エピローグ
アリーナとハリベルの婚約解消が正式に決まった後、2ヶ月ほど後に改めてアリーナ・ディミルトンの婚約相手が発表された。
その相手は王弟、ラニエル・トリニティ公爵。
長く婚約者も妻も迎えなかった、王国唯一の公爵の婚約。
それも相手は、あのアリーナだという事で社交界の話題は持ちきりだった。
ハリベルが婚約解消後もしばらく未練がましくアリーナに近付こうとしていた事も周知されていて、相手が違えば、また元の形に戻るのでは? などと囁かれていた先の出来事だ。
数ヶ月、学園にも顔を出さず、侯爵家で引き篭もっていたと噂されているアリーナだが、実はトリニティ領に移動し、公爵領についての勉強を始めていた。
王家との縁談もそうではあるが、国唯一の公爵家の妻になる。
それは、令嬢達にとっても羨望や嫉妬の対象だった。
一方で男達の中には疑問を向けている者も多く居た。
王子がダメなら次は公爵、と。
そんなに魅力的な女性でもない、ローラ嬢の方がよっぽど……そんな風に。
「迎えに来たよ、アリーナ」
「ラニエル様」
侯爵邸に戻ってきていたアリーナをエスコートする為にラニエルがやってきた。
アリーナの銀色の長髪には金の髪飾り。
ドレスは薄い青と白を基調にした高級生地。
婚約指輪は、金と銀が並行して交わっているデザインだ。
ドレスも装飾品もすべてラニエルから贈られた物だった。
婚約者から、ここまで贈り物をされる事に不慣れだったアリーナは戸惑いながらも、とても嬉しく思っていた。
「行こうか、アリーナ」
「はい、ラニエル様」
ラニエルの装いも差し色に銀と赤を着け、アリーナの髪と瞳の色を纏っている。
今日、2人が出掛けていくのは国王主催のパーティーだった。
その影響で多くの貴族が王宮へ足を運んでいる。
臣籍降下したとはいえ、国王が今も大切にする王弟の婚約披露パーティーだと言われている。
パーティーの主役は、アリーナとラニエルだった。
「陛下主催のパーティーだなんて。しばらく社交界にも出ていなかったから緊張するわ」
「そうだね。でも、きっと素敵な日になるよ。みんな、本当のキミを知る事になる」
「ラニエル様……」
(愛と誓約の魔法は、それほど私への好意を遮断していたのかしら?)
名実共に愛の溢れたラニエルの目からの評価は少し大袈裟なのではないかとアリーナは思う。
「でも、王宮に行くとなると……殿下もいらっしゃるのよね。なんだか気まずいわ」
「あれから一度も会ってなかったからねぇ」
ハリベルは一度も断絶の魔法を破る事は出来なかった。
婚約解消については侯爵と陛下達のみで話し合いをして決めた。
アリーナの希望を聞いてない一点で、ハリベルが解消に異議を唱えていたらしいが、彼が態度を改めるチャンスはもう何度もあった。
改善しなかったのはハリベルなのだ。
それにラニエルに愛される日々を知ってしまったアリーナの心には、もうハリベルの元に戻る選択肢はなかった。
そうして王宮のパーティー会場へ、ラニエル公爵に手を引かれながらドレス姿のアリーナは入っていった。
「──ラニエル・トリニティ公爵! 並びにその婚約者、アリーナ・ディミルトン侯爵令嬢!」
高らかに名前を読み上げられるアリーナ達。
国王の計らいで、アリーナ達の入場は、国王と王妃の一つ前だ。
会場内には多くの貴族達が既に入っている。
否が応でも注目を浴びるアリーナ。
「大丈夫だよ、アリーナ」
「……はい。ラニエル様」
そして。
2人の入場に人々は感嘆の声を漏らした。
元より美形で有名だったトリニティ公爵。
そんな彼と見劣りする事のない美しさの侯爵令嬢。
魔法の影響を受けなくなったアリーナの姿に、かつて見下していた男達は息を呑んだ。
少なからず女達もだ。
それはアリーナが一人の女性として、しっかりと認められ、愛されている自信を得た影響もあるかもしれない。
かのトリニティ公の隣を歩ける女性。
ただ入場してきただけでアリーナは、その立場を確かなものにした。
国王と王妃の入場は、あえて遅らせられ、すぐにファーストダンスを始める為の音楽が奏でられ始めた。
「アリーナ。踊ろうか」
「はい。ラニエル様」
今夜のすべては2人を中心に用意されていた。
息のあったダンスを披露する2人を悔しそうに見ているのは、ハリベル王子だけではない。
魅力を制限されていたアリーナも、婚約者のいなかった公爵も、多くの者が自らのものにしたい、したかったという感情を抱かせた。
やがてファーストダンスが終わる……。
「……アリーナ!」
それを待って、ハリベルはアリーナとラニエルの元へ向かった。
今日、エスコートし、伴っていたローラを置いての行動だ。
「────」
「アリー、なっ!?」
ボヨン、と。ハリベルは柔らかい何かに弾かれた。
何度もハリベルを拒んできた断絶の結界だ。
思わぬ事に思わず、ハリベルはその場で尻餅をついた。
「……アリーナ。キミ、今日も結界を張っていたのかい?」
「は、はい。陛下やお父様達から一応そうするように、と。屋敷と違って殿下個人を拒絶する結界ですけど」
声も届けられるような距離。
けれど、けっして近付く事が許されない断絶の結界。
「あ、アリーナ……」
「ごきげんよう、王太子殿下。申し訳ございません。国王陛下に許可されましたので、本日も殿下を拒絶させていただきます。
この国の将来を担う人ですもの。
もはや、過去になった私などと関わる必要などございませんわ。
これは、その為の配慮でございます。
どうか貴方様の愛する恋人、ローラ・カーティス様とお幸せに。
お陰で私も真に愛する相手と出逢う事が出来ました。
……これからは、お、夫になるラニエル様と共に領地を守りながら、殿下の国をお支えしますわね?」
断絶の壁の向こうでアリーナとラニエルが愛おしげに微笑み合うのを、ハリベルは見ている事しか出来なかった。
ハリベルにとっては、最も見たくない、相手との光景だったが……もちろんアリーナはそんな事を気にする事はもうなかった。
こうして将来の公爵夫人、アリーナは幸せへの一歩を踏み出し始めたのだった。
これで完結です!
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※追記
2023年2月8日19時30分
異世界恋愛ジャンル、日間ランキング1位になる事が出来ました!
ご支援、本当にありがとうございます!
感想、誤字報告などもありがとうございます!
こういった固有スキルや魔法を持った主人公(主に令嬢?)をテーマにして、ちょこちょこお話を仕上げていく予定です。
今後もよろしくお願いします。
もうちょっとで完結間近で、只今構想中な、こちら↓もどうかよろしく!(宣伝)
※シリーズからも飛べます。
蛮族令嬢クリスティナ
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