ドリームファンタジー
「なに読んでるの?」
「『アブレ』(アサルトブレイバー)だよ!」
昼休みの最中、同じクラスの友達である山田遥は結城日華へ声をかけた。
二人は小学生の頃からの友達だ。
『アニメと原作』が好きな趣味を共通している。
「面白い?」
「面白いよ。面白ついでに勉強したいから、こうして読んでるんだ!」
「勉強?」
「私、『小説を描こう』で投稿を始めたんだ!」
『小説を描こう』はネットで人気の小説投稿サイト。
今では様々な小説投稿サイトが増えた中で、『小説を描こう』はそれらを差し引いてユーザー数が一番多く、一番人気の小説投稿サイトといっても過言ではない。
『小説を描こう』が一番人気の小説投稿サイトである所以は、数々の名作を世に送り出して人気を勝ち取っているため。
結城日華が読んでいる小説『アブレ』は、『小説を描こう』を代表する作品の一つだ。
何の恩恵も与えられないまま異世界に召喚された主人公が、全力で過酷な世界に抗いながら世界を救う物語。
アニメ化して更に大ヒットし、2期や映画化までされた。
何年たった今でも、色おせない名作だ。
「なんで投稿しようと思ったのか、聞いていい?」
「私も、自分の考えた作品を創ってみたいって思ったんだ。
アニメや漫画、ラノベなどを見ていく内に、『作りたい』気持ちが抑えられなくなったの」
日華の回答を聞いて、遥は「ああ、なるほど」っと合点がいった。
日華は作品に夢を見ている。
『人は、自分が変えてくれた者に憧れる』。
あるキャラが私に教えてくれた言葉だ。
日華と同じように、数々の物語を見てきた人たちにも同じ思いを抱く人も多いと思う。
例えば、声優さんの声に憧れた人は、声優へなりたいと思うように。
例えば、日華と同じく作品に魅入られた者は、制作者の一人へなろうとしたり。
日華と同じ趣味を持つ遥は日華の気持ちがよく分かった。
「でも、必ずしもそうなれるとは限らないよ。
『小説を描こう』はユーザー数が一番多いから読んでくれる人は多いけど、
その分投稿する人も多いから、大半の作品は数のおおさに埋もれてしまうよ」
「そこはかなり大変だけどね。 でも、私だっていい物語を作りたいから、めげずに頑張るつもりだよ」
「頑張ってね。 時々読んでアドバイスを送ったりするから」
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あれから一年が経ち、私たちは中学3年生となった。
日華は今も投稿を続けている。
日々創作活動しつつ、勉強を頑張っている。
成績自体に悪影響はない。
さすがにテスト期間となれば、嫌でも執筆活動を一時休止しなければならないが、
日華は思いついたアイデアは紙に書きとめてたりしているらしい。
アイデアはとても重要だ。
作品をつくる上で絶対に欠かせないものだから。
「元気ないね。さすがに疲れてきてるでしょ?」
「それもそうだけど、中々上手くいかなくてね。
腕は確実に上達してきているけど、ポイントが入らなくて」
日華はここんところ元気がなくなってきていた。
基本的に創作活動は、制作者の精神を削って行われている。
そんなことを毎日続けていれば、元気がなくなるのは当たり前だ。
けど今回、日華の元気がない原因は承認欲求だった。
『もっと認めてほしい』、これは日華と同じ創作者問わず、誰もが通ずる本能そのものだ。
例えば、テストで100点満点とって、家族や友達から褒めてくれたら誰だって嬉しいと思う。
日華の作品を読みに来てくれる読者は少なからずいる。
ファンの一人である私を抜きにしても、日華の作品ファンは必ずいる。
暇つぶし、面白半分、もしくは作品に希望を見出して読みに来る読者はいるだろう。
どんな根拠であれ、読者は作品を読まずにはいられない。
何故なら、読者は物語好きの中毒者だから。
「何日もかけて描いてみたんだけど、どうかな?」
そう言って、私は日華にイラストを見せた。
描いたイラストは、日華が執筆いる小説の主要キャラたち。
異世界に転生した主人公とその仲間たちが、一緒に笑い合いながら楽しんでいるところを絵にしたイラスト。
