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PKKエリス  作者: IROHA
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第1話 PKK

「それで、どの場所でやられたのですか?」


『五ツ星聖殿です。相手との面識は全くありません……』


私の名前はエリス。

もっとも、これはネットゲームでの名前なのだが。

数年前から、私は【マスターズオンライン】を始め、今や完全なるヘビーユーザーである。


「相手のキャラネームとジョブを教えて頂けますか?」


『はい、SSを撮ってありますので、こちらをお送りします』


さて、MMOネットゲームにおいて、殆どのプレイヤーは生業を持っている。

装備を良くする為、何かを維持する為にはゲーム内通貨が必要となり、日々ゲームの世界の中で活動しているのだ。


「……なるほど、このアバターはウィザードですね。それでは、調査にしばらく時間を頂きます、詳細は後ほど」


『は、はい! とにかく、こいつを【殺して】ほしいんです!!』


……今回の依頼主との個人チャットのウィンドウを閉じた。

まあ、上客だしぼったくるのはやめよう。

500万シルバーも受け取れば十分であろう、あとは今の私で確実に【殺せる】かどうかだ。


「……まるで裏稼業よね」


このマスターズオンラインでは、PK(プレイヤーキラー)行為は合法であり公式に認められている。

しかし、もちろんリスクはあるし、PKをされた側は恨みを覚える。

私のこのゲームでの生業は、そんな恨みを覚えたプレイヤーから依頼を受けてPKプレイヤーを討伐する。

……すなわち、PKK(プレイヤーキラーキラー)をする事で稼いでいるのだ。


「キャラクター名は、【ガミガミGGY】か……。所属しているギルドは聞いた事はあるけど、あまり有名じゃないかな」


ゲームにおいてPKに手を染めてしまう人も、最初から殺したくて始めたとは限らない。

狩場の取り合いで邪魔になったから、つい手を出したら倒せてしまって、それが快感となった人もいるのだ。

もちろん、最初から殺意バリバリで暴れまわっている輩もいるにはいるのだが。


『エリス、商談終わった?』


そんな矢先、別のウィンドウから個人チャットが飛んでくる。相手はミント、私の数少ない友人だ。


「上客だから、そんなに苦労する事は無かったよ。農民さんが狩場で殺されてくれるから、私の懐が暖かくなるんだから」


残酷なようだが、それは本音である。

PKKを仕事にしている以上、PKをする人がいなくなったら飯の種に困る。

泣きついてくる人には『大変でしたね、なんとかしますよ』と慰めておきながら、内心では『殺されてくれてありがとう!』とすら思っているのだから。

最初こそ、私の知り合いをPKした人に報復する為にPKKを始めたが、気が付けば噂が広まって仕事になっているのだから分からないものだ。


『えー!? 500万シルバーなんかで受けるの? もっとがっぽり貰っちゃってよ! エリスが強くなると、私も助かるんだから』

「……あのね、ミント。相手は上客なんだから、機嫌を損ねて取引を失ったら、もっと痛手になるんだよ?」


それに、この【ガミガミGGY】は、そこまで強そうに思えないし……このくらいが相場だろう。

もっとも、私と同じ様な事をしている人が、このゲームで何人いるかは知らないが。


『それよりもさ、今度【虹色のペンダント】を取りに行こうよ! あのアイテム、今相場上がってるから高値で売れるよ!』

「まあ、それは構わないけど……」


ミントとの個人チャットと並行しながら、私はとある村のNPCに向かって移動をしていた。

そのNPCに10万シルバーを払ってキャラクター名を入力すると、現在地を大まかに教えてくれるのだ。

PKKをする上で、このNPCがいるのといないのでは仕事のしやすさが全然違う。


「……ノーザン村、か。安全エリアにいるって事は、生産中か放置中って所かな」


