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PKKエリス  作者: IROHA
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第6話 無所属

「……私の腕を買って頂けるのは嬉しいのですが、その誘いを受ける事は出来ません」




あれから、私は閉店間際のスーパーで半額に値引きされたお惣菜を買う日々を続けていた。

その時間帯になると、主婦よりも仕事帰りの男性の方が多く、しかも思考回路が私に近い。


『自炊は出来ないけどお金が無いから、せめて半額のお惣菜を買いたい』


そんな連中が迷っている隙を突いて、特に嫌いな物が無い私は速攻で手を伸ばして弁当とおかずをかごに入れる。

相手の『やられた、しまった!』という表情は見なくても分かる。

……ドロップ品は優先権利のあるうちに拾うのが鉄則だろう?

そんなこんなで、私の食費はコンビニ時代よりすっかり低下し、その分をマスターズオンラインに投資する事が出来るようになったのだ。

19時半にはスーパーに到着するように行動するというのが、完全に定着していた……ありがとう、亮子。

ちなみに、今回私が手にしたのは『肉じゃが弁当』と『フライドポテト』と『里芋の煮っころがし』だった。


「……まあ、なんて素敵な食卓なんでしょう」


反義語ではないと強調しておく。

食事を終えてAFKから戻ると、個人チャットが飛んできていた。




『あなたのPKKとしての評判を聞いてチャットをさせて頂きました。あなたでしたら、絶対に要塞戦で活躍する事が出来ます。是非とも、私のギルド【ダブルドラゴン】に所属して頂きたいのです!』




……私は大きくため息をついた。

確かに、私はギルドに所属していないし、ミント以外と深い関わりを持っている相手は片手で数えるくらいしかいない。

それには当然理由があるし、きちんと説明すれば相手は納得するはずだ。


まず、PKKを生業にしている以上、ギルドに所属すれば『仲間』が出来る事になる。

それ自体が既に足枷であって、依頼を受けようとしたけど標的がそのギルドと友好的なギルドのキャラクターだったら、当然ギルドからストップが出るだろうし、無断で行動したらギルドとギルドの仲に傷が入る。

そして、そもそも『ダブルドラゴン』のギルドメンバーが標的になる可能性だってあるのだ、いくらなんでもギルドメンバーを殺すような事は出来ない。

私が選んだ道は、とても孤独な道であって、日陰者のような生き方をしていた方が仕事がしやすいのだ。

それらを、少し柔らかい言い方で説明して断りのチャットを入れたのだが……。




『あなた程の実力の持ち主ならば、PKKよりも要塞戦で活動すべきです! 誰でも良いというわけではないんです、私達は強い人に来てほしい。だから、あなたに声をかけているんです!』




……私のマスターズオンラインライフを全否定されたみたいで実に不快だ。

もっとも、私も要塞戦に参加した事が無いわけじゃない。

要塞戦とは、各地に点在している要塞の所有権を巡るGvG(ギルドバーサスギルド)である。

勝者となったギルドメンバーには、それなりの報酬を得る事が出来るし、最低1週間はギルド名が表示されるので名誉にもなる。

どうしても一時的に手を貸してほしいって所に参加したが、それはもう大変だった。

まるで軍隊にでも所属したかのように規律が求められ、戦略とか報告とか、それまでPvE(プレイヤーバーサスエネミー)でやってきた自分はぬるま湯に浸かっていた事を痛感した。

『これが、ガチ勢か!』……と。


私は再度断りのチャットを入れて、会話を切断した。

……どれだけの好条件を提示されても、私はPKKをやめるつもりは無い。

確かに、標的を殺し続けているのだから、対人戦でもそこそこやれるかもしれない。

けれども、私はボイスチャットで指示を受け、それの従順な駒になって戦う気には到底なれない。

私には私のマスターズオンラインライフがあるのだから、その辺りは尊重してほしいし、誰にも侵害する権利は無いはずだ。

あとは、先に言った通りだ……必要以上の交流を持つと『仕事』の邪魔になる。


『なるほどね、エリスの気持ちは良く分かるよ。コミュ障だもん』


「……身も蓋もない言い方をしないでほしいなぁ。私は無所属の立場でいた方が仕事がしやすい、それだけよ」


依頼を持ちかけてくれた人には、親身になったフリをして対応しているつもりだし、私は極度なコミュ障ではないと思う。

確かにゲームでもリアルでも人混みは苦手だけど、ゲームでは時と場合による。

装備やアイテムを買う時には、どうしても繁華街に行かないといけないし……。

ついでに言うと、ミントもギルドには所属してない。


『良いなぁ、エリスは個人チャットがたくさん飛んできて。私なんて、殆どがナンパだよ? ほんっと、下心が見えてる男は嫌だよね』


「……ミントがギルドに所属しないのって、姫扱いされるのが嫌だからなの?」


『それも嫌だけど、それが理由じゃないよ。……まあ、そのうちエリスにも分かるよ』



分からないよ、本当に分からないよ。

だって、ミントは知り合いだらけだし、凄く社交的で親友と呼べるような存在だってたくさんいる。

それなのに何故ギルドに入らない? 私は私の『仕事』の都合で無所属を貫いているけど、ミントはそうじゃない。

もしも依頼人からミントを殺してくれと言われたら、私は100億シルバー積まれても拒否出来る。


「その日が近い事を祈るよ。とにかく、ギルドには入らない」


『じゃあ、私も引き続き無所属でゲームを続けるよ』


結局、こうして私達姉妹は揃ってギルド無所属を続ける事になったのだ……。

正直な所、ミントが心の底から無所属を望んでいるとは到底思えない。

だが、これ以上深入りするのも礼を欠くというものだ、1人のゲーム友達としても、当然だが姉としても。

その日は、亮子の考えている事が分からなくて、いつもより寝付きがかなり悪かった。

ツケは翌朝に盛大にやってきた……。


「15時半……」


一体、私はどれだけの時間を夢の中で過ごしたのだろうか。

……いや、どんな夢を見たかなど覚えていないのだが。

とりあえず、ベッドから身を起こし、依頼を確認する……。



『3人組のアカネに襲撃されました! エリスさん、連中を殺して下さい!!!』



……当分はこの仕事に全力を尽くそう、一旦亮子の事は忘れておこう。

何かに没頭すれば、他の事は忘れる。

私は半ば現実逃避も同然の形で、依頼の詳細を尋ねるのであった。

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