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閉鎖世界の魔法遊戯  作者: 奏亜
1章 迷宮の底編
6/15

4話 ゴーレムと初戦

戦闘描写って難しいです。

「んん……」


 レンはまだ眠たい瞼をこすりながら、ゆっくりと体を起こした。

 今日から上層の探索を開始する予定なのだが、レンはどうにも調子が悪かった。というかなぜだかとても眠い。十分睡眠はとったはずなのだが、なぜだろう。それに何かの夢を見ていた気がする。


「…………」


 だめだ、寝る。思考回路の働かない頭でそう感じ、レンは再び布団に突っ伏した。沈黙とともに時間が過ぎる中、だんだんと意識が落ちていく。

 そんな彼の目を醒ますような声が聞こえてきた。


「あれ、レンくん? おーい、レンくん、起きないとだめだよー?」


 扉が開き、隣の部屋から由紀が出てきたようだ。なんとか起きようかと、意識を浮上させる。


「う……」

「朝だよー? 多分だけど」


 ゆさゆさと、体を揺すられてレンは瞼を開けた。その視界には、由紀の顔が目一杯に映っていた。


「……由紀」

「あ、やっと起きた。おはよう、レンくん」


 レンの瞳を覗き込んで、由紀は嬉しそうに微笑んだ。


「ああ、おはよう……」


 眠い頭でそう返すと、隣の部屋から千里が顔を出した。


「あ、レン。やっと起きたんだ。おはよう」

「千里、おはよう」

「珍しいね、レンがなかなか起きないなんて」

「ふふ、実はレンくんって朝弱いんだよ」

「へぇ。こんなイケメンにそんな弱点があったとは」


 意外なレンの弱点を知り、千里は意味深な笑みを浮かべた。朝が弱いことをどんないたずらに使うつもりなのか。逆に興味が湧いてくる。


「とまあ、起きたのならよかったよ。早く顔洗って、朝ごはん食べよ。みんなレンのこと待ってるんだ」

「ああ、ごめん。すぐ行く」


 レンの周りにはもう一つも布団が敷かれていなかった。寝坊したのはレンだけである。こんなところで迷惑をかけてしまうとは、気が緩んでいる。

 そうして、レンは急いで朝食の席に着いたのだった。


   *


 朝食後、修斗は全員が解散する前にこう切り出した。


「これからチーム分けをしたいと思う」


 唐突なその言葉。だがまあ、この状況だ。何を言いたいかは全員わかった。

 話を早く進めるべく環奈が詳しいことを尋ねる。


「チーム分け、ね。具体的には?」


 彼女は人数や役割、をういった細かいことを聞いたつもりだったのだが、修斗には正確に伝わらなかったようだ。


「今日から上層の探索を進める予定だったけど、さすがに8人全員で動くには連携も取れないだろうし、俺も皆のこと細かいところまで見れる自信がない。だからグループ分けをすれば、効率が良くなると思ったんだ」

