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閉鎖世界の魔法遊戯  作者: 奏亜
1章 迷宮の底編
9/15

7話 鬼とお喋り

話あたりの文字数が定まらないのはどうしたらいいんでしょうか?

「迷宮王?」


 翌日。朝食の席でレンはザレクから聞いた話を皆に伝えた。

 8層には迷宮王がいて、その上の7層に行くには迷宮王の部屋を通らなければならないこと。

 迷宮王はこの迷宮において最も強いものがなるということ。

 その迷宮王と戦うかもしれないということ。


「でもさ、その迷宮王がいない時に通っちゃえばいいんじゃない?」


 話を聞いて、過度な戦闘は避けたいと、ひかりが言う。彼女の提案も悪くはないのだが、それを実行するにはこちらの情報は少なすぎた。


「それが一番いいんだろうけど、その迷宮王が外出する時間が分からなければ、何時行っても同じだ」

「あ、そっか。もう、扉に外出中とかの札を下げてくれれば楽なのに」


 あったらわかりやすくていいのだが、そんなもの作るわけがない。敵だって多いはずだ、迷宮王には。容易に情報を漏らすような真似はしないだろう。何より面倒臭い。

 ひかりの発言をスルーし、修斗はレンのチームの予定を確認する。


「それで、君たちは今日迷宮王の部屋を覗いてくるんだって? 危ないから止めろ……と言いたいところだけど、それができるのは君たちだけだね。よろしくお願いするよ」

「ああ」


 続いて、修斗達のチームの成果を聞く。

 彼らの方は迷路のような道を進み、時々見つけるゴーレムを相手にする、と。それ以外は何もなかったらしい。ただ、ゴーレム相手にも苦戦をしているようだ。

 報告が終わった後、それぞれ探索の準備に取り掛かった。


   *


 昨日ザレクと戦ったところまで向かうと、そこには誰もいなかった。

 まあ一日中寝てるやつなどいないだろう。こんな道の真ん中で。

 落胆か安堵か、息を吐き出した千里は通路の奥を見つめて笑みを浮かべた。


「ここから先に進めば、いよいよ迷宮王の部屋だね……ああ、緊張してきた」

「楽しみだね」

「とりあえず話ができればいいな。できなかったら……」

「逃げる!」


 怪我したくない、と由紀は意気込みを語った。実際彼女の言うことは正しかった。


「まあ、迷宮王の力の一端でも見れればいいかな」


 千里の言うそれは、ちょっかいを出すということか。なんとも怖いもの知らずなことだ。少しも臆する様子を見せない仲間に、レンは苦笑を漏らした。


「危なくない程度にな。__あ。あれが迷宮王の部屋か?」


 対して長い距離を進まずに、それらしきものを見つけることができた。高さ5メートルは超えるだろうか、それほどまでに大きな両開きの扉があった。扉には細かな装飾が施されており、いかにも権力者のいそうなところだ。近づいてみると、扉には取手らしきものはなかった。この扉も押し出すことによって開閉する仕組みか。

 レンが検分していると、由紀と千里は大きな扉を見上げて感嘆の声をあげていた。


「これが迷宮王の部屋……でかい」

「まさか、迷宮王っていうのがそもそも巨人だったり……?」


 扉が大きいから部屋も大きいと想像し、そこから迷宮王の姿さえも想像する。なんとも想像力豊かな彼らであった。


「開けてみないことには何もわからないな」

「じゃ、開けよう。レン、お願い」


 軽々というくせに人任せ。扉を開ける程度に目くじらをたてるつもりはないが、苦笑してしまうのは仕方がなかった。


「開けるぞ」


 レンは扉に手を当て、だんだんと力を込めながら押し出す。ギィィィィ、と鈍く重い音を立てて扉の片側が開いた。見た感じ、中は真っ暗である。

 3人は扉を開けっ放しにして、恐る恐る中に入った。頼りは、全員が身につけている聖法具の明かりだけであった。


「誰もいない……?」


 数メートル先はもう見渡せない。何も見えないことから由紀はそう呟く。が、レンはある一点を注視していた。


「いや、いる。こっちを見てる」


 魔力も感じるが、それ以前に暗視能力でレンにはある鬼の姿が見えていた。それも実力的には相当高い。いつ襲ってくるかわからない以上、このままの暗闇にしておくには危険すぎた。