私は小さい頃から絵を描くことが上手かった。
時より、日華の小説を読んで出てくるキャラたちをイラストとして描いてきた。
それを日華に見せて元気づけている。
「ありがとう遥!」
笑顔で嬉しそうに、日華はイラストを受け取った。
日華は私が描いたイラストを見て、いつも喜んでくれる。
日華にとって…いや、日華と同じく小説を書いている作者にとって、自分が考えたキャラをイラストにしてくれるのは大変嬉しいと思う。
日華にイラストを見せていく内に、このキャラはこうなどの意見を交えながらイラストを|描いていってる。
日華のキャラを書いていく内に、私はイラストを描いていくことが楽しく、更に好きになっていった。
今はイラストを描いて、日華とイラストや小説について話し合う時間が、一番楽しい。
◆
更に一年が経ち、私たちは高校生となった。
日華と遥は二人揃って同じ高校へ進学した。
「日華、最近調子はどう?」
「なにが?」
「小説のこと。ここんところ更新も修正もないから」
日華は何ヶ月も作品に手を付けていない。
高校に入って更に生活が忙しくなってきたこともあると思うけど、そんな理由で日華が創作活動を止めるわけがない。
日華と一緒に作品について語り合ってきた私には分かる。
どんなに忙しくても、創作活動を一時中止せざるえなくても、日華が創作活動を止めることはなかった。
時より休んだりした時もあったが、
好きなアニメを見たり、漫画と小説を読んだりして気分転換しながらインスピレーションは常におこなっていた。
そして、思いついたアイデアは即書き留めていたから。
日華が創作活動を止めるなんて、余程のことがあったとしか考えられない。
今日もいつも通り、日華は元気な笑顔をしているけど、元気な笑顔の裏腹にはどこか暗さがあるのを感じた。
「隠してても仕方ないか。
実を言うと、『小説を描こう』で私と読者が“求めているもの″は違うと気づいて落ち込んでいるんだ。
私の作品って、全て上位に入ってないじゃん? そう思って『描こう』とは少し距離を取っているんだ」
「ごめん。辛いことを言わせちゃって」
「いいよいいよ。遥かに話せて少し気が楽になったから。 私の方こそ、隠し事をしててごめん」
日華はスランプに陥っていた。
これは殆どの作者に共通すると思うが、『自分が描きたいもの』と『人が求めるもの』がすれ違うことはよくあると思う。
日華は『小説を描こう』で様々な異世界ものを執筆きた。
中には定番の『無双』や『TUEEEE』の要素を大売りにした作品もかいたりしたけど、一つも人気にはならなかった。
日華の文章と物語の構成は悪くないが、『小説を描こう』は一番人気の小説サイト。
人気となればその分ライバルも多いため、人気を勝ち取るのは余りにも難しい。
手っ取り早く人気になる方法はただ一つ、面白い作品を書き続けばいい。
どんな内容であれ、作品が面白ければ読者はその作品に手を付けられずにはいられない。
ただ、『面白いもの』は人によって違うため、作者が描いた面白い作品が読者に受けるかが難点だが。
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「それで、話ってなに?」
日華は遥に呼び出された為、遥の自室にやって来た。
高校で事前に会う約束を決め、休日の日に遥の家で会うことになった。
「日華はこれから先どうしたいの?」
「どうしたいって、具体的には?」
「小説のこと。 中学の時から小説を書き続けているけど、日華は自分の小説をどうしたいの?」
作品を作ることなら誰にだってできる。
小説は『小説を描こう』などの投稿サイトで書き続ければいいし、絵や漫画などは同人誌で描くなり、ネットにアップすればいい。
けど、私が日華の口から聞きたいのは『小説を執筆してどうしたいのか?』だ。
「……私は…」
「したいんでしょ? 自分の作品をアニメに」
「――!!」
私からの指摘が入ると、日華は腹をくくって大声で叫んだ。
「私は、自分の作品をアニメにしたい!!