マスターズオンラインでは、PKが不可能な安全エリアとPKが可能な戦闘エリアがある。

当然ながら、PKKをする為には相手が戦闘エリアにいてくれないと仕事が出来ない。

更に言ってしまえば、ターゲットが単独行動をしている事も仕事をするに置いては重要な事であり、PTプレイ中に襲撃したら下手したら返り討ちだ。

なので、なんだかんだで仕事を果たすまでに短くても3日、長いと一週間くらい。

最悪の場合、討伐不可能と判断して依頼主に断りの連絡を入れる事もある。

ちなみに、PKをしたプレイヤーは一定期間キャラクタネームが赤くなり、死亡時のペナルティが大きくなる。

そして、彼らは『アカネ』と呼ばれる。赤い名前(ネーム)だから、アカネである。


「仕方ない、今日の所はミントに付き合っておくかな……」


ちなみに、アカネを討伐する事自体にはペナルティは存在しない。

しかし、1度狙ってしまえば相手に警戒されるので、入念な準備が必要なのである。


『エリス~! ゴミしかドロップしないよ~!』

「……来たいって言ったのは、そっちじゃない。出るまで帰らないから、覚悟決めなさないよ」


まあ、普通のプレイヤーは気付く事はあるまい。

一線級の狩場とは云えど、そこでペア狩りしているうちの片方がPKKである事なんて。

アバターで隠しているが、私が装備している数々の装備は依頼主から受け取った報酬によるものが殆どだ。

……そういう意味では、私もこのゲームのPKに違う意味で魅了された1人と言っても良いだろう。




『ガミガミGGY さんは、五ツ星聖殿にいます』


好機は2日後に来た。

ターゲットが、戦闘エリアにいる事を確認した。

しかも、依頼主をPKした所と同じエリアにいるのだ。


「さてと、アバターを変えなきゃ……」


そのままの華美なアバターでは、接近されたら気付かれてしまう。

そこで擬態に特化した、『カレハアバター』を使うのだ。

これを使うと、PTを組んでいない相手は名前を確認する事が出来ない。

準備を整えて、馬に乗り五ツ星聖殿に向かうのであった。


「…………いた」


10分後、ターゲットを確認した。周囲に他のプレイヤーは存在しない、ソロ狩り中のようだ。

だが焦ってはいけない、相手はPKを仕掛けた以上、対人用の装備を用意しているかもしれない。

狩り用の装備と対人用の装備は全然違い、もっと言ってしまえば能力を向上させるバフやエリクサーも違う。

相手にマウスを合わせてバフが表示される。

ほんの数秒であるが、それが対人用ではなく狩り用のバフである事を歴戦のPKKである私は一瞬で判断した。

ここからは、素早さと正確さが命である。


「いけっ!!」


私は伏せの状態から身を上げると補助武器の弓から麻痺矢を放つ。

鋭く放たれた矢はターゲットに命中し、その動きを数秒止めてくれる。

その間に、私は刀を抜いて背後から襲いかかり、一気にHPを奪い取るのであった。


『ガミガミGGY さんを倒しました』


もちろん、私はターゲットを倒した所で経験値は全く入らない。

だが、相手はペナルティだらけだろう。

そして、仕事を終えた以上は長居は無用、素早く五ツ星聖殿から立ち去るのであった。


『ありがとうございます! これ、成功報酬です』

「いえいえ、こちらこそいつも(殺されてくれて)ありがとうございます。今後とも、よろしくお願いします」


依頼主は、PKされた恨みを晴らす事が出来て、私は報酬を受け取る事が出来る。

これがPKKという仕事である、少しは私のやり甲斐を理解してもらえただろうか?


『エリスー! エリザベスロッドが、また相場上がってるよー!』

「……やれやれ」


仕事を終えてしまえば、私はまた普通のプレイヤーに戻る。

そして、また数日後には誰かが私に依頼をしてくるだろう。

私は、500万シルバーをストレージに入れて、町の市場へと足を運ぶのであった。


『初めましてエリスさん。あなたの噂を聞きました、どうか私の代わりにあいつを倒して下さい』

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