僕は私に。 君は恋人に。
目が覚めると女の子になっていた。
「夢?」
そう呟くと頬をつまんで引っ張ってみる。
「痛い…」
如月 響は赤くなった頬を擦りながらもう一度、自分の身体を見下ろす。
体が少し縮んだようで、サイズがピッタリだったパジャマの袖からは指先だけが覗いていた。
「女の子みたい……って今は女の子か」
そう呟くと、響はズボンの上から下半身をさすり
「ない…」
17年間を共にした相棒がなくなっていることを認識すると、眉尻を下げながら呟いた。
相棒消失の悲しみに浸っていると、響は身体を震えさせた。
「…トイレ行きたい」
そういうと、響はトイレへと駆け込んだのだった。
極力ソコを見ないようにしながら用を足した響は、洗面台の前の鏡に映る自分の姿を見ていた。
ちなみにトイレで苦戦したことは言わずもがな。
響は身体が変わってから初めて自分の顔を見た。
もともと色白な響は女性になってもそれは変わらなかったが、髪は背中まで伸びていた。
その姿は、儚い印象で庇護欲を掻き立てる容姿の女性へと変化していた。
「完全に女の子になってる…」
響は自身の姿を見て自分が女性になったことを改めて実感した。
ちなみに、服は着替えたものの、どれもサイズが合わずにお気に入りの服も今は裾も袖もまくってある。
そして、なにより女性になってしまった響にはひとつ解決しなければならない問題があった。
「学校…どうしよう」
今日は土曜日。あと2日で学校が始まってしまう。
響の両親は仕事で忙しくあまり家にいることはない。また、兄弟などもいないため、とっさに頼ることができる相手が身内にはいない。
そんな響が直ぐに頼れる相手となると・・・
「美城ちゃんに相談しよう」
そう呟くと、早速メッセージアプリを使い幼馴染である笹西 美城へと連絡入れる。
『美城ちゃん 起きてる?』
『起きてるよ どうしたの?』
『僕、女の子になっちゃった…』
『え?』
『朝起きたら女の子になってんだよ』
『響くん、もしかして寝ぼけてる?』
「どうしよう…信じてもらえてない…」
たしかに、朝からいきなり幼馴染から女の子になったと連絡が来ても到底信じられる話ではないだろう。
そこで響は思い立った。
「そうか! 証拠を送ればいいんだ」
すると早速、響はスマホで自撮りを始めた。
「えっとたしか…学校の女子たちはこうやって撮ってたっけ?」
響は学校の女子生徒たちが休み時間にやっていたやり方を思い出しながら、自撮りを撮ってみることにした。
「よし 撮れた。これなら信じてもらえるかな?」
響は撮った写真を確認し美城へと送る。
ーー ちなみに綺麗な45度である。
『これで信じてくれる?』
響は写真と共にそうメッセージを送った。
これならば、信じてもらえるだろうと。
しかしどんなに待っても美城からの返事がない。
写真を送ってから、かれこれ5分が経過した。
『美城ちゃん?』
不思議に思った響は再びメッセージを送る。
するとそれとほぼ同時に家のインターホンが鳴る。
「誰だろう?」
首を傾げながらドアを開けるとそこには肩で息をしながらこちらを見ている美城が居た。
「美城ちゃん!?」
なんで美城ちゃんがここに?
驚きながら声をかけるが美城はこちらを見ずに、家の中に向かって声をかける。
「響くん! 居るんでしょ?」
美城は大声でそう言った。
「ちょっと!? 美城ちゃん?」
響は驚いて再び美城に声をかけと、美城はこちらをキッと睨んで、
「貴方に美城ちゃんだなんて言われたくないです! 私のことをそう呼んでいいのは響くんだけです!」
あぁ、そういえば美城ちゃんって僕以外にちゃん付けで呼ばれるの嫌ってたな…。
響はやや現実逃避気味にそう考えた。
しかしそこで、ふと思い当たる。
ーー ん? 僕以外に?
もしかして僕、信じてもらえてない?