勿論そのための努力は続けたいし、そのためなら頑張っていきたい!」
「やっと聞けた。日華の本当の気持ち」
私は席を立って日華をギュッと抱きしめた。
本心をやっと聞けて嬉しかったのか、抱きしめられずにはいられなかった。
抱きしめた途端、日華は泣き崩れてしまった。
私も日華が泣き出した途端、私も泣いてしまった。
□
「んで、これからどうするの? アニメ化するにはまず書籍化させなきゃいけないし、書籍化してもめっちゃ売れさせなきゃいけないよ?」
日華はそう言い出した。
日華は今のところネットで小説を書くだけの作家、いわゆる『アマチュア』だ。
まずは書籍化を目標として、一緒に作品を作ることとなった。
日華が原作で遥がイラストーレーターというコンビで、だ。
だけど今回の場合、作品の“原作″作りは二人で行うため、原作者は二人となる。
世に出た作家の中には二人で原作を創って作家もいるらしく、私たちのようなコンビも問題ないと思う。
「まずは期限までに作品を創るところから始めよう。まずはそこからだよ」
まずは作家デビューを果たすため、私たちは知恵を絞って意見を述べながら作品を一から生み出している。
一ヶ月が期限である“小説賞″に応募するために作品を創っているのだ。
基本、小説の応募は出版社のサイトからでも応募することは出来るけど、今では『小説を描こう』などの小説投稿サイトからでも小説を応募することが出来る。
私たちは『小説を描こう』で有名出版社である『フェニックス文庫』で行われている『新人賞』に応募することに決めた。
「じゃあ各自、面白い話を沢山描いて、その中で一番良いと思った物語を決めるけどそれでいいかな?」
「そうだね、じゃあそうしよう!」
こうして、私たちの意見は一致して、来週の休日にもう一度遥の家に集まることになった。
日華と遥も、自分が面白いと思った話を沢山生み出すため、自分との奮闘が始まった。
一週間が経って約束の日が訪れた。
日華と遥は自分の企画書を交換して各々が編み出した作品を読み進めていた。
日華は小説で沢山書いてきたが、遥は漫画で作品を書いていたのだ。
絵を描くのが上手い遥からすれば、漫画で描くことが手っ取り早くてやりやすいからだと日華は理解した。
お互いに相方が生み出した作品を全て読み終えて、“どれに決めるか″についての議論が始まった。
まずは、読み終えた物語でここが面白かったなど意見を述べながら、作品を次々と厳選して選び抜いて行った。
そして、お互いに一番良いと思った作品を選び抜き、二人が選び抜いた作品のどっちが良いかの議論し合った。
だが、いくら議論し合っても一番良い作品は決まらなかった。
二人が選び抜いた作品には欠点が少なく、どれも面白い。お互いに同じ意見だった。
厳選で蹴り落していった作品も同じだ。
作品を創る以上、どれが一番面白いかの議論や比較は毎回行われてたりもする。
だが、この作品が他の良い作品に劣っていたりしても、その作品には独自の面白さや個性はどの作品にも引けを取らないはずだ。
結論へ至れなかった日華と遥は最終的にこの答えにたどり着いた。
結局、作品作りは振り出しに戻っただけだった。
「どうしよう。このままじゃ、期限までに小説を応募できないよー!」
日華は悔しさの果てに喚きだしてしまった。
無理もない。今回の議論で応募する作品が決まることを楽しみにしていたのに、決まらならなかったから。
喚き出したいのは遥も同じだった。
遥も同じく、今回の結果を楽しみにしていたからだ。
遥が喚き出さないのは、どこか思い当たる節があったため。
この疑問を見逃してしまったら、いい話が書けなくなってしまう為、感情に身を投げることは出来なかった。
「ちょっといいかな?」
「ん? なに」
そう言って、遥は日華に提案した。
遥が日華に提案したのは、ダブル主人公のタッグを中心に行われるバトル作品を作ろうという案だった。
「私はそれで構わないけど一つ聞かせて、どうしてそうしようと思ったの?」
「私と日華が今日までに色々考えてきた作品を全て読んで議論してきたら薄っすらと見えてきたんだ。
その薄っすら見えてきたものが何かについて考えてやっと分かった。
ダブル主人公を題材とした作品が、私と日華が書ける最高の作品だって」
遥の理由を聞いて日華は納得し、遥の考えに賛同した。
中学の時、一緒に作品について語り合ってきたため、日華は遥を信じた。
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数週間経って、二人は『小説を描こう』で『フェニックス文庫』が開催した新人賞に、作品を応募した。
日華と遥が応募した作品は『リボレーションウィッチ』。
魔力が使える種族である『魔女』が存在する地球は、度々地球に混沌をもたらしてきた。
魔女は人型戦闘機『ロイド』をより非常識に操り、世界は戦争が度々行われていた。
そんな世界を終わらせようとする私立組織『シリウスビーイング』が、世界全土に反逆するSFバトルロボット作品。