「それはわかる。何人でチームを作るんだ?」


 聞いていることはそれじゃない、とレンが指摘する。が、言外に言ったその言葉はまたしても伝わらず、修斗は気にせずに彼の問いに答えた。


「あ、そう? 具体的には3人か、4人かな」


 8人だから分けるとしたら4人チームを2つ。修斗が言った3人とは、おそらく体の弱い綾のことを考えてのことだろう。

 そのことを察した綾は、不満そうな顔をした。


「私、足手まといじゃ、ない」


 そうはいっても、探索中に倒れられては敵わない。環奈が綾を諭しにかかった。


「綾、無理は禁物よ。やめておいたほうがいいわ」

「……わかった」


 大分素直でいいことだ。問題なく意見が通ったことに修斗は笑みを浮かべた。


「ありがとう。行来さんは治癒魔法が得意みたいだから、皆が怪我して帰ってきたときには頼むよ」

「どんと来い」


 綾は胸を張り、小さい拳でその胸を叩いた。なかなか重要な役割を与えられて、満足そうだ。


「待機するのは綾だけで大丈夫かしら?」

「ああ。なるべく探索の方に人手を回したいから、後の皆はチームを組もう。役割はなるべく被らないように、えーっと」

「前衛、後衛、あと中距離で攻撃ができる人、って感じかな?」


 役割のいまいちわかっていない彼に、千里が口を挟む。千里はよくその手の小説を読んでいたので、おおまかな配役がわかっていた。

 大体そんなものでいいだろうと、修斗は頷いた。


「そうだね。じゃあそれぞれ選んだ武器で決めようか」


 ちなみに選んだ武器はレンは刀、千里、修斗が剣、秋也が槍。由紀と環奈が杖、ひかりが弓だ。

 これを仲の良さも考えて分けると、こうだ。

 ・修斗、秋也、ひかり、環奈

 ・レン、由紀、千里

 とまあ、予想通りだ。チーム内の不和で仲間割れ、という事態は心配しなくていいだろう。


「こんな感じでどうだろう?」


 いつも一緒にいるグループ。そうじゃない人もいるが、全員その問いには賛成した。


「うん、いいと思うわ」

「ああ、異論はない」

「やったっ、修斗くんと同じチームだー!」

「よろしく、レン、由紀ちゃん」

「ああ、こちらこそ」

「よろしくねっ」

「……ずるい。私だけ、仲間外れ感」


 それぞれチームで分かれたため、綾がいじけたようにそっぽを向いた。まあまあと環奈が彼女を説得するが、不機嫌は治らない。まあ放っておけば治るだろう。

 と、修斗がレンの方へ視線を向け、こんなことを聞いた。


「そっちのチームは3人になっちゃうけど、大丈夫かい? 自分で決めておいてなんだけど、俺がそっちのチームに移動しようか?」


 それになんの意味があるのかと、疑問を携えつつ即答する。


「いや、大丈夫だ」

「うん、私たち仲いいしね」

「問題ないよ」


 おそらく、修斗はこちらのチームに入りたかったのだと思われる。何故なのかはおいおい明らかにするとして、いい雰囲気なら受け入れられるとでも思ったのか。

 3人に拒否され、修斗は苦笑いをした。


「そ、そうか。くれぐれも無茶はしないでくれ」

「ああ」

「それで、ここからが本題なんだけど……」


 今までは本題じゃなかったのか。別にそんなことはいいのだが、修斗の視線の先を見れば言いたいことはわかる。なんともわかりやすい奴だ。わざとそうしているのか。そうだったらとんだ道化だ。


「ここから上層へ進む唯一の方法。あそこを抜ける方法を考えたい」


 真剣な顔をしてこの食料部屋の天井を示す。あそこは秋也が見つけて、その日のうちにもう一回開けて以来、誰も触っていない。

 それについての情報を、今一度確認する。


「件の岩は確認したときにはなかった。だから、あそこへ入ろうとすればまた同じことが起きるだろう」

「ど、どうするんだ?」


 実際に見たことのある秋也が、その解決法を求めて修斗を見る。しかしその期待はあっさりと裏切られる。


「それはまだ考えてないんだ」

「おい!」


 ガクッ、と秋也は頭を落とし、落胆した。彼のそんなリアクションは気にせずに、千里が考えをまとめながら発言する。


「うーん、これは僕の考えなんだけど、そういうトラップみたいなのって、一度起動したら再起動までには時間がかかると思うんだ」

「うん? 千里くん、どういうこと?」


 もっと詳しく説明しろと、由紀は促した。


「まず誰かが囮になって岩が落ちてくるように仕向ける。そうしたら一旦避難して、岩がなくなるのを待つ。多分また落ちてくるだろうけど、そのインターバルの間に入っちゃえばいいんじゃないかな」

