呪文
私は死ぬの?――。
この状況に意味があるとすれば、それは、万千を助ける為ではなく、どうやら私を助ける為のものなのだろうか――。
私はまだ死にたくない。
今尚私が生きている理由。それは、この状況が、走馬灯を見ているからでも、断末魔を待っている訳でもなく、そう成るべくしてなったのだろう。
私にはその心当たりがある。無意識的にだが、それがこれだろう。なんとなく解っていた、それもこれもその所為だろうと。
そして、それを意図的に使うには今しかないだろう。
いや、この状況、使わざるおえない。
出来る事なら誰にも知られたくない。
祖母にも固く止められているし、何より、他人に利用されることが怖いからだ。それほど危険なものらしい。
私も詳しく知らないが、母からの手紙によると、それを使うには『呪文』が必要で、母曰わく「困った時に唱えよ」――と。
ならば、今がその時なのだろう。呪文は――。
「――チェスト!――」
私は女性へ向け呪文を唱えた。
その瞬間、時間の流れは元に戻り、空気に重さが無くなった。
同時に、彼女は後方へ吹き飛ばされ、私は万千に突き飛ばされた。
「――!?一体何が?」
万千も環も何が起こったのか理解出来ないでいた。
しかし、女性の握っていたものは、不発に終わったらしく、私が向こうまで飛ばしたのだろう、彼女はとても驚いている様子だった。
私は生きている。もちろん万千も。
使ったのは久しぶりだったが、取り敢えずうまくいった様だ。
とても疲れた。
長い時間が過ぎた様な。おまけにこれを使うと、貧血の様な、立ち眩みに似た感覚が来る。
何かしら私の体に影響が有るのかもしれない。
それは手紙に書いてあった事と何か関係があるのだろうか、それだけが心配だった。
――その場に居た全員が動けずにいた。一体何が起こったのか、理解でき無い様だった。
私でさえ説明出来ない事が起こったのだ。
それでも、けが人が出ずに済んで良かった。
「フフフッ…。フハハハハハッ!」