「そもそも貴方は誰ですか? なんで響くんの家に居て響くんの服を着てるんですか!?」
「えっと…とりあえず落ち着いて? あと外だとご近所の目もあるし上がって?」
響がそういうと美城は顔を少し赤くして周囲を見渡して足早に家の中へと駆けていった。
美城を追って響も家へ入ると、美城はリビングのソファに腰掛けていた。
それを見た響は美城の対面へと座る。
するとすぐに美城は響に質問をしてきた。
「それで、貴方は誰なんですか? どうして響くんの家に居るんですか? というか響くんはどこですか?」
質問がいっぱいである。
響がどこから答えるかと考えていると、美城はその間をなにか勘違いしたのか
「言えないような関係なんですか? もしかして…彼女!?」
なんでそこまで発想が飛躍するのか・・・
「違うよ そうじゃなくて…」
響は美城に説明をしよう声をかけるが、その声は届いていない。
「なんで…私の方が響くんのこと先に好きだったのに……なんで」
すると美城は小さく弱々しい声でささやいた。
響は美城のささやきを聞きとても驚いた。
――まさか美城ちゃんがまだそんなふうに思ってくれてたなんて
誤解を解かなくてはならないのに、思わず響は嬉しくて、頬が緩んだ。
ちなみにこの際、美城は俯いていたので響の顔を見ていなかった。
見ていたらきっとさらなる勘違いを起こしていただろう。
とにかくこのままではいけない。
早く誤解を解かなくては・・・
しかしこの誤解を解くには自分が如月 響だということを証明しなければならない。
――例えば、2人しか知らないこととか
そう考えてひとつ思い当たることがあった。
――でも、あのことを言うと絶対怒られるかもしれない
そう思いつつも誤解を解くことを先決し、実行に移す。
「美城ちゃん」
「なんですか」
幼馴染の素っ気ない返事に、少し胸が痛んだが構わず、言葉を続けた。
「僕が響だってことを証明するよ」
「何を言って…いい加減に…」
怒ったような声で返されるが構わない
「僕と美城ちゃんしか知らないこと」
「……」
響は覚悟を決めて口にする
「保育園のとき、美城ちゃん、僕に大きくなったら結婚しよって言ってくれたよね」
「ッ!! 」
「下手くそな字で『こんいんととげ』って書いた紙をくれてさ」
「ちょっ! 」
「しかもその紙、小学校に上がってもまだ大事にしてて」
「まって! 」
「家に遊びに行ったときに嬉しそうに見せてくれてさ、宝物なんだって」
「まって! ほんとに! お願い」
「あっ そういえばそのとき頬っぺにキスしてくれたっけ?」
「ッ!!! 」
「それから…」
「ちょっと待って!! 」
「ん? 」
さらに響は2人しか知らない過去の秘密・・・という名の美城の恥ずかしいエピソードを語ろうとするが、美城が顔を真っ赤にして声を上げた。
「わかった!もうわかった!信じるから!だからお願い、それ以上言わないで! 」
「う、うん」
美城は必死で響を止めた。それはもう必死に。
そして、ここまでされて疑う方がおかしいだろう。
しかし美城は同時に、先程自分が口走ったことを思い出した。
『私…響くんの前で好きって言っちゃった!』
信じてもらえたことにほっとしている響に美城は恐る恐る声をかける。
「あの…響くん」
「ん?」
「さっき私が言ったことは…その…」
「さっき言ったこと?」
響は美城がなにを伝えたいのかが分からず首を傾げる。
ーーこの男、これを素でやっているのだ。もしやSの才能があるのかもしれない。
「そのっ…私が響くんのことを…好きって言ったこと」
「ああ うん、言ってたね」
美城の顔をみるみる赤くなっていく。
「その…なんというか……」
美城はなんと言ったらいいのかわからず言葉が出てこない。
響はそんな美城の顔を見て声をかけた
「美城ちゃん」
「な 何?」
響は美城の目を見て、そしてこう言った
「好きだよ」
「へ?」
「さっき、美城ちゃんが僕のことを好きだったって言ってたくれたとき、嬉しかったんだよ?」
そう言って響は微笑みながら
「僕は美城ちゃんのことが好きなんだよ」
優しく声をかけた。
唐突な告白をされた美城は突然のことで頭がついていけてないのかポカンとしていたが、言葉の意味を理解すると、だんだんと目に涙が溜まっていき遂には泣き出してしまった。
「うえぇぇぇん」
「えっ? 美城ちゃん?」
響が駆け寄ると美城は響に強く抱きついた。
「よかったよぉぉ」
最初は困惑していた響だったが、しばらくすると抱きついている美城の頭を優しく丁寧に撫でてあげるのだった。
美城の突然の号泣からしばらくし今は、2人で同じソファで並んで座っている。
「えっと…落ち着いた?」
響が声をかけると美城はコクンと首を縦に振った。
「……」
「……」
しばらくの沈黙が続いたあと、響は思わず尋ねた。
「えっと…それでさっきの返事は…」
すると美城は頬を膨らませながら少し拗ねたような表情で
「いじわる」
そう呟いた。しかしすぐに表情を戻すと、響の方を向きこう続けた。
「私は、ずっと響くんのことが好きだったよ。昔からずっと今もこれからも変わらず響くんのことが大好きです」
そういうと美城はとても可愛らしい笑みを浮かべた。嬉しそうな恥ずかしそうな、それでいて幸せそうなそんな笑顔だった。
響はそれを聞き、美城と同じように幸せそうな笑みがこぼれた。
やがて2人の距離は縮まっていき、そしてやがてゼロとなった。
ここに、少し変わった。それでいてどこにでもいるような、幸せそうなカップルが誕生した。
肝心の問題は何一つとして解決しないままに……。
短編にしては長いのでは?
と書いてて思った藤ノです。
初めてTS百合を書きました。
これは百合なのか?と仰られる方もいるかと思いますが、これは僕的には百合です(ドヤッ)
読んだ人が百合だと思えばそれは百合ですよ。
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