高揚
私は思わず、耳を塞ぎ、身を屈めた。何が起こったのか解らなかった。
しかし、それでも万千は微動だにせず、仁王立っていた。
ドレスの女性が握っているものからは煙が出ており、爆発の正体がそれだと分かった。
その爆発の反動からか、彼女は腕を仰け反らせ、尻餅をついていた。
「ハイネさん!!――」
私は一体何が起きたのか理解出来ずにいた。どうやら、この事態に環も驚いているらしい。
しかし、環の表情は驚きよりも――何とも言えない表情だった。
何事も無かった様に彼女は立ち上がり、真っ赤なドレスの埃を払うと、持っていた黒いそれを私、基、万千に向けた。
「イテテ、まいったわ。使うのは初めてで…。でもこれで理解したでしょう。これは所謂ピストル。え~とっ…、種子島?確か拳銃といったかな――ご覧の通り、これは女性でも簡単に人を殺せる道具よ。といっても、どうやら貴女は知っているらしいわね」
「ハイネさん、約束が――」
「言葉で説明するより解り易いわ。ねぇ?――ミス大郷司。最後よ。一緒に来てもらう。時間が無いわ、カボチャの馬車も待たせていることだし」
かぼちゃ?は分からないが、彼女の握っているものが、殺しの道具である事が分かった。そしてそれは万千へ向けられ、そんなもので脅してでも万千を連れて行きたいらしい。
そこまでして何故万千を――。
「誰が貴女の様な方と行きますか。わたくしを少し甘く見過ぎでしてよ。そのようなもので――なめるのもいい加減になさいあそばせですわ」
不味い、万千は頭に血が上っている。
彼女に力尽は逆効果だ。
そういった類を力でねじ伏せてきた自負がある。万千は引かない。しかし、相手が悪い。幾ら万千でもあれには勝てない――。
「これを見ても逆らわれるとは。無傷で、とは無理ね。悪いわね、環」
「やめて!大郷司さん!ほんの少し、付き合って欲しいだけなの!」
どちらも退かない、退けない様子だった。止めに入りたくとも足が竦み動けない。
しかし、このままだと万千が危ない!この女性ならやりかねない。どうすれば――。
「今度は当てるわ――引きずってでも連れて行く」
「わたくし、似た様な脅し文句を何度も聞いて来ましたが、ご婦人の口から聞くのは初めてですわ」
女性は真紅のドレスを翻し、それを両手で握り、万千へ向けた。
また尻餅をつかない様、身構えている所を見ると、本気でさっきと同じことをするつもりなのだろう。