24.大団円
丘の上へと辿り着く。
其処は篝火煌々と焚き、皆が手拍子足拍子。異国情緒も沢山に、二十人から輪に為って祭り宛如らに踊って居る。男子は激しく娘子は婀娜に熱気を帯びて渦に巻く。
あら、一緒に来た騎士らも走って参加しに行っちゃった。こいつらお祭り大好き族か。
「うわー」
あたしらの知らない言葉で大合唱。
輪の中心には、あの春の女神さま色っぽいよ。
パートナーは黒髪お兄さん。ちくしょう美男美女で絵になるなー。
手も繋がないペアの踊りなのに、なんであんなに艶めかしいのよ変じゃない?
そうか! 目だ! ずっと何時もお互い見交わしてる。ターンで相手が視野から消えるときも、躰が向き合う前に視線が絡み合う。なんであんな息ぴったりなわけ?
横で踊ってる弟ちゃん達、身振りは同じなのに、なんで彼様に可愛いわけ?
いや、それよりお坊さま、なんで燭台持って踊ってんの?
更にそれより一番の不思議は奥方様と顔そっくりな女の子、半裸の銀髪美青年に絡んで髪振り乱し、妊婦な姫様の三倍くらい激しい仕草で踊ってる。あれって奥方様の四つ歳下の妹姫でしょ? なんでルキア嬢ちゃんは未か、あたしより若いっぽいわけ?
ちょっと許せん気がするわ。
お猿が目で「そんな事より、なんで銀髪くん裸なのかツッコめ!」と言ってる気がしてるが、敢えて無視する尻娘。
何より、少し離れたところに所在なさげに立っている白髪の美丈夫が、人間として明らかに背が高すぎるだろうに、誰ひとり訝しむ気配もない。先刻から皆な狐に摘ままれ過ぎて感性が鈍麻しているのだろうか。否、それとも最初に口にした者が何やら人身御供にでも被れそな空気を敏に読んで揃って目を逸らして居るのだろうか。
◇ ◇
輪の中からお坊さまが出てくる。
さすがに息が切れてる。
「お城燃えちゃったのにー、なんで皆さんご機嫌?」
「塵は塵に、灰は灰に。闇の中に在る可き物は闇の中へ、じゃ。落ち着く処へ落ち着いた。此処は既う詮索やめて皆で踊って終いにしようぞ」
ヤケでハイなんだろか?
「教会がそれで宜しいなら有難いことで御座いますわい」と、じいちゃん。
「あ、紹介するねー。えーと・・」
「座下。マルコ・スパダネーロと申します。エリツェの市警を束ねて居り申す」
出る幕なかった。
「アサドじゃ。この件の始末に陛下から斧鉞を賜った奉行でござるイヤ勤行すへき僧形ゆえ刃物は持って来とらんので万事察して頂戴」
「すべて穏便にと?」
「人知及ばぬ天変地異で証拠も容疑者も尽く蒸発。これにて神判の完了と裁定致ぁす」
「温情のお裁き、痛み入りますわい。血讐の嵐も吹かぬで済んだ」
「水入りの反対じゃのぅ」
「火だもんねー。あれ、何だったんでしょ?」
「まぁ偶然起こった驚異の自然現象という事で詮索無しにしては如何です?」
と、突然頭上から声。
見上げると、例の高すぎる人が屈んで覗き込んでる。あら、いい男。
「儂らが御城の地下で見た、あの大きな声で言えん何やらの関係ですかのぅ」
「宗旨も違う貴所が供養して下さった。忝く存知ますよ。王妃さんはご健勝ですか?」
「相変わらずのご様子ですじゃ」
なんの話ー?
「七年前は族弟が国王さんにご面倒を掛けましたし、此処は一つ穏便に済ませましょう」
「なにコソコソ話してるにゃ?」
「ふぉほほ、国家機密のたぐひじゃわ」と、お坊さま。
「だそうでーす」
「休題昨今妙な動き為とった審問官、チョトした醜聞が元で次期大審問官争いに負けよって田舎司祭に降格相成ったそうじゃ。奴が最近何百人か焚刑にさせた地方じゃとさ。月の変わらぬうち夜中に何処ぞの川の底じゃな」
「おっかないわねー」
「悪意や貪欲の成果物は結局自分に還って来るもんじゃわ」
「此処はこれ以上は怪我人が出ない方向で有耶無耶に蓋するてぇ事か」と、お猿も安堵。
「おれらも下手に詮索して怪我人にならないのが吉って事件かにゃ」
「好奇心で死ぬのも猫らしいよー」
「うるせ」
「でもさー、文字通り仰天動地の大事件が尻すぼみに消えちゃったら、あたしら当分金貨のご尊顔拝めないよねー」
「うにゃー」
◇ ◇
「なんだ。もう終わっちまっとるのか!」
「大将、これって子爵様に手付金返さにゃならんかも!」
「貰った物は返さん」
縦にも横にも巨大な老騎士が丘を登ってきた。
「でも、あんな大金頂いて、なんにもしないじゃ騎士の名誉が立ちませんよ」
「名誉だと? その名誉で腹が膨れるか? 此処まで歩いて来たろうが」
「でも、そんな冗談じゃ済まない額ですぜ」
「ふん! この世は総て冗談さ。行き交う人皆な道化役者」
「この世は総て冗談さ! 行き交う人皆な道化役者!」
突然皆が唱和。
いつの間にか周りに集まっている。
一同哄笑
猫、俯いて
「おれは憂鬱にゃ」
了




