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282. 憂鬱な黒騎士、今夜も

《三月二十二日、昼》

 ミーゼル領アルパの町に向かう西街道。

 フライシャー警部補、だいぶ焦っている。


「町の自宅で家族四人と使用人四人、それから幾つもある農場の内の小さな一つで管理人が一人、都合九人も殺害されています。どういう事です? なにが始まって居るんです? 他の農場は?」

「とにかく一旦帰って、急いで警官と嘱託医を連れて来よう。トスティとアルメスオプファー両家の農場を全部当たるにゃ、町の警察じゃ手が足りん」

「どうするんです?」

「どうするって、人を雇うにゃ予算が要る。侯爵家の軍隊に泣き付く手もあろうが孰方どっちにせよ俺の権限範囲じゃないし、関心もない。上に決めて貰おう」


「関心がないって? 警部・・」

「考えても見ろ。昨日のうちに払う筈のバイト料を払ってなかったんだ。下手人は日没前には町の門内に入ってた。どっちの殺害が先だ?」

「養豚場が先です」

「その下手人、他の牧場も回って人殺しやらかしてると思うか?」

「・・そうだったら、もう騒ぎになってますよね」

「いちおう安否確認しとく・・なぁんて仕事は課長に仕切って貰おう。こっちらは急ぐ」

「他の農場はきっと大丈夫だから関心ないと?」

「資産台帳で見る限り、『辺鄙な場所に管理人一人きりで他の従業員無し』なんて牧場はあそこだけだ。だから気になって、見に来た」

「それも、人里離れた森の中ですものね」

「あそこはゴルドー村名物の団栗豚を真似て最近始めた『お試し農場』なんだよ。だから小さいんだ」

「それで一人ですか・・」

「先にあった殺人事件と、後で起こった殺人事件。どっちが原因でどっちが結果だと思う?」

「先の方が原因です・・たぶん」


 二人の乗馬、町の西門に近づく。


                ◇ ◇

 プフスの町、役所街のギルド。

「まだ始まらないんですかね」と、カルル少年。

「対戦者待ちだそうだ」

 そこへ・・

「遅くなりましたー」と、クリス。

「さすがに、それは違うだろう・・」

 クリス、貴婦人っぽい喪服である。

「なんか縁起悪くありません?」

「さすがに、それも無いだろう。柄物に穂先付いてないし」

 十文字槍めいた形で身のたけ程の棒が立て掛けられている。


「クラウスは?」と、ミランダ。

「厩舎に磨墨号を預けて、すぐ参ります」

「『参ります』だって、こいつ」と、頬をつつかれる。

「参りました」と、クラウス卿。

「ああ、早速だが皆を待たせてる。立ち合ってくれ」

「立ち会いではなく?」

「立ち合いだ」

 クラウス今日、溜め息をつく。

「柄物は、それで」と、顎で差す。

「これで・・あるか」

 また、溜め息をつく。


 ラミウス、やって来て一礼する。

「本日は胸をお借り致します」

「其方、また一段腕を上げたか。伝わって来る気迫が違うのである」

「恐れ入りまする」

 二人、裏庭へ。


 今日はミランダ、男装だ。背が高いので見映えが良い。

「柄物は槌矛に見立て、十文字の長い方をベック、短い方をハンマーとする。始め」

 双方右半身、ラミウスは中段に、クラウスは下段に構える。

 暫く見合っていたが、ラミウスが動く。

 バックステップで躱すクラウスを左の片手突きが追うが、下段のまま雄牛構えで受け流パラレし、間合いを詰めて柄で横面を打ち返す。

 と・・見せて背後に回り込み、足払いを掛けるクラウス。ラミウスが柄物を杖に側転の如く飛んで躱し、距離を取る。

「あれを躱すか!」

「おい、最初の三段突き、見えたか?」

 ギャラリーから喃々ひそひそと声が漏れる。

 柄を前に左半身で間合いを詰めて来るクラウスを飛燕の如き突きが迎撃すれども悉く撃ち落とされ、剣の間合いに入られるラミウス。咄嗟にバックステップを以て距離を取ろうとする所に、柄を槍のようにしごき出したる追撃。

 ラミウス、これを見事打ち落として足で踏む。

 柄物取り落とすクラウスの左耳に戦槌の一撃と見えたが、何処から取り出したかファルコーネ城にあった警棒で受け流され、その柄当つかあてがラミウスの顔面に寸止めで決まった。

