インターミッション 本作の世界観22 ー 刑罰編 ー
先の下着編で紹介した刑罰は「皮膚と髪」 hut unde har と言いまして、軽微な犯罪への刑罰です。それでも漏れなく法喪失が付いて来てしまいますんで、お話の中では公民権停止に至らない名誉刑を創作して正面に打ち出しています。
現実のヨーロッパ中世は窃盗でも死刑になる厳罰社会です。盗品を所持していて善意の第三者である(盗品と知らずに市場で購入した)と証しを立てられないと絞首刑とか、怖いです。その代わりに「命か手」in den lif oder in den hant と言われる流血刑Blutbannの執行を宣告できる裁判官は国王罰令権によって限定されていて、都市で言えば市長が主催する法廷に限られます。濫発はされないでしょう
下図右上は残虐な刑罰の極北「車折」ですね。ぐちゃぐちゃに轢かれてます。
Sachsenspiegel-Oldenburg版写本線画 90-02,03よりトレース
左下は婦女暴行の現行犯。困ったものを出しちゃってます。死刑です。
強盗、窃盗も斬首で、夜間の犯行はより重い(不名誉な)絞首刑。ただし被害額三シリング未満の窃盗は手を切断であったそうです。このお話の物価でいうとギルドの連中の昼飯五ヶ月分です。
Sachsenspiegel-Oldenburg版写本線画 158-02よりトレース
ただし地獄の沙汰もなんとやら、お金で実刑は逃れられれます。人命金Wergeld ,weregheldです。昔は殺人を賠償金でナシ付ける世界でしたが、十二世紀には自分の命(や手)を買い戻すシステムに変形しています。
Sachsenspiegel-Oldenburg版写本線画 73-01よりトレース
しかし盗品を返還して人命金を払い、手が無事でも法喪失は逃げられません。財産没収のうえ法の保護が外れるので生命の危険と隣り合わせになります。犯罪は割りに合いませんね。
お話の中では、法喪失者は誰に面白半分の殺されるかも知れない身の上、みたいに説明されていますが、言い過ぎ。さすがに日中にソレやって平和破壊の罪に問われないのは、アハトで dead or alive 状態の相手だけです。アハトを追放と訳すのはおかしいですよ。「逃亡男村八分宣告」です。法廷の召喚に応じないでいる被告を「出頭して裁かれて刑に服した方がマシな状況」に追い込んでるわけですから。ちゃんと刑に服してれば、そんな非道い状態ではありません。まあ判決の量刑に不服な被害者遺族とかから闇討ちされてもお上には放置されちゃう身の上ではありますが。
お話の中で、市内暴走という危険行為の末にお縄になった貧乏従騎士くんたち一同、放火の罪に問われなかったのはラッキーだけれど、傷害罪で市民から告訴されれば、賠償しないとお手手チョキンです。法喪失でもお寺にお預けの身ですから生命の危険はないでしょうが、訴えられたら彼らお金は払えるでしょうか? まあ皆さん軽傷だったそうですから、公的奉仕に勤しめば宥恕みたいな温情判決を期待したいところです。
明日か、明後日くらいから、第四部を再開します。
日付はまた巻き戻って、今度は二月末からのお話です。
どうか飽きないで、ずっと読んでくださいね。