インターミッション 本作の世界観62 ー 斧鉾2ー
蘊蓄回です。
ハルバートHelmbarteのお話。
再三言及して耳胼胝恐縮ですが、バイユーのタペストリーを見る限り、十一世紀頃の武具は割とシンプル指向に見えます。攻撃用武器は槍と双刃の片手剣、両手斧にメイスに棍棒といったラインナップ。
まあタペストリーだという限界を加味すれば、例えば騎兵の持っているのは槍で歩兵の持っているのは槍で、絵面で見た目同じに見えるけれど別物だったんじゃ無いか? とか織工が細かいこと知らないだけじゃないか? とか疑問も感じますが、残ってる遺物で差を見出せません。
日本の古代は、中国からいろんな武器が伝わりますが、すぐ儀式用とか指揮棒代わりとかになってしまった印象で、弓矢や投石の比重が高すぎた結果のように思えます。四世紀終わりに高句麗の騎兵と対峙するようになって、遅れ馳せながらやっとパイクが重要な武器になって来ます。そこへ行くと中国は、趣味ですか? と聞きたくなるくらい多種多様です。長柄武器も突刺用と斬撃用が統合された『戟』が青銅器時代から発達しています。
なぜ西欧では、長柄武器のスラスト・カット統合が十三世紀を待たねばならなかったのでしょう?
或いは、槍が早くからスラスト・カットを両立した万能武器だったからでしょうか?
或いは、単に戦士たちの間には武具の単純指向が強かったところ、戦士階級ばかりでなく庶民が戦場に引っ張り出される若しくは支配階級に反抗して戦うようになって、手近な農具などを武器化したせいで多様化が始まったのでしょうか?
騎士の鎧が鎖帷子中心で、ハルバートのような複合武器は不要だったからでしょうか?
ハルバートはシャフトの先端に突刺用のスパイク、その手前にカット用のブレード、その反対側に嘴或いは鉤爪を備えたもので、スパイクは突刺に弱い鎖帷子を貫通し、嘴は兜や金属板装甲を破壊します。または鉤爪で騎兵を引き摺り下ろします。
初期のものは、まだブレードが斧らしくない中華包丁みたいな形で、さらに祖先を辿るとブレードの先端が尖って突刺も出来る縦長の両手斧Bardischeがあります。さらに祖先は肉屋の使う牛刀だったとのこと。
Bardischeの子孫がVouge。刃の反対側、つまり背の方にリング状のソケットがあり、シャフトを通すあたり、まだいかにも斧の子孫ですが、Bardischeは刃側の先端が上に向けて尖っているのに対し、Vougeはシャフトを通すリングに近い側にスパイクが上を向いて尖っています。
竿の先に付けた肉切り包丁の上にツノが生えた感じですね。
このVougeに、おそらく十三世紀に入って画期的な変化が生じます。刃の反対側に嘴が生えるんですね。
そろそろハルバートのお父さんでしょうか。
ヴージ :「ハルよ! 私がお前の父だ」
ハルバート:「嘘だーッ!」
みたいな感じ。
洗練された爽やかスポーツマンの映画俳優に、生き別れもお父さんがバラエティ番組で紹介されたら田舎の肉屋の親父だった・・という。
ハルくんは武器として遥かに洗練されています。
スパイクと斧の先端が作るV字の谷は、まるで長剣の刃と鍔が作るV字で敵の剣を受け止めるように防御します。斧の下側とシャフトの作るカギ状部分は、敵の武具を引っ掛けて奪います。
ハルバートには、Vougeには出来なかったろう戦術がいくつも使えるでしょう。
でも、ハルバートの別名はSwiss voulgeです。
スイスで生まれ、ドイツに広がり、傭兵たちの活動を通じて欧州各地に広まった物でしょうか。
よく似た武器のPoleax =Mordaxtは戦士の白兵専用武器で、個人用武器ですから集団戦向きのハルバートよりも少し小さめです。戦斧&戦闘槌や戦斧&嘴の組み合わせ等があり、戦闘槌&嘴のBec de corbinと似ています。
日本で言えば、平安時代にはまだデーン人式両手斧しか無かったのに、鎌倉時代には刺せる斧Bardischeが戦争に使われ出し、南北朝ごろツノ付き中華包丁Vougeが祖先として固まって、戦国時代にハルバートとして全盛を迎えるも、鉄砲に駆逐される。こんな感じかな。
つまり中世風ファンタジー世界に登場すると『ちょいアナクロ』武器だけれど、慣用的にヴァイキング・ハルバートとかも言うから、ま・いーじゃん的な存在です。ヴァイキング・ハルバートは文献状の描写しか無いっぽくて詳細が知られていませんが、斬ることも投げることもできる槍ということでハルバート型が想定されているようです。でも中世初期の歩兵用槍ってハルバート型じゃないけど、斬る突く投げる、全部出来ますよね。
雑兵用武器として出発し、エリート衛兵の武器から儀仗の一種になったハルバートは、出世魚タイプと言えるでしょう。




