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7.憂鬱な姐さん

《三月朔、午後》


 ギルド。

 騒然としている。

「大変なんですう! 事件ですぅ」

 若い受付嬢が慌てている。


「落ち着いて話して」と、ミランダ。

「朝市の迷子、あれから二件! 都合三人行方不明ですぅ」

 ミランダとファッロ、顔を見合わす。

「もう猫の人が動いてますぅ」

「ファッロ、彼と組んでくれない?」

「猫探しのにいちゃんか?」

「裏町に詳しいわ。ああ見えて使える奴よ」


「あいつが? 使える奴?」

「ちっちっち。情報屋なら目利きじゃないと。あいつ、ああ見えて元傭兵で、そこそこ腕も立つし魔術だって使えるのよ」

「魔術? なんだそれ?」

「猫関係でね」

「役に立つ気が全然しねえ」

「騎射とか百発百中の凄い腕前よ」

「あいつ貧乏だろ? 戦争馬とか、持ってなくね?

「確かに・・馬借りるお金も持ってないわねえ」

「喧嘩は強いのか? ひょろひょろしるぞ」

「猫よりは強いわ」


「それって、俺といい勝負じゃないか」

「謙虚ね」


「しかし、何故あそこまで零落おちぶれてんだ。まるで隠居じじいの無気力さだぜ」

「異端審問で炙られる直前まで行って、傭兵資格も探索者等級も全部パァで燃え尽きてるらしい」と、会計長。

身体からだは燃やされかけて、心は燃え尽きてんのか」

「まあ、ぱっと見が廃人っぽいけど、たまにヤル気を出すと結構凄い奴よ。上手く乗せて見て」

「姐さん廃人は酷ぇぜ」

「そう思ってたくせに」

 

 笑う。


                ◇ ◇

 ラマティ街道。

 トゲトゲしい空気を感じたクリス。

「なんか事件起こってる?」

「そのようだな。村の連中血相変えてる」と、無精髭。

「どうする?」

「悩ましいな、首突っ込んで見たいのは俺の性分なんだが、関所で手間取っちまって。ほんとならエリツェに着いてた時刻だしな」

「あっしの責任せいじゃ、あらシャンせんよ」

「姐さん居ねえと駄目だな。峠の関所抜けやすい人選とか、細かい箇所とこで違いが出ちまう」

「あっしも身元をあんな根掘り葉掘り訊かれたなぁ初めてだ」

「確かに全体平常いつもよりピリ付いてたな」

「この村もそうよ。経験上・・こういう時に先を急いじゃうと大概後で後悔するんだけどな」

「わかるぜ。だが引受けた仕事中だ。

「後ろ髪ひかれる感じね」


 馭者、馬に鞭。


                ◇ ◇

 プフス城市の中央広場。

 旅芸人一座の劇が始まっているが、客はぱらぱら。欠伸をする者も。

 なぜか齧付かぶりつきで色街の十人並三人娘が盛り上がっている。

「ああ、なんて非道い父親! かわいそうに」

 カリナ、もう泣いちゃってる。

「実の娘に手を出すなんて人間じゃないわ」


「それって・・珍しいの?」

「そりゃ珍しいだろ悪虐非道」

「そうかぁ、めずらしいのか・・」

「げ、ミラんって、そーなの?」

「それで娘が、いま色街で春をひさいでるわけでごじゃる」

「やっちゃえ! ガーンとやっちゃえ!」

「いっけー」

 舞台。家族三人が父親を窓から突き落とす。

「どっかーん」

 勝手に擬音を入れる困った観客。


「いや、これでお兄さんが八つ裂き、お母さんが首斬りの公開処刑で、主人公の娘だけ助かるって不公平じゃね?」

「だから、助かってねいんだよ。最後のお祈りすると光り輝く聖者さまが現れて、どこか遠くの誰もいない島のお花畑に連れてってくれるってさ、これ死ぬとき見た幻覚じゃん」

「お芝居ってのは結構ほんとにあった話のニュースで作ってんのよ。だから、みんなが知ってる可哀そすぎる結末をちょっと変えるのよ。あの子も、こうだったら良かったわねって祈るの」

