マジョ
女性の笑いは、私達を我に返えらせた。
私の所為でおかしくなってしまったのか、不気味である。
「フフッ。魔法は存在した。こんな東洋の島国に魔女が居た――東洋の魔女…」
彼女は俯き、四つん這いのまま、何かを呟いていた。
『マジョ?――』
そう聞こえたが、意味は解らなかった。
女性は急に立ち上がり、やたら嬉しそうに、私をまじまじと見つめた。
「八乙女ツクス――環が選んだ人間」
ゴクッ――。あまりにも近距離に顔を近づけられ、覗き込んで来られ緊張してしまった。
外国人だからそう思うのか、いや、よくよく見ればかなりの美人で貴婦人だった。
っと。そんなことを考えていると、ガバっと、力強く肩を掴まれ、見つめられ、見つめ合い、離れるに離れられなかった。
徐々に近づく貴女の唇に、つい目を瞑り、唇を差し出してしまった私を一体誰が責めようか。
――!。柔らかいものが、頬を撫でた。
「これはただの挨拶――続きはまた今度にしましょう」
ハッ――。耳元での囁きに、一体何を期待してしまったのだろうと、頬を赤くしてしまった。顔が熱い。
「貴方達、わたくしのことをお忘れでなくて?――わたくし、やけてしまいますわ」
「あら、貴女とはお楽しみがまだ残っているわ。それを知ったら、もう戻れない――」
女性は万千に近づき、顔を耳元へ寄せた。何かを耳打ちする様に。
それだけだったが、見ているこっちが恥ずかしくなる。
「ゴホンッ。お邪魔でしたら、先に行きますか?――火がそこまで迫っていますよ」
鼓動が高鳴り、熱くなる。環も耐え切れなかったのだろう。
熱い筈だ。何処からともなく上る煙が、この二階の窓からも見えているのだ。
断じてその先を想像した訳ではない。
「フフ。なら、続きは外でしましょう――大事な貴女二人の顔に、傷がついてはいけない」
あえて何も言わない。一刻も早く、ここから出たいから。
「焼けるわ――一体誰と誰の事かしら…」
「何か仰いましたか?環さん。早く行ますわよ」
廊下へ出ると、火の手はまだ二階までは来てはいなかった。これなら外に逃げられると、ほっとした。
窓から見たそれとは異なり、まるで何事も無いかの様に、煙すら来ていなかった。人の気配も無く、静かなものだった。
人など居る訳が無い。春休みに補習だなんて私たち位なものだろう。
「貴女方、先に行って下さいな。わたくし、少々野暮用を思い出しましたわ」