その中に出てくる主人公はある日、『シリウスビーイング』のエースパイロット(もう一人の主人公)に助けられるところから物語は始まる。
日華が執筆して、遥は日華が書いた原作を監修しながら作られた作品だ。
▽
『リボレーションウィッチ』はフェニックス文庫小説賞で、優秀賞を受賞した。
斬新な設定がほどこされた世界観に、ダブル主人公の絆と共闘、そして強大な敵との激しい戦争を表現されたところが、出版社に評価されたらしい。
基本この作品は、一部のコアなファン向けに作られたようなものだが、いざふたを開けて中身を見てみれるとかなり引き込まれる。
バトル作品のため、戦闘描写は多めだけど、
各キャラクターたちの信念、決して勝てない敵に立ち向かう主人公たちの激しい戦いを描いたこの作品は、一目で読者の目を釘付けにする。
「やったよ遥! 私たちの作品が受かったんだよ!」
「うん。受からないと思っていたから、受かって嬉しい」
受賞された以上、『リボレーションウィッチ』は書籍化される。
日華と遥の作家デビューが決まった。
自分たちの作品が優秀賞を獲得したことを知った日華と遥は大はしゃぎするほどに嬉しかった。
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「ねえ、遥」
「なに?」
「改めて言うけどさ、遥って『漫画家』になりたいの?」
「!」
お菓子を食べて一息ついた日華は、改めて遥にそうたづねた。
日華が発した一言、遥は少し黙り込んだ。
「なんのこと?」
「前々から思っていたというか、段々気づいていってね。
遥って絵が上手いし、物語の構成についても詳しくて手際も良いから。
遥と一緒に作品を創っていく内に、徐々に感じていた違和感が確信に変わったから」
「――その通りだよ。 小学生の頃、漫画家を目指していた私はよく漫画を描いていたんだ」
「どうして諦めちゃったの? 遥の実力なら漫画家も夢じゃないのに」
「中学の時、漫画家の過酷すぎる職場を知ってしまって、『無理だ』と諦めたから。
漫画は基本“絵″を売りとしているから、いつもクオリティが高いものを描かなきゃいけない。
例え描けたとしても、連載を勝ち取らなきゃ意味がないし、勝ち取ったとしても、漫画が打ち切りになれば今までの苦労が水の泡だから」
遥から漫画家の過酷過ぎる現実を知らされて、遥が『漫画家』の夢を諦めた理由に納得した。
同じ創作者である日華には、遥の気持ちがよく分かったからだ。
日華が小説を書き始めた頃、下手過ぎる自分の文章力に苦悩していた思い出があったからだ。
「遥はまだ、夢を諦めてないよね?」
「諦めてなかったとしても、私には荷が重すぎるよ。 漫画家から逃げた私には目指す資格なんて」
「私が作家になれたのは、今日まで遥が協力してくれたから。
今度は私の番。遥が漫画家になるために、私も真剣に協力する。
だからもう一度だけ、漫画家に挑戦してみない?」
「――! うわああああああああ!」
日華の励ましに、遥は思わず泣きだしてしまった。
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あれから数年が経って、私たちは社会人となった。
『リボレーションウィッチ』は累計発行部数を500万部突破して、世界中で大ヒットを遂げた。
もうすぐ季節は冬から春に変わって、4月から『リボレーションウィッチ』の第二期が始まる。
日華の夢だった『アニメ化』が叶った。
遥は晴れて漫画家デビューを果たして、今では人気漫画家の仲間入りを果たしたらしい。
遥渾身の代表作は、
意外な展開に、漫画で表現された一つ一つの1ページが読者を引き込んでいく。
遥の代表作を読んだとき、私もこの作品に引き込まれた。
この作品には、遥がこれまで得てきた経験や知識を活かし、かなり磨きをかけることでいい作品に仕上げているのが伝わってくる。
そして、肝心な私だが。
私も、これまで積み重ねてきたものを全て活かし、渾身の一作を書き上げている。
何度も原稿を改稿をしたりプロットを書き上げて、ようやく出版されて重版がかかった。
地道だけど、コツコツ頑張っている。
夢が叶って今の私がここまでこれたのは、
遥が、支えてくれて、
未来に進ませてくれたから!!
最後までご観覧くれてありがとうございます。
やっぱ描くのをやめようと思いつつも、やると決めたからには、ここまで書いたからには『最後まで書き上げよう』と自らを奮い立たせ、最後まで書ききることができました。
プロットでは日華と遥はコンビ作家として活動し続けたままで終わる予定でしたが、
書き続けていく行く内に、二人は各々の道を歩んでいこうと思って別れさせました。
上記の通り、二人は離れていても電話でアドバイスしたり、時には一緒に遊んだりしています。
(設定上、遥はリボレーションウィッチのコミカライズを担当しています)
そして、この作品は『創作の向き合い』をコンセプトとして書いてみました。
自分と同じ創作者や創作しようと思う人たちの琴線に触れれば幸いです。