「なるほど」


 修斗はそれならば行けるだろうと、納得したように頷いた。千里の言った策は、なかなか危険を伴うだろうが、堅実な手だ。そこで一つ問題が発生する。

 秋也が険しい顔でそれを言った。


「なら、その囮役は誰がやるんだよ?」


 また食糧問題と同じことにならないだろうか。大半のその心配は杞憂だった。


「言い出したのが僕だし、僕がやるよ」

「いや、俺が引き受けるよ」


 策の提案者が引き受けたのだが、そこに修斗が割り込んできた。千里はやらなくていいならそれ以上はない、とあっさり引き下がる。


「あ、そう? なら宜しくね、皇くん」

「ああ」


 わざわざ危険を奪い取って何をしたいのかわからないが、とりあえず話し合いは終わった。

 その後、各装備を整えて再び集合した。今度こそ上層に向かうためだ。

 高い天井には足場を使う。以前秋也が作った足場は中々しっかりしており、そのまま使うことができた。修斗は足場を登り天井へ手をついた。


「いい? 開けるよ」


 心の準備をするようにそう言い、修斗はガコン、と天井を外した。外しただけでは何も起こらない。意を決して、天井の裏に手をかけて恐る恐る身を乗り出す。

 見上げているこちらからもわかるが、その先は相当な暗さがあった。


「暗くて、よく見えな__っ!」


 何かが迫っている。それを本能的に感じたらしい修斗は急いで体を引っ込めた。そのコンマ数秒後には。

 ドゴンッ!

