オズ
「ミス大郷司は、快く引き受けてくれたわ。でしょう?」
「このわたくし、未だ政では負け無しでしてよ。大船、いいえ、戦艦にでも乗ったつもりでよろしくてよ」
馬鹿、何をまんまと乗せられているんだ。満更でもない顔をして。出航前に、既に酔っていてどうする。
煽られ、頼み込まれ、断り切れず安請合いしてしまったのだろう。相変わらずだ。
ところで、今更だが何故万千なのだろう。
彼女を人質に、身代金でもせしめる気か?にしても、あの浮かれ様に、舞踏会。ここまでする理由はなんだろうか。
この建物に用があるなら、別に万千は要らない筈。ならば目的は万千か…。
戦闘要員でも集めているのか?万千が一体何の役に立つのか。それに、環の言う『夢の国』とは一体?――。
外へ出ると、玄関前に一台のクルマが停まっていた。
クルマの前には、正装の老いた男性がこちらを向いて立っている。
「あれがそうでして?しかしあれは、かぼちゃでもなければ馬車でもない。クルマでしてよ」
「貴女には、モダンなものがお似合いかと――さぁ、お乗りになって。きっと気に入るわ。我々の街、いいえ、我々の『国』を」
『国』――。環もそう言っていた。これから向かうと…。女性街のことなのだろうか。唯の比喩か、目的か何かか。
運転手であろう男性は、クルマのドアを開け、万千は促されるがままクルマへ乗り込んで行く。
この雰囲気では私は置いて行かれるだろう。このまますごすごと行かせても良いものか。
流石に然うは問屋が卸さない。だから私は飛び出した――。
「環!最後に教えて。環は何処に向かっているの?――そこには私は行けないの?」
クルマに乗りかけていた環は、振り向き様に、私だけに聞こえる様に呟いた。
「私は『オズ』へ行くわ――」
『オズ』!? ――。
確かに環はそう言った――何故環は『オズ』を知っているの?『オズ』とは一体何なの?
「おとめ、明日の補習はお休みよ。だから、新学期にまた会いましょう――急ごう、ハイネさん。時間が無い」
正直、その後環が何を言ったか耳に届いていなかった。