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おとめの夜あけ  作者: 合川明日
♯1 乙女のおとめ
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 そんな万千まちではあったが、彼女もまた、私と同じ補習ほしゅうの一人だった。


 と言っても、私をふくめ二人だけである。


 おかげで二人きりに――二人きりになるのは何時いつ以来いらいか…。


 私の目の前にすわる万千は、いかりをあらわにふるえていた――。


 震えるゆびにぎられたそれは、およそ彼女にはつかわしくなく、まるで彼女の体がそれをこばんでいるかのようだった。


 どうやらいと針穴はりあなとおらないらしい。


 そのふとたくましい指では針に糸を通すのも一苦労ひとくろうだろう。今にも針がれそうだ。


 私も万千も、裁縫さいほう苦手にがてきらいだった。


 それに私は、裁縫を女性の仕事と強制きょうせいされることがいやだった。


 しかし『今』の空気は、尚更なおさら女性だからとそれをゆるさず、女性のあるべき姿すがたを私達にもとめ、それはいかに万千でも例外れいがいではなかった。


「ねぇ万千、知っている?あのうわさ――」


 針と糸に苦戦くせんしている万千は、私に一瞥いちべつもくれない。


「どの様な噂かぞんじませんが、わたくしが知らないであろう事を、貴女きじょ(アナタ)ごときが知っていて?」


 万千は持っていた針をちからづより下ろし、針刺はりさしへふか々とさしした。


「それもそうね、邪魔じゃまをしてごめんなさい。噂なんて興味きょうみ無いわよね、してや勤労動員きんろうどういんについてなんて――」


「気にもならないですわね――ですが、貴女きじょがどうしてもとおっしゃるのなら、聞かなくてもなくってよ。まったく、鬱陶うっとうしいですわね」


 まったく、ひねくれているのか素直すなおなのか、ただ会話かいわだけではらが立つ。


 しかし、ここでってもいいことはない。それならお言葉に甘えさせてもらおう。


「そりゃどうも――私が聞いた噂は、とある女学校についてよ。私も何処どこの女学校とまでは知らないけど、こればかりはいくら万千でも、どうにも出来ないわね」


「それで?一体何がわたくしにも、どうにも出来ないとおっしゃるの?」


「その前に、勤労動員が全国的に女学校で行われている事は知ってる?」


「あら、そうでしたの?それはぞんじませんでしたわ。てっきり、わたくし達だけの奉仕ほうし作業さぎょうかと」


「そう。でも問題は、全国的に一体何をさせているか――私達はたまたまかるい裁縫程度(ていど)のことかもしれないけど、噂の女学校は他とは違っていたのよ」


 万千にまじまじと見つめられ、私は目をらした。


「万千は私達が何のために裁縫をしているか知っている?」


「そんなの社会奉仕のためでしょう。何を勿体もったいぶっているの、早く教えなさい。その女学校のことを――」


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