「夢がないわね」

「しけた色街に流れ着いたあたしらに、夢があってもしよーがないわ」

「せめてなりたやエリツェの売れっ娘」

「あそこって大店おおだなの旦さんに落籍ひかされて産んだ子供が若旦那。大奥様と呼ばれる老後で悠々、とかホントにあるらしいぜ」

「ねえ、ファロちんちんって、どう?」

「そうね。ローラったら昨日から仕事する気配ないわ」

「マジなのかしら?」

「エリツェに帰っちゃうんじゃないの?」

「引き止めよう」

「あいつ情報屋なんでしょ? 両方の町の情報通って商売ンなるんじゃね?」

「あたしらが昼メシたかって食費入れたら、あいつら食って行けんじゃないかな」

「ローラ引退けいかくっ」


 次の幕で主人公の恋人が無惨に殺されているが、最前列で舞台見てない困った客であった。


                ◇ ◇

 裏町で聞き込みを続けるファッロ。

 見ると、横丁の路地から尻が出ている。

「にゃーお」

「あんたか。なーに猫追っかけてんだ、迷子探しを請け負ったんじゃないのか?」

「放っといてッ」

「ギルドの姐さんに、あんたと組めって言われたんだ。裏町詳しんだろ? 俺は聞き込みのプロだ」

「こっちッ」と、急に走り出す。

「おい! 何を・・」

「しぃっッ!」

 猫を追いかけて走る。

 スラムっぽい辺りの白昼に人影も無い外れ。猫がと或る荒屋あばらやに向かって走る。

「おい」

「静かにッ」

 物陰で止まるよう制される。

 見ると、十数人の男たちが荒屋に向かって歩いて行く。

 固唾を飲んで見守る。猫の人、一瞬考え込むが、男たちが戸口に手を掛けるや、ちっと舌打ちすると腰の奇妙な鞄のような物から何か取り出す。

 半弓だ。

 狙いもせず一矢

 放たれた矢を先頭の男が短剣の抜き打ちで払い落とす。

 男たち、一瞬戦闘姿勢をとるが、先頭の男の指示で一斉に駆け出す。

 先の裏路地に消える。

 こっちは荒屋に走る。


 子供が三人縛られている。

「にゃーお」

 これは本当の猫。

「驚いたな。猫魔術か」


                ◇ ◇

 ラマティ街道。

「この調子なら『昼過ぎ』が真っ赤な嘘にならない程度の時刻に着くな」

「無精髭の兄さんは町に着いたら何するの?」

「オシリスキーとか名前つけられないうちに名乗っとこう。クレスペルのグイドニスだ、グイと呼んでくれ」

「お尻をグイっと触ってくる奴だね? 覚えた」

「もう許してくれよ」

「で、どこ行くの?」

「そりゃ、触っても恨まれない所だ」

「だと思った」

「あんたは?」

「忙しくなるよ。ギルドで人探しして、それから帰りの馬車が使える仕事探せば依頼額の半分があたしの取り分」

「そりゃ美味しいな」

「早く見つかたら早く帰るんだから、あんたらも連絡取れる場所にいてよ」

「ねえちゃん、あんたの居場所は?」

「西区のフィエスコって医院が実家だから、そっちかギルドに泊まってるか」

「じゃ、あっしはギルドで泊まってりゃ間違いないね? 馬の世話も請け負ってるからね」

 でかい騎士、起きてきた。

「東の見附を過ぎたらぐ右へ分かれる道がある。そこから北の見附へ回る周回道が有るので、そちらに行ってくれ。拙者は北の見附で降りる」

「合点でさ」と馭者。

「それと、北門に入ってしまうと袋小路なのである。東門に戻って入城するが宜かろう」

 怖そうな顔の割に親切な人だった。


                ◇ ◇

「ダーヴィッド! ああ、ダーヴィッド!」と、母親が息子を抱く。

「よかったね」と三人娘。

 ギルドが賑やかになっている。


「みなさん、有難うございます。ギルドのこと教えてくれた娘さんにも・・」

「助けに行ったそいつの嫁さんだから、旦那に礼言っときゃいいよ」

「良かったな。危ないとこだったぜ。多分売り飛ばされる寸前だった」

「有難うございます。何とお礼を言ったらいいか」

 親たちが集まっていて騒がしいが、屯ろっている組合員どもも何やら嬉しそうだ。

「ファロちんちん、否定しないぜ」

「押せ押せ」


 ミランダ寄ってきて耳打ち。

「子供らの言う犯人どもの風体、あんたの言ってた七人組と一致する」

「そうか、やっぱりな。そして荒屋に来た一団は買い手だな」

「関所に問い合わせたところ例の七人組、昼に伯爵領に入っている。全員手ぶらだ」

「ひと段落か」

「それが、問題ありだ」

「え?」

 ファッロ、眉を顰める。

 ミランダ声を潜める。

「子供が帰った三組の親がいうに、どれも見失ったのは辰の刻少し前くらいだ。

「連中まとめて犯行りやがったな」

「それが後から、もう一件依頼が来たんだよ。夜明け間もなく居なくなった子供の捜索願が」


「俺らの救出が間に合ったのは第二陣ってことか!」



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