インターミッション 本作の世界観61 ー 斧鉾ー
蘊蓄回
タイトルで『ハルバート』としたかったのですが、長いので。
いや、ハルバートHalberdは長いですが。
本物の、と言うと変ですが典型的なハルバートは十五世紀頃と新しめの武器で、十二、十三世紀は有ってもその祖先のヴージVougeという長柄武器、あるいは斧のブレードの上のほうが尖ったバーディシュBardicheで、典型的なハルバートと似ていません。
ただ、もっと古い時代の似たような武器をもバルバートと呼ぶのが普通になっていて、博物館で漢代の『戈』にもハルバートとか書かれていたりします。『戈』って、違いますよね? 『戟』じゃないと。でも、一体鋳造じゃなくて『戈』と『鉾』を一本の柄につけたりもしていたみたいですから、細かいことを言うのはよしましょう。でも、あれって鋳造品なんですよね、ブロンズだから。
Sachsenspiegelに登場する長柄武器は、こんな感じ。
Sachsenspiegel-Heidelberg版装飾写本よりp.36/164部分
十三世紀末頃の長柄武器バリエーション
先頭の人は鎌槍みたいなものを担いでいます。鎌槍というより鎌薙刀のようです。ギザームGuisarmeの一種ですね。
二人目は普通の槍。左右にウイングが付いてない素槍です。
三人目と四人目は棍棒の頭に小刀かスパイクを埋め込んだもの。ゴーデンタークGoedendagかプランソン・ア・ピコPlançon à picotの仲間でしょうか。これらは特大の木製バットの先端にスパイクを埋め込んだ武器で、ぶん殴って刺すという実に分かりやすい武器です。ゴーデンタークはフランドル地方の武器ですから、エルベ川河口近くにいた頃のサクソン人と場所が近いといえば近いでしょうか。しかし・・「こんにちは」と言ってバットで殴って、ぐさぐさ刺すんでしょうか。
五人目は普通の素槍か長刀ですが、六番七番は方向が変に曲がっています。文字に遠慮したんでしょうか?
というわけで、ハルバート様いらっしゃいません。もっと古いバイユータ・ベストリーでも当然ご不在。歩兵たちはランスを構えた騎兵の突撃に対し、盾の壁を作って槍や両手斧で戦っています。
十四世紀初頭には有るはずだから、フィオリの指南書に有るかなと思いましたら、載っているのはどうもべック・ド・コルバンBec de corbinっぽい。先端のスパイクと後ろのピッケルかフックは同じですが、斧のところがブレードじゃなくてパンマーっぽいのです。
総じて、騎馬兵がプレート無しの鎖帷子を着ていた時代は、馬上の彼らに歩兵が槍や弓矢で対応できたので、馬から引き摺り下ろす必要がなかったということでしょう。
ということで、話中の随所に出てくる斧鉾は、祖型であるヴージに近い形状でお考えください。斧部分が中華包丁みたいです。




