22.一同揃い城内籠城するの事
時系列同時進行のアナザーストーリー
「ドラ猫の憂鬱」
が進行中です。
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同じ事件を別のパーティ視点から記述しています。
姉姫の居室。
「白銀の龍騎士さま、良いところへっ」
「俺の索敵と大姫さんの友敵感知が一致。突入くるぞ」
「なんで急に来るんですかね、ぼくとか死んでる時にッ!」
「ははは、祟り目は弱り目に来るものだ」
「ドラスレさん呑気だねッ!」
「弓兵は暖炉の上に乗って正面扉が開いたら連射。妾とスレ兄が扉の左右。弟ちゃん一人づつその後ろ。正面に早く桝形作って! ユスティちゃん空色組武士の四人が遊撃。弓兵の射線遮らないよう注意。スレ兄これで可いですわね? ああ院長様、お鍋かぶって戦闘姿勢取らないで! その燭台じゃメイスになりません!」
編んで長く背に垂らしていた後ろ髪をくるりと二重に首に巻くと、髪を束ねる銀の輪飾りが三つ四つ並んで……頸甲のようにも見える。一度そういう目で見てしまうと不思議なもので……優美に髪を飾っていた銀のサークレットが無骨な鉢金に、革のコルサージが傭兵の胴鎧のように思えてくる。書き物に邪魔なドレスの袖口ひらひらを結えていた革紐が手甲だ。
「儂も修道騎士やっとった頃は、群れなす異教戦士をばったばったとーー」
「冷や水ですわ! 冷や水!」
「はっはは、親父っさんの隊にいた頃思い出すね。あ、違う違う。バリケードになる机が少ないから桝形は諦めてとんがりが扉側ね。突入してくる敵の動線を左右に散らそう。」
……スレ弟くんたちが、そこらにあった小さい菓子皿やポット蓋など襟口から胸に詰め込んで釦を締め、動き辛くないか……腕をぶんぶん回したりしている。
ユスティさんが真似をして銀の小判皿をお仕着せの胸元に押し込むが、肉に支えて入らず……諦める。暫く考えて、ベルトに巻いて腹に当てた。
「それじゃ私は……姫様たちと奥の間に籠もります」
丸腰の侍女らも引き連れ、何やら後宮に趨く王子さま宛らに引き上げて行くッ!
「ニトくん巧計りぃ」
空色組の残り非戦闘員が椅子の脚やら文鎮やらを持って奥の間の戸口前に固まる。最後に肉の壁になる気概だろう。
「儂の支援法術は見えるところに居らんと届かん。弓兵の横あたりで大盾構えておるぞ。敵に近づかれたらカバー頼むぞい」と、壁飾りの盾をずるずる引っ張り出す。
イーダ姐さん濃紺のジロンヌ裾を派手に捲りッ! 右太腿を付け根まで出しッ! 腰に幾つも巻いていた銀鎖の飾り帯を二つほど外して左腿と膝下に足結いして、片身替風のお洒落で動きやすそうな格好になったッ。 ああ残念。
アルが腿だけで我慢したそのとき、
「来るぞ」と、静かにスレ兄。
兄弟三人拍子を揃えて襟元の釦を一番上まで留め、二拍手して何処から出したか彼らの定紋を刻した襟廻甲に一礼してから頸に巻く。
正面扉が大槌で破られ、四人横列の重装兵が盾を構えて突入してくる。
左右に控えたスレナス兄とイーダが目にも止まらぬ迅さで装甲の隙間から片付ける。
廊下に展開した弓兵が引き絞る前にアルの矢で次々と崩れ落ちる。
スレナス弟らが細剣を振るう傍ら左で投擲する棒手裏剣が、重装兵の面頬の格子を摺抜けて突き刺さる。
第一波は退けた。
第二波、第三波。
第四波が片付いた辺で、院長の的確な回復支援があっても流石に防衛組の息が荒くなって来た。
アルが放つのは、敵の息の根を止めると戻ってゴリトスに収まる魔法の矢だが、敵が負傷だけで撤退されると戻らない缼点がある。残りあと8本。
頃合いを見計らって寄せ手が遂に一軍を繰り出す。ガルデリの黒衣武者だ。
同郷の知った顔同士らしく、それぞれ何やら因縁でもあるのか、相対した空色組と互いに不敵な笑みを交わす。
そして間合いを詰めていく。
これまでと打って変わって相手も一騎当千で万人敵。二合三合では無論勝負が付かぬ。稲妻が飛び交い、雑兵の割って入れる余地がない。何より、戸口の近くでスレナス兄と口髭黒衣武者の戦う剣筋が誰にも見えず、近づくに近づけない。
一体そこで何が起こっているのか?