 とん、と床をつま先で叩き、十分な明るさが確保できるよう、魔法を使った。

 昼間のような明るさに、部屋の全容は明らかになった。円柱状の部屋で、壁の上方にはロウソクが取り付けられていた。部屋の奥の方は何段か幅の広い階段が設けられており、高くなったそこには豪華な玉座ともいうべき椅子が置かれていた。その椅子には、この部屋の主が座っていた。


「誰だ、お前らは?」


 彼はそう問いかけてくる。その見た目はそのまんま鬼といった感じだ。赤い肌をもち、がっしりとした肉体。それから頭に生えている2本の角。凶悪な顔立ちと相まって、不機嫌な今は威圧感が途方もなかった。

 今までにないプレッシャーに、千里と由紀は顔を引きつらせた。相対しただけで恐慌状態に陥らないのは良いことだが、由紀は若干足が震えていた。

 そんな2人に変わり、レンは一歩前に出て名乗った。


「俺は天月レン。よろしく。そちらの名前を教えてもらってもいいか?」

「……名は無い。今代の魔王に剥奪された」

「じゃあ、立場は?」

「この迷宮、悲願の鏡台の迷宮王だ」


 迷宮王は、憎々しげにレンの問いに答えた。その様子はまるで何かに怒りを感じているよう。彼の言った今代の魔王に対してだろうか。


「迷宮王。ひとつお願いがあるんだけど、聞いてくれるか?」

「却下だ」

「実は俺たち、気付いたらこの迷宮にいたんだ。この、8層に。ここは俺たちの住む場所じゃないし、早くここから出たい。だから、上層に繋がる階段を使わせてくれないか?」

「却下だと言っているだろう」


 問答無用でお願いを言ってみたのだが、やはりダメだった。でも、どうしてだろう。純粋に気になったので聞いてみた。


「なんでだ?」

「なぜ? そんなもの……気付いたら迷宮にいたという輩が、なぜそうも立派な聖法具を身につけているんだ?」


 言われてみればそうだ。聖法具など、魔人類にとっては害でしかない。貰ったという言い訳は使えそうにないので、こんなことを言ってみる。


「これは、落ちてたから拾ったんだ」

「ありえないな。ここまで来た人族はすべて殺した。同時に聖法具も破壊している。形を残している聖法具など、少なくともこの8層には落ちていない」

「拾ったのは事実だ」

「嘘だな」


 拾ったのは本当のことなのだが、どうにも信じてもらえない。確かに8層ではなく、9層で拾ったものだから、迷宮王の言ってることは正しいのだが。でも9層は彼ら魔人類には知られていない階層であるため、真実も言うことはできなかった。