 と、天井の穴を塞ぐように岩が落ちてきた。相当な重量。その音を聞くに、当たれば即死だということがわかる。

 目の前で落ちてきたその岩に、修斗は当たらなかったことを心底安堵した。


「あ、危なかった……」

「修斗、無事か?」

「なんとかね」


 強がる割には手が震えていた。大丈夫だろうか。

 これで一つのステップはクリア。さて、千里の策はこの岩がいつどいてくれるかなのだが。

 全員で固唾を飲んで見つめる。数秒すれば、穴を塞いでいた岩はゆっくりと上昇していった。今がチャンスだ。


「行くよ!」


 修斗は素早く天井の穴をくぐる。彼を先頭に続けて秋也、環奈がそこをくぐった。最後にひかりが行こうとするのだが、そこで躊躇した。

 と、あちらから声が聞こえる。


「ライト! ……え、なにあれ!?」


 環奈の声だ。魔法ですぐに視界を確保したのはいいことだが、何か衝撃的なものでも見たのだろうか。不安になったひかりは声を上げて聞いてみた。


「ど、どうしたの!?」

「石、いや、岩が……動いてる!」

「はぁ?」


 ひかりは意味がわからず首を傾げた。理解のできない現象。それも千里には心当たりがあるようだった。


「動く石? ……ああ、ゴーレムって奴かな。魔法があるんだから、ありえなくないよね」

「そ、そんなのがあるの?」

「あるみたいだよ」


 そういう彼は見ていないが、実際に今、見ている人がいるのだ。嫌でも認めなければならない。ひかりは嫌だという顔を隠しもせず、そこから動かなくなった。


「うぅ、やだなぁ……」

「ひかりちゃん、大丈夫? 私が先に行こうか?」


 渋る彼女に、由紀が先行しようかと提案する。どうせ全員行くことになるのだ。順番なんてここではあまり関係ないのだが。


「う……だ、大丈夫。心配させちゃってごめんね! 行くよ!」


 ここで立ち止まってはいつまで経っても先に進めない。そう意気込んで、ひかりは一気に体を持ち上げ、天井をくぐった。


「さて、俺たちも行くか」


 と、レンが続こうとすると、次は衝撃音が響き渡った。戦闘が開始されたのだろうか。彼らだけでは心配だ、せめてどんな状況かだけでも把握したい。


「早く行ったほうがいいか。由紀、千里、急ごう」

「うん」

「わかった」


 3人は素早く登り、初めてその部屋の状況を己の目で見て確認した。

 出てきた視線の先にはゴーレム。その先には階段があった。2メートル強もの巨体が、行く手を阻むように立ち塞がっていた。


「わ、本物だ。本当に動いてる」


 場に相応しくなく、千里は感心したような、興味津々な目でゴーレムを見ていた。しかしいつまでもそこにいては危ない。

 ゴーレムの動きを確認して、レンは千里にその場から離れるよう指示を出す。彼がそこから飛び退いた直後に、また衝撃音。間一髪だ。

 今は全員距離をとって様子をうかがっている。きっとゴーレムは番人の役目を負っていて、近づいたら敵と認識されるような仕組みなのだろう。

 さて、どうするか。


「まずは様子見をしよう。物理が効くのか、それとも魔法の方が効果があるのか。渡辺さん」


 修斗は環奈に目配せをし、魔法を使うように促した。環奈は頷いて、最近使えるようになったばかりの魔法を行使した。


「壊れなさい、ウィンドショット!」


 彼女の持つ杖の先から斬撃の性質を持った風の塊が生み出され、打ち出された。それは見事巨体の中心にあたる、が、シュッという音とともに虚しく消えてしまった。

 魔法という今まで触れてこなかった術、よほど万能だと思っていたのか、環奈は目を丸くした。


「あ、あれ?」

「全く効いてないみたいだ。でも四属性、全部試してみようか。秋也!」

「ああ」


 修斗、秋也がそれぞれ炎、土の魔法を使用し、ゴーレムに攻撃する。

 その試みも虚しく、またもや無傷だった。これで四属性のうち三つは試した。

 四属性、または四大属性。これも綾の知識だ。物語の中では炎、水、風、土という四つの属性をもとに魔法を使っていたらしい。あと残るは水属性だが、これは由紀が動いた。


「えい、飛んでけー!」


 気の抜ける掛け声とともに、水の槍が勢いよく射出された。それは中心には当たらなかったが、頭の端をかすめ、抉り取っていった。きっと自分の術も聞かないだろうと由紀はダメ元で使ったので、予想外のことに少しだけ驚いた。


「お? 効いてたりする?」

「効いてたりするな。でも」


 由紀のつけた傷は数秒もすれば淡い光に包まれ、修復されてしまった。喜びが一気に落胆へと変わる。


「ええっ、傷が治るなんて聞いてないよ」

「でも、多里さんの魔法なら効くみたいだね。傷が治る前に倒しきって仕舞えば、いけるかもしれない」


 修斗の案。確かにいけるかもしれないが、それは由紀の負担が大きすぎるし、修復速度に追いつけない可能性だって高いのだ。だからやめたほうがいい、とレンが言おうとしたところで、その隣にいた千里が大声をあげた。


「ああっ! そうだ!」

「どうした、千里」

「ゴーレムの弱点だよ! 読んだことがある。あれの接合部分、つまり関節。そこから切り落とせばゴーレムは動けなくなる。なぜならば、関節を動かすには相応の力が必要で、そこには必ず魔法陣が描かれてるっていう特徴が__」

「わかったわかった。関節の魔方陣とやらを狙えばいいんだな。お前の言う通り、試してみようか」


 どこか熱の入った様子で仕組みを語る千里を黙らせる。これは、彼の悪い癖だった。だが、これはいい情報を得た。何も考えずにただ戦うよりかは、たとえ間違っていても狙いがわかっていれば心の持ちようが違う。

 レンは修斗に視線を向け、余計な手出しはするなという意味も込めて、声をかけた。


「皇。俺と千里、それから由紀だけであれと戦ってみる。悪いが、おとなしく見ててくれ」

「っなんだって? だめだ、そんなのは」

「今朝分けたチームで戦ってみたいんだ」


 有無を言わせない強い口調。レンの申し出に、修斗は憎々しげに頷いた。

 言質をとると、千里に声をかける。


「千里、いけるか?」

「うん。ただちょっと、動きだけは確認したい」

「ああ」


 よく知りもしない相手にいきなり勝負はできない、ということだろう。威力偵察。結構なことだ。

 そんな会話を交わし、2人は駆け出す。ゴーレムの認識範囲に入った途端、それの動きは速くなり、石でできた腕をなぎ払ってくる。動きは遅いものの、リーチが長い分腕の先の速度は恐ろしく早い。そんな凶器を目で追いながら。


「よっと」


 千里は身をかがめて避けたが、レンは減速せずに跳躍した。そのまま一気にゴーレムの頭上へと躍り出る。さすがにあれの攻撃範囲に頭上は含まれないだろう。レンの常識を逸した身体能力に、千里は文句を言う。


