なんだかんだで、これが一番良い形だったのかもしれない
食い扶持という理由ならとっくに解決している。
そんなもの、迷宮の浅い地域を抜けた場所で戦えるようになれば十分に稼げる。
名誉や地位というのも、望めば手に入る。
名誉を国から与えられる勲章など、地位も国が与える身分という事ならば、いつでも受けられるようになってる。
実際、国はある程度以上の能力を示したものの確保に熱心だ。
その為に勲章の授与などを行っている。
地位にしても、さすがに簡単に貴族に列する事は出来ないが、それに準じた扱いはしている。
一代限りであるが、貴族として扱うという地位も打ち出している。
統治や参政権などは与えられないが、貴族の会合などに呼ばれるくらいの立場にはなっている。
もっとも、わざわざ探索者を呼ぶ酔狂はそう多くはないのも確かであるが。
しかし、立場としては平民や庶民などの民衆よりは高い。
それらが目的で探索者になってる者もいる。
そして、そういう者達はあるお声がかかったらすぐにそれらを受け取っている。
それでも迷宮に潜り込むのは、それ以外の目的や楽しみを見いだしてる連中だ。
どこまで潜っても底が見えない迷宮。
その先に何があるのかを見たい者。
そこでしか手に入らない強力な魔力の塊。
それらを加工して逸品を作る事を目的にしてる者。
迷宮で戦う事で得られる経験値と、それによって得られる強さ。
それで己を高めて磨き続けたい者。
そういった理由で迷宮に入ってる者もいる。
ある意味、世俗を超越してると言える。
功成り名遂げた者達でもあり、そういったものに興味が無いとも言える。
そんな者達が求めるのは、人を越えるほどの高見の先にある何かなのだろう。
あるいは、地位や名誉に固執しない、興味が無い者もいる。
それらがむしろ邪魔、社会による束縛だと感じ取る者達だ。
そんな者達にとっては、煩わしい上流階級のしきたりやふるまいというのは面倒なだけである。
だから迷宮の中で世間という鬱陶しいものから隔離されていたいというのもある。
そして、名誉というのが評判というなら、そんなものとっくに手に入っている。
迷宮の浅い部分を抜けるだけで十分に評価は高まる。
そこにいきくつまでにも相当な努力と力量が必要なのだから。
それが出来たというのが中盤と言われる地域に到達した者達だ。
更にそこを抜けて奥地という、現在到達出来た最深部に至ったいうなら、評価は最大限に到達する。
文字通り英雄扱いだ。
トオルもそんな者達の一人である。
彼の前にやってきた者達もしかり。
何にしても理由は様々だ。
それが良いとも悪いとも言えないだろう。
結局は一人一人の考えでしかない。
何にしても、迷宮の奥地に挑むというのは、地位や名誉とはもう関係がない。
となれば、何かしら行動するにしても、その理由はそれ以外になる。
それがこの場合、
「なんだかんだでトオルの側がいい」
「面白そうだしな」
「退屈しないで済むだろうよ」
という事になる。
「おいおい……」
ぼやき声がトオルから出てくるのもまた当然である。
結局。
トオルはそんな連中と共にあらためて迷宮に潜る事になる。
最深部から遠ざかり、中盤と言われる場所を巡っていく。
人数が少ないのでそれほど無茶は出来ないが、そこそこに活動はしていっている。
ただ、人数が足りないので、それを募集もしている。
腕の立つのが欲しいが、残念ながらそうも言ってられない。
同程度の他の旅団に一時的に参戦したりして当面はしのいでいる。
もちろん、そんな事ばかりやってるわけにもいかない。
新人育成によって出来る者を確保していく必要もある。
その為に成り立てほやほやの連中を集めて教育も始めた。
長い目で見れば、これが一番戦力確保しやすい方法になる。
ただ、そうなると数年は迷宮の奥地に出向く事が出来なくなる。
それでも、数年後にはまた中盤の中でもそれなりに深い所までいけるようにはなる。
今は我慢の時期だった。
「出来るだけ早くしてくれよ」
そう言ってくるのは、元いた旅団の頭領だ。
有力な者達が数人も出ていってしまったのだから、そう言いたくもなるだろう。
「お前らが育ってくれれば、俺たちも楽出来るからさ」
「はいはい」
苦笑しながら頷くしかない。
お説ごもっともなので何も言い返せない。
なんだかんだで気にかけてくれているので、申し訳なくも思う。
「そんで、俺の所にも出来る奴をよこしてくれ」
「希望者がいればそうします」
「おう、期待してるぞ」
そう言って頭領は笑う。
なお、これは引き抜きとかいうのとは違う。
トオルは最深部まで行くつもりはないので、極端に高い能力の人間が必要というわけではない。
今いる場所で問題なく、無理なく立ち回れる人間がいればそれで十分だった。
でも、そこでは飽き足らない、もっと奥まで言ってみたいという人間もいる。
そういう連中を斡旋し推薦し、頭領の所に送り込むつもりでいる。
トオルの所で足踏みさせるのもかわいそうなので、そういう事もしている。
そうなるとトオルの所は通過点でしかなくなるが、それでも問題だとは思わなかった。
通過点であろうと、一緒にやってる間は戦力になってくれる。
そこで実力を養ってから抜けていくなら、それで構わなかった。
幸いにも後釜は次々にやってくる。
人員不足で泣くという事も無い。
何より、次々に送り込まれてくる者達も、系列の旅団からやってくる者達だ。
より浅い地域で活動している者達のところで腕を磨いた者達だ。
それらから人を受け取っているので、文句を言うわけにもいかなかった。
そんな調子で、最精鋭旅団を追放されたトオルはそこそこ上手くやっている。
あれこれ言いながらついてきてくれた仲間と共に、中盤地帯でそれなりの活躍をしている。
最深部でも上手く立ち回っていた連中ばかりなので苦労は無い。
そして育てあげた新人達ともそこそこ上手くやっている。
追放から数年もした頃には、旅団もそこそこの規模になっている。
中盤を活動場所としてる者達の中でも大所帯と言える者達の中にいる。
それだけの者達をまとめる立場にいるのだから文句はない。
あと、ここで
☆☆☆☆☆を★★★★★に
とか書けばいいのか?
この手のお約束ってのがよくわからんが