女騎士は王へチェックメイトと告げる 〜陛下、もう逃がしはいたしません〜
とある女騎士ととある国王の決闘を、国王の側近たちが固唾を飲んで見守っていた。
本来、一国の王が決闘などしてはならないものである。だがこれは決闘と言っても血生臭い力と力のぶつかり合いなどではないので許されていた。
では一体何の決闘なのか。それはズバリ、チェスでの真剣勝負である。
女騎士セリアはメデス・ミュリオ・アーン国王の幼馴染。
元々伯爵令嬢だったが、政略結婚のために婚約させられそうになったところを逃げ出し、騎士団に飛び込んだことで有名だ。身分より自由を選んだ女として、多くの令嬢たちから羨ましがられている。
一方で国王メデスは無愛想でかつて『氷の王子』の異名を持っていた男。
幼馴染のセリアにすら笑顔を見せたことがないのはこちらも有名な話である。おまけにいつまで経っても結婚相手を選ぼうとしないので側近たちの頭を悩ませていた。
チェス盤の上での戦闘は白熱している。
さすがに何年もチェスをやり合っていただけあって、セリアもメデスもなかなかに上手い。一歩間違えば負け、そんな戦いが繰り広げられていた。
両者の実力は五分五分だった。だからこそ、側近たちはハラハラしながら観戦しているのだ。――セリアが勝ちますようにと、祈って。
直後、彼らの願いが届いたのだろうか、女騎士がニヤリと口角を吊り上げた。
彼女がこうした時は大抵勝ち筋が見えた時だ。それを知っている国王の顔が僅かに歪んだのを、側近一同は見逃さない。
そして盤上に変化が生まれ始めた。
メデスのポーンが全てセリアの駒によって喰らい尽くされていき、続いてはナイトやビショップを抑えられる。
それからはあれよあれよという間にルークを奪われ、メデスのキングは裸の王様状態になった。
「チェックメイトです、陛下」
最後まで残っていたキングさえもセリアのクイーンに囚われてしまっては、メデスは投降するしかない。
その投降を見て女騎士は安堵の息を漏らし……それから美しく微笑んだ。
「決闘は私の勝ち。つまりどういうことか、わかりますよね? ――私、十年以上も待ったのです。もう逃がしはいたしません」
側近たちが歓喜し、拍手が巻き起こる。
これが一体何の決闘だったのか。
そんなのは決まっている。女騎士セリアの求婚を、国王メデスが受け入れるかどうか。その、人生を賭けた大一番であった。
そしてそれに敗したメデスにはもう逃げ道はない。
彼は諦めたような、それでいてどこか嬉しげに目を細め、笑ったのだった。