「あ! レンそれ反則!」

「そんなものはない__ふっ!」


 下降とともに刀を抜き、狙いを定めて振り下ろす。選んだ武器はさすが上等、切れ味も良く石の腕を肩から切り落とした。

 視界の端には千里が体勢を立て直している。ここにいては邪魔になるので、レンは一旦そこから距離をとる。代わりに千里が飛び出し、切り返された石腕を避け様に肘から切り落とした。そして大きな隙ができたそこへもう一度剣を振るい、肩を切り裂く。


「はぁっ!」


 ゴーレムはその場所から動かないので非常に狙いがつけやすい。このまま攻めきるか。否。様子を見るべきだ。


「千里、一旦様子を見よう」

「っわかった」


 その場から動かないゴーレムにとって攻撃手段は両椀。それを切り落として仕舞えば攻撃はできないだろう。だがここは初戦、用心に用心を重ねるべきだ。

 レンの提案通り、千里はゴーレムに背を向けずに距離をとった。決してその変化を見逃さないよう、警戒する。


「どうかな?」

「……修復される様子は、ないな」

「あ、じゃあもしかしてレンくんと千里くんで倒せちゃう?」


 彼らの会話を横で聞いていた由紀の問いかけに、かもしれない、と、そう頷く。

 何も変化は起こらないと思われたが、ゴーレムは淡い光を一瞬だけ発した。それだけでない、突然その足が動き、歩き出したのだ。これにはさすがビクついた。


「ええええちょっと動き出したよっ!」

「多里さん! 足止めしてくれ!」


 危機を察知して修斗が指示を出した。まだまだ戦うことができない者もいる。彼らにできる限り恐怖を与えないための配慮だろう。とっさに由紀を頼ったのは正しかった。


「わかった、それっ! ……もう一個!」


 彼女の攻撃は効くので、足止めにはなるだろう。でもコントロールがまだイマイチな為、弱点と思しき関節には当たらない。ゴーレムは水の槍がぶつかるたびに少し足を止める程度だ。

 これでは倒すことはできない。由紀が力尽きる前に仕留めなければ。

 再びレンは千里へ意思の確認をした。


「千里」

「うん、行くよ」


 自分たちのチームだけで戦うと宣言したのだ。ならばと、真っ先に前に出る。前に出ればゴーレムの狙いは自分になる。


「先手もらうよ」

「任せた」


 千里が先行し、由紀の援護の合間を縫って、ゴーレムの背後を取った。彼が狙うはその首の部分だ。


「一気に決めるっ!」


 まっすぐな剣筋を描いて、剣は振るわれた、が。

 ガキンッ!

 と、金属音を立てて弾かれた。


「あれっ? さっきより硬くなってない?」


 疑問を口にしながら、一旦距離をとる。首の部分だけが硬くなっているのか、もしくは腕を切り落とされたことで硬化したのか。レンの見た限りでは、おそらく後者だ。あの一瞬の光が、魔法を行使したという証拠となる。


「まさかあんな無機物も魔法を使うなんてな」

「レン! のんきなこと言ってる場合じゃなくて、どうする!?」

「うーん、と」


 ゴーレムは千里がちょっかいを出して、他の皆に被害がいかないよう、引きつけてくれている。しかし下手に手を出せないのか動きが若干ぎこちない。

 そこへ。


「今度は土を使って……えいっ!」


 由紀は絶妙なタイミングで今度は土の剣を生み出し、質量でもって足止めを施す。一人でできないのならば、二人で。良いチームだ。

 ざっと思考を巡らせてみるが、思いつかない。ふとレンの耳を何かが横切った。


 __お前は魔法帝王だ__


 そう聞こえた瞬間、レンの持つ刀は鮮やかな赤い炎に包まれていた。


「え? これは……」


 自分はやった覚えはないのだが、無意識だろうか。しかしあの言葉、声。よくわからないのだが聞き覚えのある声だった。

 刀を持つ手は不思議と熱くない。やはり自分で使ったからだろうか。わからない。

 頭が疑問でいっぱいのレンに、由紀が唖然とした様子で声をかけた。


「レンくん、それ……」

「ん、ああ。……なぜかこうなった」

「え、自分でもわかってないの!?」


 わからないので、わからないまま答えた。由紀のツッコミはもっともだが、気にするな、と手を振って誤魔化しレンは再び駆け出した。

 不思議と、やれる気がするのだ。


「退がれ、千里」

「え、わかった!」


 千里はレンの持つ炎の刀に一瞬驚きを見せるが、隙を突かれる前に大きく飛び退く。入れ替わりのようにレンがゴーレムの前に立ちふさがった。なおも止まらないそれと、すれ違うように刃を走らせる。

 まずは片足。確かに切った手応えが先ほどよりも増している。しかしこちらの得物の質だって上がっている。よって。

 ドシン!