誰にも見えない。
唯! 躱したスレナス兄の左頬に蚯蚓腫れの様な赤い線が走った。追い討ちにと踏み込んだ口髭武者が突然喀血する。その心の臓を貫いたかと見えた兄の剣が空を切り、口髭武者は自ら床を転げて戦線から離脱した。躄地して後方に去り際に鐔を眼前に掲げ一礼していく。スレナス兄が左手で頬を摩りながら指三本振って挨拶に応え、右手後方から斬り掛かって来た次の黒衣を一瞥もせずに切り捨てる。
イーダと迵と激しく撃ち合っていた大男黒衣の剣先を笞のビーズ飾り房が絡め取る。大男の喉元がレイピアに抉られるのと同時だ。
スレナス弟Bを圧倒していた相手は、近接格闘戦を得意とする痩躯の黒衣だ。得物は左右の手に特大の折り畳みナイフの様な代物。親指側には尺二寸ほどの白刃、小指側には八寸の鎧通し、人差指と中指の間からは碇のような手鉤が出る。剣の間合いより内側に踏み込んできて頭突きや足払いを交えた体術を交えて仕掛けて来る。
噛み付けるほどの距離で鎧通しを相手の胸に叩き込んだ痩せ黒衣が、勝利を確信した表情から一転して、刺した感触を訝しむ。刃先は少年が胸元に押し込んだ錫の菓子皿一枚で止まっていた。棒手裏剣を握った少年の左手が痩せ黒衣の耳下辺りにめり込んでいる。
ユスティの相手は恐らく同年輩。黒衣組一番の若手のようだが、ユスティから目を逸らさずにアルの矢を叩き落とす遣い手だ。それに同門。構えも繰り出す剣技も、鏡に写したように同じ。激しく斬り結ぶかと思えば様子見に移る独特のリズムまで揃って、一進一退だーー
寄せ手の数は着実に減ったが、元の数の差もじわじわ効いてくる。スレナス兄とイーダには黒衣が二人組づつで懸かる作戦に出た。空色組は互角で膠着。弟くん二人は両手にレイピアを握った年嵩の剣士を左右から挟撃。随分の手練れを若さで稍や押し気味。
と、そのとき誰が押すでも無いドラゴンスレイヤー氏の車椅子が突如、轟音を立てて突進した。
左右両手に握った筋金入り八尺杖が馬上大槍を片手で自在に振り回す伝説の豪傑騎士の如く、敵の手練れ四、五人を瞬く間に薙ぎ倒した。大技一発、乱戦中に繰り出す好機を沈と狙っていた様だ。すぐ跳ね起きた者二人。
攻守の多寡が逆転した。
ーー 蕭ッ! 紙一重で躱したはずの斬撃は、如何なる奥伝を使ったのか間合いが伸びてユスティの脇腹に手傷を負わせ、銀皿を留めていたベルトを両断する。膝下まで落ちたその銀皿を、男装麗人は若黒衣の顔目掛けて蹴上げる。その銀皿が視野を遮る刹那を突いてアルの矢が飛ぶ。その矢を若黒衣の剣が叩き落とす。その剣を握る右手の腋下から、ユスティの剣先が肺に達していた。
ユスティが宿敵を下して勝ち名乗りを上げたのを契機に、寄せ手は乱戦を止めて密集陣形を組んだ。何か狙っている。
スレナス兄が叫ぶ。
「しまった! 隣室に敵が集結! 壁を破って奥の間に突入するぞ!」
< 爆発音 >
◇ ◇
寄せ手の黒衣組がすっと引く。
すかさず空色組が入り口を家具・調度品の即席バリケードで塞ぐ。
奥の間に駆けつけると、ニートが小姫に緊っと抱き付かれている。
「いやあ……大姫様が敵の壁抜け奇襲を予測したので、壁に小さな穴が空いた瞬間に、隠し武器庫で見つけた焙烙玉を逆に押し込んだら……全滅しました」
「ニトくん巧計ぃよ、ぼくらあんなに大汗かいて防戦したのに、一番楽してた人が一番たくさん敵を倒してる」
「うむ、突入しようと狭い部屋に鮨詰めになったところを爆弾一発か。これはかなり気の毒な敵だな」
