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閉鎖世界の魔法遊戯  作者: 奏亜
1章 迷宮の底編
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プロローグ

 奏亜と申します。閲覧いただきありがとうございます。

 一章完結まで毎日投稿します。

 誤字・脱字・表現など変な点があったらご指摘いただけると、作者が泣いて喜びます。

 白い光が視界を埋め尽くす。

 浮遊感を感じるほどに平衡感覚を失っていき、もはや自分がどこにいるのかすらもわからない。

 奪われた感覚が戻ってきたのは床との接触の瞬間だった。


「うわっ!」「きゃぁっ!」「な、何!?」


 どさどさどさっと何かが床に落ちる音。天月レンはそんな彼らを視界の端に捉え、自分は難なく自身の足で着地していた。さっきまでの奇妙な感覚はまるでなかったかのように消え失せ、しかと自分が在ることを認識する。


「いたた……」


 その声を聞いて隣を見ると、多里由紀が膝をさすりながら立ち上がろうとしていた。彼女は床に膝を強かに打ちつけたらしい。

 多里由紀は、レンが居候をしていた家の娘であり、同じ高校の同級生であり、レンの恋人であった。サイドで一つにくくった茶髪に濃いめの茶色い瞳を持ち、可愛らしい整った顔をしている。身長はそれなりで、女の子らしい体つきに制服を正しく着こなしていた。きっと誰に聞いても彼女は可愛い、と答えが返ってくるだろう。

 そんな彼女を心配して手を差し出す。


「由紀。大丈夫か?」

「レンくん。うん、大丈夫だよ。ちょっと、膝が、割れるように、痛いくらいで」

「全然大丈夫じゃないな」


 そんな力のない笑顔を見せていたら説得力は微塵も存在していなかった。由紀は差し出された手を取り、痛みをこらえて立ち上がる。


「いたたっ……ありがと」

「立って大丈夫か?」

「うん」


 彼女は膝を打っただけで、それほどひどい怪我は負っていないようだ。

 レンと由紀は自身の周りを見渡す。さっき、白い光に包まれる前までとは全く違う景色に、とてもじゃないが理解が追いつかない。持ちうる知識の中では到底説明もできないようなこと、それが今襲いかかっていた。

 ここは橙色の炎に照らされた薄暗い部屋だ。教室ほどの広さがあるが、家具やその他の物は一切置かれていなかった。その代わりというように、床には白く円い、奇妙な模様が描かれていた。この模様がレン達をこのような状況に陥れた原因だとでも主張するつもりか。

 もともと居た世界とは全く違う景色にはレン、由紀の他に6人の同級生がいた。つまり、この現象の被害者は8人ということになる。

 その中には、レンと親しい間柄の男子がいた。


「千里」

「れ、レン……た、助けて」


 賀川千里に近づいて声をかける。彼はレンの親友であり、剣道部に所属していた。その腕前は確かなものであり、全国大会で上位に入ったとか。容姿は短い黒髪に、緑がかった黒の瞳。身長は男子にしては小さめで、本人も身長が低いことを気にしている。

 彼の身に何が起こったのかはわからないが、彼はうつ伏せで全身をひどく打ちつけたらしい。起き上がれず、声のかけられたレンの方へ視線だけ向けて、助けを求めてきた。


「大丈夫? 千里くん。何があったの?」


 由紀と一緒に千里を起こし、座らせる。事情を聞くと、なんとも不幸な返答が返ってきた。


「わからない。けど気づいたら空中にいて、着地しようと思ったら足が滑って転んだ。おかげで全身が痛い」

「それはドンマイ。きっと運が悪かったんだ」

「あ、あはは……」


 恨めしそうに話す友達の不幸に、二人は苦笑いを隠せない。ゆっくりと立ち上がる千里の姿を見て、それほど重症ではないと判断する。

 由紀は千里の不幸を見て、他の5人がどんな様子なのかを気にする。


「そういえば、他の人たちは大丈夫かな?」

「他の人?」


 千里は誰のことかと、周囲を見渡す。彼もこの部屋にいる人数を確認して、納得したように頷いた。


「ああ、あいつらの事」

「見たところ千里より不運な目にあってるのはいなさそうだ」

「そっか、よかった」

「うん。……いやいや、良くない!」


 腹立たしそうに千里は二人に詰め寄る。レンは彼をなだめつつ、視線を走らせた。

 左前方には3人。尻を抑えて涙目になっている大島ひかり。彼女は明るく活発な性格をしているが、やや周りが見えない部分がある。さらに修斗にぞっこんである。

 そして、彼女を心配している皇修斗。彼は明るく、誰にでも優しいと評判で、クラスでも屈指のモテ男子。ただしレンからすればあまりいい印象はない。なんというか、外面という感じがするのだ。

 その横で周囲を見渡している津田秋也。影が薄く、本人も口数が少ない。が、頭は悪くなく悪知恵がとても働く。そのせいでこちらにも被害が出ていて、修斗よりも印象が悪い。

 彼ら3人は同じクラスの面々であり、レン達とはあまり仲の良くないグループだ。

 右前方には2人。さしたる衝撃を受けていないのか、平然としている渡辺環奈。彼女はクラス委員長をしており、真面目な性格だ。冷静が取り柄で、周りに合わせることが得意である。それが良いことか悪いことかは不明。

 それと彼女に助けてもらおうと手を挙げている女子。あの子は確か隣のクラスだったはず。さすがにレンも隣のクラスの女子の名前までは覚えていない。

 なので、顔の広い由紀に尋ねてみた。


「なあ由紀、渡辺の隣にいるあの子って誰だ?」

「ん、どこ? ……ああ、行来綾ちゃんだね。環奈ちゃんと仲良しの」

「隣のクラスじゃなかったっけ?」

「うん。綾ちゃんは1組の子だよ。あれ、他のみんなは同じ2組なのになんで綾ちゃんだけいるんだろう?」


 不思議そうに由紀は首をかしげる。

 行来綾。身長が低く、見た目はおとなしそうに見える。ただ環奈に助け起こしてもらおうとわがままを言っている姿を見ると、なんとも言えない。

 これが、この場にいる全員だ。

 この面々の共通点がわからない。同じ場所にいた、ということなら7人は説明がつくのだが、綾がいてはその理由も無しになる。性別も違えば、性格も、能力もバラバラ。なぜこの8人が選ばれたのだろうか。ただの偶然ならばそれはそれでいいが、そうでないなら、必ず理由があるはず。

 そうはいっても、この状況じゃわかるはずなかった。


「…………」


 と、言ったが。この場でただ一人、レンのみが知り得る事実があった。それは他の人には話すつもりはない。それほどまでに壮大で、想像がつかないことだ。

 元いた世界とは違う空気、いや、魔力を感じるのだ。馴染みのある、懐かしい空気。

 そう、ここは地球ではない。異世界とも呼ぶべき、別の次元にある世界なのだった。

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