女性解放戦線
「その当て擦りを行う人達が女性解放戦線。そして、組織の名前は『新しい太陽』。ハイネさんは、その組織の一員という訳」
「そういう訳でミス大郷司、私と一緒に来てもらうわ――それから、この気に食わない建物もついでに消させてもらうから、オーケー?」
この建物も消す?――。
何の冗談?…。新任教師が女性解放運動家で、万千を舞踏会に誘いに来たうえ、ここを消す?――。
要するに万千を人質に、この建物を破壊するって事なの?
冗談にしては笑えない。が、環は冗談を言わない。それじゃあ本当なの?
環。彼女は一体。この女性と、どんな関係が?環も組織の一員なの?一緒に居るには理由が有る筈。
環は女性解放なんて柄じゃない。
それ自体を無駄だと嘲笑う程だ。彼女に限ってそれは無い。筈――。
女性解放運動組織『新しい太陽』――誘拐、破壊活動などの実力行使に、手段を選ばないやり方。
それが本当なら、私が知っているものとはまったく違う。聞いた事も無い、そんな過激な女性解放運動。もとい女性解放戦線。所謂ウーマンリブ。
私が見たウーマンリブは、本だった――その雑誌の名は『乙女画報』。
ウーマンリブのプロパガンダとは知らず、女学生の間でそれは流行り、もちろん私も例外ではなかった。
モダンな挿絵にハイカラな脚色は、乙女達の心を打ち、デモクラシーの幻想にロマンを馳せらせた。
今と真逆な思想のそれを、女学校が認める筈も無く、読む事はもちろん、その話さえ禁止されていた。
しかし、それを堂々と教室で読んでいた人物を私は今思い出した。
他ならぬ環だった。
「ところで、舞踏会は本当にあるのかしら?わたくし、そろそろ家に帰らなくては」
貴女は話を聞いていたのか?それに、舞踏会に行く気なのか。
「それもこれも、全て本当よ。残念だけど、今は家に帰れないわ。舞踏会が始まってしまう」
「ですから、わたくしは――」
「そんなこと言って、万千を人質に連れて行き、ここを壊すのでしょ?何でこんな事をするの?もっと何か有るでしょ、やり方とか場所とか」
「――簡単な事、女学校に勤労動員など必要ない。それだけの事。その為にこの建物を消す。文字通り、貴女等は『解放』される。それだけの事」
「舞踏会は?万千をどうするの?」
「おとめ。ハイネさんを信じて。大郷司さんには何もしないわ」
環――。
「わたくし、まだ行くとは言ってなくってよ。考えさせてちょうだい」
呑気な万千とは裏腹に、物事を悠長に考えている時間は私達に残ってはいなかった。