彼女
彼女は、目に入る全てが気に食わなかったのだろう。
きっと、デモクラシーでさえ、彼女にとっては鼻に付き、女性解放運動を鼻で笑っていた。
だからこそ私は、環を――。
「さぁ、どうしたの?おとめ(通称)。続きは?少しは根性見せてみなさい」
やれやれと私から手を離した万千は、手の甲を返し、『何もしていない』と強調していた。
まったく、はかまが開けてしまった。これなら着直した方がはやいかもしれない。
「ごきげんよう。環さん。今日はどうなさったの?学年首席で裁縫もお得意の貴女が春休みにも登校とは、よほどお暇でらっしゃるのね。わたくしは――」
「――環、丁度良かった。港にサーカスが来ているらしいのよ。このあと見に行きましょう」
「まぁ珍しい。わたくしも行っても良くってよ」
「万千は誘ってないだろ――どうしてもっていうなら、クルマ出してよ」
「わたくしに指図するつもり?貴女なんて――」
「黙りなさい、おとめ!まったく、虫唾が走る程陽気ね。デモクラシーに浮かされて――女性が力に屈しては世話無いわ。そうは思わなくて?おとめ」
「環らしいね。もしかして、期待しているの?デモクラシーを――それとも戦争に?」
「もしそれで生まれ変われるならそれも良いわ。全てを焼き尽くし、秩序が入れ替わればね――しかし、それは100年も前から繰り返して何も変わっていないわ。変化を求めるなら革命が必要だわ。それがたとえ、藁にもすがる事でも」
環の言いたい事は分からなくはない。しかし、正しいとは言い難いことだった。だからか、それを正当化し様という環の言い草には無性に腹も立つ。
「それは今の女性のこと?それとも環のこと?」
「――皮肉ね。少し傷ついたわ」
「――っ。ごめん…」
「わたくしには良く解らないけど、お二人とも苦労なさっているのね」
まったく、世の中暴力では解決出来ない問題もあることを、万千は知らないのか。
「――感傷に浸るわ、ほっといてちょうだい。大丈夫、貴女と分かち合おうとは思はないから」
そう言うと、環は窓辺から外を眺めた。いつもの退屈そうな顔ではなく、何か、物思う様な顔で。
「彼女、おかしくてはなくて?」
万千に言われなくとも、おかしいなんていつものことだ。が、今日の環は不思議と不自然に普通だった。
いつもなら『裁縫なんて、負け犬のする事よ』位言うだろうし、そういう女性らしい類のことを彼女は嫌っていた。
まるで呆気ない程だ。