「敵の一軍も三人討ち死に、四人が侍女さんと圏外に撤退、残りあと六人。こっちは九人欠け無しだ。勝った感じだね。あの人出て来なくて良かった。口髭くんは三年後には脅威かな」
数に入れてもらえなかった院長が口吻を尖らす。
「ひっ、ひめ様、勿体のう!」ガルデリ谷の火酒を浸した白絹のファッォレットで、大姫がユスティの脇腹の傷を拭う。「こんな擦り傷! なっ舐めとけば癒りますぅ!」
「あらぁぁ、うふふ。また舐めて欲しかったのですか」
「これ……大姫様が友敵感知術の勝利です。私はお手伝い程度で……」
「いいえ、誰も知らぬ隠し武器戸棚を即座に見附けたのも、咄嗟の機転で隣室に爆裂弾を擲り込んだのも、白銀の騎士様の輝かしい殊勲ですわっ」
「うるせえ姫様」
戦利品の折り畳みナイフを一個づつ分け合って弄り倒していたスレナス弟が、また兄の拳骨を食らった。
「私の最初の読みでは無理押しの攻勢は来ない筈だったのですが、申し訳ありません」
「否、それを決意させる事態が起きたという事じゃ」
「……私たちの呪詛阻止が……成功した、という事でしょうか」
「そうであって欲しいのう」
「まぁだ敵意の強い者達が包囲していますが半減しました。勝機は十分です。ただーー」
深く坐り直して蛾眉顰ませ、
「ーー弱い敵意の大集団がその周りに展開してます」
「だいたい正確だね。大姫さん、その能力が知れたら王国の兵部卿閣下が軍謀祭酒くらいの肩書で中軍へ勧誘しに飛んで来るよ」
「貴方にも来ますね」
「大姫さんの友敵感知魔法って、どんな感じに見えてる? やっぱり鳥瞰図みたいな見え方?」
「魔法剣士様の索敵はそうなのですか? 私のは遠近感付きで敵味方の色が見えます」
「俺のは敵しか見えないから、大姫さんのが凄いね。お母さんは治癒の法力、大姫さんは友敵感知魔法。超常の力の家系なのかな」
「妹にも弱ぁぁ目の予知がある気がします。祖母にも何か持って居て子爵家を切り回していたのかも知れません。祖母の従妹で母上様たちの乳母をしていた方が強力で、我が舅様の仇の乗馬を暴走させて讐を見事討ち果たされたとか」
「ふうん、その人の娘も強いかな」
「谷に伝わる古謡では、昔はたくさぁぁん居たのです。男衆の騎馬が横一列、二列目を媚と謂う従軍巫女が駆る一頭立ての軽戦車。媚らの術が纏めて敵の勇気を挫き、男衆の長刀が次々と穂苅の様に首級を刈り取る。果てしない草原を地平の果ての何処までも、遮る者凡て馬蹄で蹂躙し征む御先祖の姿を語る口碑です」
「もしかして崖に追い詰めた最後の敵王が『黒髪の悪魔ぁぁ』って叫んで馬ごと落ちるやつ? ぼんやり覚えてる。母上の寝物語」
「あぁら、この歌で眠れます? 女衆が並んで激しく踊る合唱ですけれど」
「そうだっけ?」
「悪魔って異称、やばくねッ?」と、アルくんが割り込む……
「鬼なら良でも无かろうて」
「気に懸けるほどの事でもありません。甘いお菓子の屑を少し小皿に盛って厨房の隅に然り気なぁく置き、虫がきたら係の者が始末します。ぷちぷちっと」
「……つまり、隣り町でも事件を起こしてしまった今回が問題なのですね……」
「釘を挿した積もりが、刺して怪我させたかのう」
「手を出したら陛下にバラすぜッて、アレのこと?」
「世子様が手を出して了いましたわね」
「ふむ、毒皿の心境か」
「父は、矢張りあんな兄でも可愛いのですわね。知っていましたけどっ」
「怪物でも、ね」 大姫が溜息をつく。
「私……ちょっと言って来ます。一言だけ伝えたいんです」
「?」
:扨て事はひと段落、白銀の騎士殿何方へ向かわれますかは、且く下文の分解をお聴き下さいませ。