「それまで」

 ギャラリーから溜め息が漏れる。


「お前・・自前の柄物呑んで来るとか、反則だろう」

「あれくらいファルサフェイント掛けぬと隙が無かったのである」

「まぁ試合じゃなし、技量見る昇格試験ぷりゅふんくだからな。どれ、立ち合い人の評定ひょうじょうだ」

 ミランダ、彼らの円陣の方へ赴く。


「花を持たせて頂き感謝に堪えません」と、ラミウス。

「いや、胸を張られよ」


「なんか揉めてますね」とカルル少年。

「立ち合い人たち、A級にしろって譲らねえ。だけど槍使いの親方株にゃ飛び級は無いのになぁ」

 会計長が祝宴の手配をしながら答える。


                ◇ ◇

 ファルコーネ城、大広間。

 男爵夫人が患者の話し相手をして居る間に、た悪童三人が戦場剣を取り出して悪戯を再開している。


「これが『窓の構えフィネストラ』なのだ」と、スレナス弟A。

 弟B、歌う。

   "さあさ、窓辺フィネストラに出て来ておくれ。ぼくの心底愛する人よ ♪ "

「剣先で敵さんアヴァサリオの喉元を狙ったまんま、半歩進んで右半身。両手を上げて、これが『雄牛の構え』なのだ」

    "さあさ、出て来て慰めて ♪ ぼくの涙を慰めて ♪ "

「喉元狙ったまんま、半歩進んで左半身。『窓の構え』のハイポジション。これが『逆雄牛の構え』なのだ」

 ジル君、剣に触りたくて疼々うずうずして居る。


「やって見る?」「見る?」

 黒髪弟A、戦場剣をジル少年に将に手渡さんとする時「ん?」と呟くと、慌てて剣を壁際の垂れ幕蔭に隠す。

 入れ違いに男爵夫人と少年少女が戻って来る。

「ちえぇ」と、ジル。


                ◇ ◇

 ミーゼル領アルパの町、冒険者ギルド。

 警官アントンが現れる。

「ギルマスは御在おいでですか?」

「あゝ・・入れ違いだ。残念」と、おかみさん。

何方とちら御出掛おでましで?」

「今夜はゴルドーだよ」

「・・・(ギルドってそんなに情報が早いのか?)」と、関心するアントン。

「役所からの依頼です。実は、昨夜の殺人事件に続きが有ったんです。いや、続きじゃなくって前日譚か」

「なんだって! もしかして他にも犠牲者が居たのかい!」

「ええ、カインゲルト村の牧場管理人が先に犠牲になってました。それで、これ」

 書き付けを取り出す。

「トスティとアルメスオプファー両家がオーナーになってるミーゼル領内の牧場の一覧です。これ、今日明日中に回って安否確認できたら日当銀貨三枚出ます」

 懐から何やら金属板。

「で、これが領内の通行手形」

「ああ・・これ、リストの字が読める奴じゃないと務まらないねぇ。いや、村と人の名前だけだから大丈夫か・・後、自前で馬持ってる奴・・」

 皆の顔色を見る。

「・・いかん、全滅か」

 おかみさん、腰に手を当てて深呼吸。大きな声を出す。

「馬はギルドのを出す。乗れる奴は名乗り出ろ」

 応募者わらわらと集まる。

「なぁ、アントンさん。スピード重視なら手分けした方が良かぁ無いかい?」

「一日当たり二人で分担なら、一人銀貨二枚まで出します。それ以上は予算取って有りません」

 警官アントン、最初から通行手形も二枚用意して来ている。


                ◇ ◇

 プフス役所街のギルド。

「と、いうわけでラミウス親方の誕生だ。残念ながらB級で最低一年間勤続の縛り規定があるから、すぐA級には成れないが、まぁ文字どおり時間の問題だろう」と、ミランダ嬢。そろそろ女史とか呼称すきかも知れない。

「随分と煩瑣うるさいのねー。賭博師もそうなら良いのに」

「クリスの場合は、何処から伝わったのから地連から苦情が来た。悪質な等級詐称詐欺だって」

 F級遊び人だったクリス、いつの間にかS級賭博師に昇級されてしまっている。顕彰か懲罰か知らないが。


「浮世の義理、どうやら祝賀会は断れそうに無いのである」

「ファルコーネ城だと、ドミニクちゃんに『遊』ばせてあげられる場所が無いのよねー」

「身共は、気の早いスレナス姉弟きょうだいがジルに、一足飛びに長剣など握らせてをらぬか少々心配なのである」

「早く剣に馴染ませてあげるのも手だと思うんだけど、素人考えでしょうか?」

「間合いの近い短剣ダガで度胸を鍛えて置こうと思ったのであるが」


「それよりクラウス・・明日、いい?」

「姉上は、顔を合わせたなら無茶振りが一つであったためしなど無い」

「明日、ベーニンゲンで冒険者ギルドの地域連合協議会が有るんだが」

「時刻は?」

「正午」

「姉上はクリスより重いのである」


 クラウス卿、足を強か踏まれる。


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