは知らなかったらしい。


 結構びっくりしているな。


「あまり一般的ではないらしいけど、『能力無効化』っていうスキルがあって、他人のスキルを無効化する状態異常を起こせるらしいの」


「初耳だよ。ウィンはそれを持っているのかい?」


「無いわよ。あくまで人づてに聞いただけ」


「ウィン、コウ、こんにちはですの」


「よう、遅くなった」


 あたしとコウが話し込んでいるところにキャリルとレノックス様が現れた。


 少し前から明らかに気配をごまかしているような連中が近くに現れていたが、レノックス様の警護をしている暗部の人たちだったようだ。


「コウはどうしたんですの、そんなにとまどった顔をして」


「ああ、いまウィンから“スキルを無効化するスキル”があるって話を聞いたんだ」


「それはわたくしも初耳ですわ?!」


「そうか? オレは家庭教師から以前聞いたことがあるから、意外と知られている話と思っていたんだが」


 キャリルは驚いている様子だったが、レノックス様は知っていたか。


 まあ、王族の家庭教師なら注意喚起で色々な情報を教え込んでいそうだ。


「あくまでも状態異常みたいなものだから、王立国教会の連中なら治せるらしい。それに、スキルに頼らない技能を普段から磨いておけば、問題無い話であるようだ」


 レノックス様の言葉を聞いて、キャリルとコウは何やら考えている様子だった。


「それでどうする? ――まずは屋台から行くか? それとも探し物があるならそちらからでも構わんぞ」


「あたしは朝食を食べて無いから、まずは何か口に入れたいわ」


 レノックス様の言葉にあたしは応える。


 それを聞いたキャリルが声を上げた。


「そういうことなら、まずはクレープの屋台に参りましょう!」


「はい! 賛成!」


 コウとレノックス様はあたし達の様子を見て笑っていた。




 屋台巡りの合間に幾つかの店に立ち寄り、あたしたちは商業地区を散策していた。


 そろそろどこかの喫茶店にでも入ろうかなどと話していたところ、歩いていた路地の進行方向で何やら罵声が飛び交っていた。


「ふっっっずぁけんなっっっくるるるぁぁあああ?! 何度目だと思ってるんだおぉぉぉおおお?!」


「なんだと?! てめぇこそ何度目だっっっおおおっっっ?! キレた振りして顔芸しながら自己紹介かっっっ?!」


 何やら揉め事のようだが、男二人が言い合いをしている。


 武装などはしておらず、それぞれの服装から男たちは商人であるようだった。


「何なのよアレ、喧嘩でも始めるのかしら?」


「かなり派手に言い合いをしておりますわね。わたくしが仲裁に入りましょうか?」


 見かねたキャリルがそんなことを言いだすが、その声が耳に入ったのか直ぐ脇の野菜の露店のお婆さんから声が掛かった。


「やめときなお嬢ちゃんたち、あの二人はいつものことなんだ。ありゃ片方が酒屋で、もう片方が酒屋に卸してる商人だ。関わるだけ時間のムダだよ」


「そうなんですか、お姐さん?」


 コウが露店のお婆さんにそう声を掛ける。


「なんだいお姐さんて。なかなか嬉しいことを言ってくれるじゃないか。……飴をやるよ、みんなでお食べ」


 そう言って露店のお婆さんはコウに飴を数個渡した。


「おおかた注文を間違えたか納品の数を間違えたか、そのレベルの話だよ。ほっときゃ収まるよ」


 したり顔でお婆さんは説明した。


「飴ありがとうございます! ……そういうことならスルーしましょうか」


「そうだな。殴り合うわけでも無いなら、放っておいていいだろう」


 だがレノックス様がそう言った次の瞬間、それまで罵声を掛け合っていた男たちが大声で笑い始めた。


「ぎゃーっっっふっあっあっ……、どあははははは!」


「なーに、ぐはははは、笑ってやがるんだっぷ、ふあはははは!」


「おめぇこそ、っくなにいきなり笑ってんだくるるるぷふぁあっははははっ」


「はなっぷ、ははは…話の途中、げははははっ……ひゅー、ひゅーっぷほぁ」


 それまでとは真逆の雰囲気に異様なものを感じ、通行人を含めてその場にいた者はみな、言い合っていた酒屋と商人に視線を向けた。


 まるで魔法でもかけられたかのように、いきなり彼らは笑いだした。


 その事実にあたしはつい先日話があった『笑い杖』のことを想起する。


「ええと、お姐さん。あれもいつもの流れなんですか?」


「いいや、……初めてだねえ。とうとう頭のネジでも何本かすっ飛んじまったのかねぇ」


 コウの問いに呆れたようにお婆さんは告げるが、狂ったように笑う男二人を見てその口元は緩んでいた。


 お婆さんの話を聞いた瞬間、あたしは誰かが『笑い杖』を使ったと判断した。


「みんなちょっといい? 詳しくは今は言えないけど、学院で所在不明になった魔道具がここで使われたかもしれない。あたしは予備風紀委員としてこれから追跡をするわ」


「追跡ならウィンに任せた方が良いですわね、分かりましたわ。武運を」


 そう言ってキャリルは拳を出してきたので、あたしはグータッチした。


「ウィン、まずは情報収集に徹しろ。強硬手段は最後でいいのだ」


 レノックス様は落ち着いた声色でそう言ってくれた。


「念のため、気配を消してボクも追うよウィン」


「コウ……」


 正直情報収集なら一人の方が身軽ではある。


 ただ、補佐役(バックアップ)が居るのは気楽ではあった。


「分かった。どのみちダンジョンでは連携のために、移動中に気配は多少残すわ。そのトレーニングも兼ねましょう」


「うん、それはいい考えだね」


 コウはそう言って頷いた。




 あたしは先ず【収納(ストレージ)】から黒ではない方のロングコートを取り出して羽織り、蒼月(そうげつ)蒼嘴(そうし)を取り出して装備する。


 次に【状態(ステータス)】の魔法で“役割”を『追跡者』に変更する。


 コウの方を見ると、愛刀の煌囀(こうてん)を腰に佩いている。


 あたしと視線が合うと、コウはひとつ頷いた。


「じゃあ、行ってくるわ」


 キャリルとレノックス様にそう告げてからあたしは内在魔力を循環させ、身体強化などを行ってから気配遮断を薄く掛けた。


 直後に『追跡者』に関連付く『痕跡察知』というスキルを発動させた。


 その効果は『現場の状況からその場で起きたことを把握する』というものだ。


 だがよくよく考えれば、狩人の仕事でも似たようなことはやっていたな、などと思う。


 そしてあたしは周囲を見渡す。


 そもそもいまあたし達が立っている地点は、商業地区の露店や店舗が立ち並ぶ路上だ。


 それを一方向から歩いてきたが、ここまで学院の生徒のような未成年は見かけていない。


 だからあたしたちとは逆方向からか、もしくは建物の中から魔道具が使われたのだろう。


 でも『痕跡察知』のスキルによるものか、建物の中から使われた可能性は今回は低いと勘のようなものが囁いた。


 同時に勘のようなものがあたしを促すので、以前精霊魔法使いを察知した時のように属性魔力という面から気配察知を行ってみた。


 すると非常に微かだが、あたしたちの前方から昏い闇属性魔力が微かに感じられた気がした。


 たしか『笑い杖』は闇属性魔法が元になった筈だ。


「たぶん見つけたわ」


 そう呟いて、あたしは路上を歩き始めた。



お読みいただきありがとうございます。




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