本気
「キャ――ッ!?火事よ――!!」
血の気が引いた――叫び声は建物の外から聞こえ、誰の声かまでは解らなかったし、そのわざとらしさを気にしている余裕もなかった。
実際に火を見た訳ではなかったが、私はそれを信じ、この建物だと直感した。そしてその原因が彼女である事も――。
私は彼女の話を、『今』を、心の何処本気で捉えていなかったのだ――そして私は、私が置かれている状況を『今』理解した。
「バイロン!?まだ私達が中に居るのに…」
環と女性は、慌てて窓を開け、外を窺っていた。
私も覗き込むと、一階から煙が見えた。
私達の居る二階に火が回るにはまだ時間が有りそうだったが、直ぐに逃げないと逃げ遅れてしまうだろう。逃げられるなら…。
「私は?――私は殺す気?」
「漸く信じて貰えたかな。私の事、組織の事――貴女をこのような事に巻き込んでしまって申し訳ないが、今なら、まだ殺さずに済みそうだ。が、時間が無いな」
「キエ――!!火よ!火事よ!! ――貴女方、わたくしをどうするおつもり!?やはり舞踏会は嘘ね?」
万千も、事の重大さにやっと気が付いたようだ。
「落ち着いて大郷司さん、それは本当よ。舞踏会はあるわ――それより、話が違うわハイネさん!」
「いやですわ!わたくし。貴女等と心中だなんて!」
「ハハッ、それは心配ない。貴女等はもちろん、学校には何もしない。この勤労動員施設だけを消しに来た――それに、貴女を舞踏会に無事に送り届ける事が私の任務だった、が…。時間も無い。悪いが手荒に行かせてもらう」
そう言うと彼女は、真っ赤なドレスの、何処からともなく取り出したそれを万千へ向けた。
握られたそれは黒く鈍く光り、私はそれが何か解らなかった。
しかし、万千はそれを知っている様で、目付きが変わった。
「それは――何のおつもりですの?」
パ――ンッ!!
ガシャーン!!――それを握る彼女の指が動いたと思ったその時、何かが爆発し、万千の後ろにある窓の硝子が勢いよく割れたのだった。