 片足を失ったゴーレムは立っていられなくなり、床に音を立てて倒れた。


「いけそうだな。__はっ!」


 しかと狙いを定めて首の部分から切り裂いた。なめらかな切断面を見せて、頭をかたどっていた石はゴロンと転がっていった。

 千里の知識の通りならこれで動かなくなるはずだが。油断は禁物だ。

 レンは数歩下がり、安全な距離を保ってそれを警戒する。


「…………」

「う、動かないな」

「ってことは、勝ったってこと?」


 近くから見るレンの目にも、魔力や、魔法的な力は感じられない。何より動く気配を感じなかった。きっちりと倒しきったのだ。

 レンは振り向いて、不安そうな彼らにはっきりと頷いた。

 すると場は一気に沸いた。


「やったぁ! これで上に進めるよぉ、修斗くん!」

「あ、ああ!」

「ようやく一歩前進だな」

「私は何の役にも立てなかったけど……」


 勝利に4人チームは喜んでいた。こちらの成果でこうも喜んでくれるとは、こちらも嬉しく感じる。


「レンくん、やったね!」


 ガバッと後ろから突進するように由紀が抱きついてきた。いつの間にか近くに来ていた千里も、レンの肩を叩いて労いの言葉を口にする。


「お疲れ、レン」

「ああ。千里だってお疲れ様。由紀も頑張ったな、お疲れ様」

「えへへへ……」


 褒められてデレデレとした笑顔を浮かべる由紀。その顔は到底人様に見せられるものではないので、すぐにやめさせた。

 千里はレンが疲れているようには見えないので、気になっていたことを口に出した。


「それにしても、レン。魔法使えたんだ」

「ん、ああ、あれは」


 ゴーレムを倒した時に炎は消えてしまい、刀はすでに鞘に戻してある。それを再び引き抜き、刀身を観察してみる。刃こぼれもなく綺麗な刀だ。


「何の変哲もない刀のはずなんだけどな」


 どうしていきなり炎に包まれたのだろう。あの声が関係していることは間違いないと思うのだが。考えても答えが出せるものではないので、レンはそのまま彼の言葉に答えを返した。


「実はよくわからないんだ」

「がくっ。……まあ、そんなことだろうと思ったよ。レンだし」


 肩をすくめて無理やり自分を納得させたようだ。魔法の話題になり、興味津々で刀を見つめていた由紀が顔を上げる。


「レンくんのそれって魔法具なんだっけ?」

「たぶん」


 たぶんというか、レンには見れば魔法具かどうか判別できた。


「じゃあ、魔法具だからなんとかしてくれたんだよ。ほら、使用者の願いを読み取ってー、とか」

「うーん、そういうことにしておくか」


 ちゃき、と刀を鞘に戻す。由紀の入ったそれはこじつけのようなものだが、今はそれで結論としよう。

 視線を移せば、あちらもひとしきり喜び終えたようだ。

 レンの視線を感じた修斗がこちらに歩いてくる。


「じゃあ、先に進もうか。お先に失礼するよ」


 それを言うためだけに来たのか。修斗はそれ以上のことは言わず、チームのメンバーを引き連れて階段を上っていった。

 予想通りだがお疲れの言葉もなしか。

 なんとなく微妙な雰囲気になる。それを知ってかしらずか、千里は階段へ歩き出した。


「僕たちも行こうよ」


 ああ、と返事をし、レンと由紀は千里を追った。


 この後、階段を上った先は道が二つに分かれていたので、修斗のチームと別れて探索を行った。しかし、選んだ道はいいのか悪いのか、ただの迷路のようなもので、一体の敵と遭遇することもなかった。

 その日の探索は、あれ以上の成果はなく終わった。

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