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PKKエリス  作者: IROHA
4/7

第4話 島流し

「……ソーシャルゲームって、本当にPay to Winの世界だよね」


水曜日の午前中、いや正確には14時までマスターズオンラインは定期メンテナンスを行う。

その時だけ、または気晴らしをしたい時の為に私はソーシャルゲーム、即ちソシャゲをやっている。

しかし、この『ガチャ文化』というものはどうも好きになれない。

課金したら最高レアのキャラクターが出る……かも!!!(3%くらいで)、そんな世界である。

まあ、ガチャを回している時の高揚感は分からなくもないが、それで中毒になって廃課金になってしまうのは、同じネットゲーマーとしては失笑に近いものを感じる。

『物事は計画的に』物欲が強すぎる人は、ソシャゲをやらないという選択肢も視野に入れた方が良い。あと、射幸心への耐性が無い人も。


ちなみに、マスターズオンラインでも『ランダムボックス』というアイテムはあるが、基本的に運営がログインボーナスで配布するのが大半であり、リアルマネーやゲーム内通貨が絡む事は極めて稀だ。

そういう意味でも、私はこのゲームに救われているかもしれない。

もしも、『5万課金すると、なんとすっごいボーナスが!!!!』みたいなイベントが発生してしまったら、私はそれを求めて数日だけ単発のアルバイトを入れる事になるかもしれないからだ。

コミュニケーション能力……私にそんなものがあるとお思いか?


