OZ
「今日は貴女に会えて良かったわ。直ぐにでも貴女を迎えに来たいところだけど、上の判断を仰ぐ必要もあってね。近いうちにまた会いましょう、小さな魔女さん」
私の耳元でそう言うと、女性はクルマへ乗り込もうとした。
おかげで私は我に返った。興奮に近い緊張は、私の体を微かに震わせ、それはこの女性が、その答えを知っているかもしれないからだった――。
「待って!――貴女は環をどうするつもり?」
女性は、クルマに乗りかけた所で止まった。正直、環の事など今はどうでも良かった。唯引き留めたく、不意に出た言葉だった。
しかし、おかげで女性はクルマに乗るのを止め、私の方へ向き直りドアを閉めた。
「私にどうして欲しい?――環が貴女にとっての人質なら、貴女はどうする?」
「分からない。分からないけど、貴女は知っているの?……」
「??」
彼女なら知っている筈。分かる筈。それは何故?――彼女は環の……、何だろう。
「……教えて――。貴女知っているのでしょう?環が行くのでしょう?」
「?。大丈夫?――一体何の事?」
「『オズ』――『オズ』の事よ!私は知っている。教えて…。知っているのでしょう?『オズ』の事を」
驚きながらも、笑みを浮かべる女性は、その真っ赤なドレスを翻した。
「私の国では『OZ』と書いていた――色々書き方があって、『O’s』と書いて『オズ』と読む所もあったわね」
指で書く素振りを見せたが、私が知りたいことはそんな事ではない。
「教えて。『オズ』とは一体何?何処にあるの?」
「私より、魔女である貴女の方が詳しいのではなくて?――私が教えてもらいたい位よ」
『マジョ』――。さっきも聞いた言葉だ。私を指しているのか?『オズ』と一体何の関係が…。
「その『マジョ』って、さっきから何を言っているの?『マジョ』とは一体何?」
「参ったわ。魔女も知らないなんて――そんな貴女が何故『OZ』を知っている?聞いてどうする?」
私は『オズ』へ行かなくてはいけない。その為には『オズ』を知らなくては――。
オズについて知っている人間は初めてだし、彼女は私以上に『わたし』を知っているだろう。
私の力はオズ関係がある筈、『マジョ』がそれなら私は知りたい。
――しかし何故だろう、今になって怖くなってき。それを知ってしまったら、私は私でいられるだろうか。
「解らない。だけど、『オズ』も『マジョ』も、環の事も、今を逃したら何処か遠くへ行ってしまいそうで…」
『オズ』――。消息不明の母から来た手紙には、『オズ』という言葉が…。
『オズ』へ向かうと書いてあった。『オズ』は唯一の手掛りだ。母の事も、私の、私を知る為に――。