「しかし、どこで拾おうが関係ない。人族は見つけ次第殺す」

「俺とは話してるけど?」

「ここまで来た人族などそうそういない。しかも話が通じるやつなど珍しいから乗ってやっただけだ」

「ああ、ありがとう」


 話に乗ってくれたのが素直にありがたかったので、ついそう言ってしまった。迷宮王は不機嫌そうな表情を少しだけ崩してレンを見た。


「なぜ礼を言う。これから俺はお前らを殺すというのに」

「なんとなくだよ」


 ついとは言えないので、はぐらかしておく。それと、話が出来るうちにもう一つ聞いておくとしよう。


「聞いていいか? 人族は見つけ次第殺すっていうのは?」


 その問いには、迷宮王は言葉に詰まった。タブーだっただろうか。と、レンが取り消そうとすると、その前に迷宮王が言いづらそうに答えた。


「それは、先代魔王様の方針だ。偉大なお方だった」

「死んだのか?」


 過去形で語られたので、なんとなくそうだろう。迷宮王はその言い方に眉をひそめると、頷いた。


「……ああ。先代魔王様に代わり、今代の魔王は、ナハトというぽっと出の魔人だ。あいつが……あいつさえいなければ、今頃人族など皆殺しにできていたというのに……っ!」


 彼は拳を握りしめて心底怒りをあらわにした。

 物騒な雰囲気になってきた。しかし今は重要な情報が手に入るチャンス。冷静になってもらい、もっともっと話してもらわなければ。


「興奮するなって。落ち着け。その、ナハトっていうのはどんなやつなんだ?」

「あいつはっ、魔人類の中でも下位の種族である魔人。でも魔人類の誰よりも強かった。俺たちはあいつに従うしかなかったんだ!」

「そうか。迷宮王は、ナハトにどんなことをされたんだ?」

「先代魔王に使えていた将軍、俺も含めた全員を追放した! その名前さえも剥奪したんだ! 俺の名前は、先代魔王様に与えられたものだというのに……!」


 苦々しそうに、悔しさを前面に押し出すように訴える。今まで恨み言を聞いてくれるものがいなかったのだろう、言葉がどんどん出てくる。

 でも気になることが一つあった。名前を剥奪とは、さっきも思ったがどういうことだろうか。


「名前を剥奪する? って、どういうことだ?」

「呪いだ。一生解けない、名前を忘れるという呪い。それをかけられた」


 名前を忘れるためだけに呪いを使うとは、変わった魔王である。しかし、迷宮王がここまで恨みを感じるくらいなのだから、効果は抜群なのだろう。名前の大事さは、こちらから聞かずとも教えてくれた。


「名前は、固有名詞だ。その個人だけに唯一の名がつけられる。その名を奪うということは、個をなくすということに他ならない」


 つまりは、自分を否定されることと同義だと。


「魔王ナハト、あいつは絶対に許さない……」


 迷宮王の顔はこれ以上ない怒りに満ちていた。彼は魔王に復讐する気満々なようだ。しかし、いつまでたっても迷宮にいてはそれは叶わないだろう。どうするのかはこちらが気にすることではないか。

 人族は皆殺しと言っていたし、これ以上話していても発展はないだろう。レンは後ろにいる2人に声をかけた。


「由紀、千里。話は終わりだ。逃げるぞ」

「いいの?」


 それは迷宮王がここから逃がしてくれるかということだろう。そんなもの、力づくでどうにかする。由紀の問いにしかと頷き、迷宮王に声をかけた。


「辛いことを話してくれてありがとう、迷宮王。俺たちはこれにて失礼するよ」

「お前、自分の立場が分かっていないのか? 人族は見つけ次第殺すと言ったはずだ。お前らはここで死ね」

「ちょっとくらい優しくしてくれてもいいんじゃないか? __2人とも、逃げろっ!」


 レンの叫びとともに、迷宮王が拳を固く握って迫る。その速さは、黒翼人のザレクよりも、上。一瞬のうちに目前に現れた迷宮王を、刀でもって迎え撃った。

 拳と刀が交わる。これを見れば明らかに拳が切り裂かれそうなものだが、迷宮王の皮膚はそこらの金属よりも硬かった。


「レンくんっ! こっちはいつでも出れるよ!」


 背後から由紀の声が聞こえる。どうやら2人は部屋の外に出たようだ。さらに扉を開けたまま待っていてくれるらしい。その優しい行動に、答えないわけにはいかなかった。


「お前を殺したら次はあいつらだ。誰一人と逃さん」

「そう。__っと」


 会話する余裕があるなら、容赦なくやらせていただこう。レンは瞬時に刀に強化を施し、拳を弾いて少しだけ迷宮王から距離をとる。しかしとった距離は数秒後にはゼロとなった。

 レンの顔を狙って、拳が振るわれるのを見た。

 その拳に合わせて。


「__っ!」


 迷宮王には当たったように見えたか、レンの体は後方の扉、さらにその先にまで吹っ飛んだ。


「は__?」


 殴っただけではありえない軌道で飛んだレンの体。さらに迷宮王の拳にはその感触がなかったのだから、困惑するのも当然だ。

 そう、レンは実際には擦りもしていない。振るわれた拳に合わせて、ただ後ろに跳んだだけだ。

 呆気にとられている迷宮王。今が逃げるチャンス。くるっと空中で一回転して難なく着地する。


「由紀、扉を閉めてくれ」

「うん!」


 そう声をかけたのはいいが、由紀は扉を閉めている最中だった。言わずともやってくれていたのは、ありがたい。

 ずずず、と扉が完全に閉まる。この扉は内側からは開かない仕組みになっているので、迷宮王が力づくで壊そうとしない限り追ってくることはないだろう。

 それでも念には念を。ここから離れた方が危険は少ないだろう。


「9層に戻ろう。対策を立てないとな」


 3人は部屋の中から聞こえる騒がしさを背に、帰り道をたどった。

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