やさしい村のぬいぐるみマーチ
おにぎり村には、さるがいました。
きまぐれで、ときどき、いたずらをします。
あるときは家が、火事で燃えてしまいました。
またあるときは、川の水がしょっぱくなってしまいました。
寒いから火をつけたのと、味にあきたからと上流で塩を流したからでした。
犯人はわかっています。さるです。
なぜ捕まえないのでしょうか?
それは、おにぎり村の人々が、みんな、やさしいからでした。
じぶんの家がボウボウと燃えていても、
「あたたかいのう」「新しい家を建てるかのう」
と、おじいさん。
川の水がしょっぱくなっていても、
「塩を買わずにすむのう」「おいしいですねえ」
と、おばあさん。
怪しいカブを売りにきました。
「1カブ30えんですよ。100カブどうですか?」
怪しいウサギのつぼを売りにきました。
「今年はウサギの年ですよ。ごりやくがありますよ」
怪しい男が言いました。
「オレオレ。久しぶりだね、おかあさん」
みんな、さるのことだとわかっているのに、さるが何をしようとも、ニコニコと笑顔で受けいれています。
さて、そんなおにぎり村ですが、ひとつルールがありました。
それは、もし戦争やケンカになったときは、じゃんけんで決めるということです。
ある日おばあさんのミエ子さんは、梅ぼしが食べたいなあと言いました。
それを聞いたぬいぐるみのかに、かにぃは、友達のぬいぐるみのくまに相談しました。
くまは、知っていました。村から見えるあの「おむすび山」に、おいしい梅があるらしいよ、とりに行こうか?
それはいいね、よし行こう。でも入れものがないね、誰か持っていないかな?
ワクワクしながら言っていると「私も行くわ」と人形のジェニーが、グッチのバッグを持っていっしょに行くことにしました。
かにぃと、くまと、ジェニーは、おむすび山につきました。
白いごはんに包まれて、ところどころにのりがついています。
梅はどこだろう? 中にあるのかな?
よく見ると、山は大きなのりに巻かれていました。
「よし、のりをはがしてみよー!」
「ちぇけらっちょ!」
のりのりでくまは、のりをはがしにかかります。ですが、こびりついていて、なかなかとれません。
「くまさんの手は丸いから、とりにくいんだよ。ぼくが切ってあげる」
かにぃは、すきまからはさみの手をさしこみ、チョキン! と、のりを切りました。
それをすかさずひっぺがしたのは、どこで見ていたのか、さるでした。
すばやいさるは、のりをはがした後、ぽっかりとあいた穴のなかにある、梅の実を見つけました。
「いただくぜ!」
さるは奪いました。
そして、去りました。「さる~~~!」
かにぃは、なきました。
くまは、さるに勝負をもうしこむことにしました。「じゃんけんだ!」
ところが、くまはグーしか出せません。ジェニーは、パーしか出せません。かにぃは、はさみしか出せませんでした。ぬいぐるみだからです。さるは、どれでも出せるうえに、梅の実をいっぱいつくろうと、おむすび山を工場にするけいかくをたてました。
「何ができるじゃろうかのう」「何でしょうねえ」
村の人々は、笑いながらみています。
100年がたちました。
おにぎり村は、「さるかに市」になりました。
おむすび山は、モンブランファクトリーに。おとなりだった、おやつ国がじゃんけんで勝ってつくったのです。「しかたないなあ」と市長は、ゆずりました。
さるが千ひき、かにが千ひき、住んでいます。
空に大王があらわれました。
さるかに市をおちゃづけ天国にしたかったのです。
かにぃは勝負をいどみました。じゃんけんです。パーを出した大王は負けました。
「そんなルール、われは知ったことか!」
大王は怒り、ミサイルを撃ちました。
市民はポチっと迎撃し、大王は返りうちにあってほろびました。
「ルールは守りましょうね」
おじいさんとおばあさんとミエ子さんは、笑いながら、楽しそうに言いました。
「おばあさんおばあさん」「何だい? かにぃ」
「はさみが破れてしまったよ」「おやおや、縫ってあげようね」
かにぃをつくり続けて数百年。かにぃ30640号は言いました。
「ぼくらは何でできているの?」
「綿だね」
「さるは何でできているの?」
「骨と肉、ぞうきだね」
「どうして違うの?」
「それは……」
おばあさんの目がキラリと光りました。
それを近くで見ていたおじいさんの目から、涙がこぼれました。
異次元からみていたミソシルは、「アトダシダ!」とけいかくをねりました。
みんな、どうしてそっとしてくれないのでしょう?
ミエ子さんはお茶をすすりながら、えんがわで、青空をみています。
さるかにがっ、千っ!
読了ありがとうございました。
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2023年もよろしくお願いいたします。