そして14時ピッタリに、私はマスターズオンラインを起動してゲームの世界に戻る。

……まあ、私にとっては仮想世界ではない、もう1つの現実の世界だ。


「どうしようかな、この依頼……」


実は、例のトレイン作戦の直後に依頼のチャットを受け取っているのだ。

このマスターズオンラインでは、釣りという生活コンテンツがあり、一定時間放置すると自動的に魚を釣ってくれるというシステムだ。

しかし、価値のある魚を釣ろうと思うと船で沖に出ないといけない。しかも、当然ながらそこは安全エリアではない。

依頼主は沖で釣りをしているそうだが、寝放置をしたタイミングで敵対プレイヤーから攻撃を受けて、釣りが中断されてしまっているというのだ。

攻撃を受けたキャラクターがのんきに釣り竿を垂らし続けるほど、マスターズオンラインは平和ボケしていない。キャラクターは臨戦体勢に入る。

だが、中身がいないのでは、ただの棒立ちと同じなのである。

この依頼主は釣りを生業としているので、非常に困っている……だから、釣りを妨害している人を倒してほしいというわけだ。


そう、またしてもシステムの穴を突くような形で妨害を受けたのだ。

……どうせなら殺しきってくれた方が仕事がしやすかったのに。

このゲームに置けるアカネのペナルティは相当厳しいが、逆を言えば殺さない妨害なら無法地帯なのだ。

なんでそんな意味の無い事をするのか?と思うかもしれないが、それは登山家に『何故山に登るのか?』と聞くのと同じである。

他のプレイヤーに嫌がらせをする事に快感を覚えるプレイヤーは、意外と少なくない。

『他人の不幸は蜜の味』なんて言葉もあるくらいだ。

PKは認めているけどリスクがあるよというのがマスターズオンラインだが、これはもはや一種のハラスメント行為に近い。

寝放置で釣りをする度に、攻撃を1回だけ受けて棒立ちになっているのだから。


さて、今回の依頼には問題が多い。

まずは、依頼主が寝放置している時に攻撃を受けているので、犯人が分からないという事。

そして、海はとても広いという事。

……最後に、またしてもターゲットがほぼ確実に『ブルー』であるという事だ。

正直、画像の1枚でも提出してくれれば良いのだが、残念ながら寝ている状態ではそれは無理だ。

しかし、私はこの依頼を受ける事にした。


「依頼金は1000万シルバーです。成功させる自信がありますので、前金は半分の500万シルバーで結構です。……ただし、少し時間がかかるかもしれません」


そして、私は久々にサブアカウントを起動させる事にした。

最近では、同じゲームで複数のアカウントを持っている人は決して珍しくはない。

……もちろん、お金を受け取るのはエリスだ。

だが、その前に『誰が犯人なのか分からないと仕事にならない』ので、私もサブキャラクターを使って沖で釣りをして放置をする事にしたのだ。

それは即ち、とっても大きな釣り針を仕掛けたようなものだ。


『それで、ヨシノボリでログインしてるってわけね……』


「まあ、退屈ではあるけど、犯人の特定が最優先だからね」


沖で釣り糸を垂らしながら、ひたすらに犯人を待つ私。

ミントとのチャットは数時間にも及んだ。

徐々にインベントリが魚で埋まっていく……意外とバカに出来ない金額だな。

っと、そんな事を考えていると1隻の小型船が近づいてきた。

しかし、その船は5分ほど停止して、まったく動かない状態が続いていた。


「……ギルドはキッズ海賊団、名前はじゃんく。なるほどね」


ギルドは知っている。海賊団と名乗っているだけあって、海に関するコンテンツに力を入れている所だ。

しかし、まさかこんな妨害行動を推奨しているとはしらなかったな。

『じゃんく』がやがて私の船に乗り込んで来て、1発だけ素手でパンチを浴びせる。

途端に釣り行為を止めるヨシノボリ、そして即座に消えていくじゃんく。

……どう見てもクロです、本当にありがとうございました。


「犯人特定っと……」


時計を見る、午後7時40分。

……ふむ、タイミングとしては丁度良いか。


「ミント、犯人分かったから私寝るよ。3時にアラームかけておくから、起こさないでね」


『うぅ~! 一緒に、また虹のペンダントを取りに行きたかったのに……」


まあまあ、それはまた今度だよ。

適当にミントを宥めると、私は寝るには早すぎるような時間で眠りについた。


そして午前3時。

夜型プレイヤー以外は、ほとんどが寝ている状態。

私はエリスでログインして、高速船で海域を探索している。

事前に依頼人に連絡し、この夜に決行する事を伝えてある。

広い海だが、稼げる魚が釣れるポイントは限られているので、じゃんくを見つけるのは意外と簡単だった。

まず、私はじゃんくが本当に放置状態かどうかを確認する事にした。

じゃんくの船と並べるように船を移動させる。

……しかし、じゃんくは全く動かない。やはり寝放置で釣りをしている。


「……よし、やるか」


私はじゃんくの船に乗り込み、刀を抜いて『はじき技』を繰り出した。

そして、吹っ飛ばされたじゃんくは見事に私の船に搭乗したのであった。

寝ているであろうじゃんくは気付くはずもあるまい、自分が今高速船に乗せられて移動させられている事など。


その後、船で30分ほど走らせて、このゲームも僻地も僻地の拠点のサハッテ島に到着した。

HPの自動回復があるので、じゃんくのHPは既に全快。

そこで、私は再度はじき技を繰り出して、じゃんくを私の船から島の砂浜へと突き落とした。

……そして、帰り道は1人でクルージングである。


それから数時間後、ゲーム内の全体チャットはじゃんくの阿鼻叫喚で埋め尽くされていた。

そりゃそうだ、誰も好んで行きたがらないようなゲームの果ての拠点のサハッテ島の砂浜で棒立ちになっていたのだから。

どう足掻いても自力では戻れない。

ゲームのシステムで、不慮の事故により移動不能になってしまった時に『脱出』というシステムがあるが、近くの拠点の動ける場所に移動出来るだけであり、島から抜け出す事は不可能だ。

……まあ、おせっかいが好きな人かギルドメンバーにでも助けてもらうんだな、相当嫌がられるけどさ。


仕事は完了した、じゃんくは6時間くらい全体チャットで救援を求めていたのだから、実に痛快だ。

依頼人にその事を報告すると、本気で喜んでくれて成功報酬に少し色を付けてくれた。

その後、キッズ海賊団は報復を恐れて釣り放置のキャラクターを襲う事も出来ず、また自身も釣り放置が出来なくなった。

こうして、海の平和は守られたという事だ……一時的にね。

また、気が緩んだ時に同じ事をしてほしい。私のクルージングに同伴者がいると楽しいからね。


『……いや、これは拉致だよ、誘拐だよ』


「島流しは、罪人への常套手段なのでね」


ミントは呆れていたが、私は私なりに1番確実な手段を取っただけだ。

さてと、3時から起きてたからかなり眠い。

……私は昼寝をしよう、もちろん陸地の安全エリアでね。

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