インターミッション 本作の世界観59 ー 長剣ー
蘊蓄回です。
長剣ちょっと難しいです。何センチから『長い』のでしょう?
とりあえず、片刃を『刀』、諸刃を『剣』と区別することとして、剣Schwertを片刃のマカイラやヘクスとは分けて考えます。
ただ『鎧通し』には片刃やアイスピック的な刺すだけのものが主流っぽいので、ダガーを短剣に含めると概念が齟齬しちゃって困りますね。諸刃の剣はどうしても薄くなるので突刺で弱点が出ます。
さて、先に紹介したバイユーBayeuxのタペストリーで登場する剣は、皆な片手で持つ剣でした。柄Hilt (en) ,Griff (de)が片手ぶんの幅しかありません。まあ、馬に乗るんだから剣は片手で持つしかありませんよね。盾も手綱も握らなきゃいけません。
突然関係ないですが「馬手に血刀、弓手に手綱」って、逆ですよね。
はて片手で持つのが当たり前の時代なら、片手剣という言葉があったらおかしいです。あえて区別するなら騎士剣Ritterschwert (ge) とかArming sword (en)とか言います。でも Arming swordって日本語に訳せないですよね。
この時代、まだ装甲は鎖帷子だけですから、未だプレートアーマーに対抗できるような剣は存在していない訳です。これらオークショット分類のX類型かXI類型を短い『長剣』って言ったら変ですよね。片手で丁度取り回しのいい90cm以下の剣でした。ステッキくらいですね。
これが、十字軍時代にだんだん長くなって来て、柄も長くなります。剣を両手で(も)使い始めます。オークショット分類のXIIa類型かXIIIa類型という奴で、竹刀と同じかそれ以上ほどまでも長くなって来ます。片手剣に対して、「もう半分」の剣Anderthalbhänder、つまり片手半の剣と呼ばれ、両手剣に至る中間形態と言えます。
戦争剣とかろくでなしの剣とかも言いますが、なぜかバスターソードとも言います。差別用語回避で日本独特でしょうか?
さらに、先日言及したFiore de'i Liberiが各種武術を記した時代になると、もう武装がプレートアーマーに代わって、剣も長い方が普通です。しかし、まだ両手剣ツヴァイヘンデルZweihänder(正確にはBidenhänder)の時代ではありません。
ですからSachsenspiegelの時代は、ロマンチックな騎士道物語華やかなりし舞台のリチャード獅子心王の頃よりざっと百年あと、フィオレより百年前と、過渡期になる訳です。フィオレが述べたような武技があっても可訝しくはないが、あった証拠もありません。
日本で言うと平清盛がリチャード一世と同時代頃で、足利尊氏の最晩年くらいにフィオレが生まれています。
そしてSachsenspiegelと御成敗式目の成立年代が近いです。
さて・・『長剣』って、どれでしょう?
本編はできるだけ今日中に投稿します。
こんなコラム書いてるから遅くなるんですが・・