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おしゃま少女ヒゲグリモー  作者: オジョ
第6話「迷いネコ狂想曲」
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その14


マルガレーテの突き進む先には、照明灯の立ち並ぶ太い道路が横切っていた。

駅にほど近い片側3車線の大通りは、家路を急ぐ乗用車やタクシーがひっきりなしに行き来している。


「だめ!止まって!」

ツバメは思わず声を上げ、民家の屋根から飛び降りた。

いくらマルガレーテが素早かろうが、むやみに道路へ直進すれば、まず車を避けられないだろう。

「止まりなさい!いい子だから!」

追い掛けながら必死に叫ぶツバメだったが、その呼び掛けは逆効果だった。

追っ手に気付き興奮したマルガレーテは、一層の前傾姿勢で逃げていく。

凄まじいスピードで四つ足を掻き細い道を駆け抜けると、そのままの勢いで大通りに到達した。

そして、身体を丸めたマルガレーテは、車道を跳び越そうとするかのように大きく跳躍する。


「だめーっ‼︎」

数瞬遅れて到着したツバメは、宙を舞うカラカルの姿がひどくゆっくりに見えた。

身体をバネのようにしならせて跳ぶマルガレーテ。

そこへ合わせるが如く右から現れた路線バス。

もはや衝突は免れない。

ツバメの伸ばす手はむなしく空を掻くばかりである。


しかしそのときだった。

バスのフロントガラスに直撃する寸前、マルガレーテの全身が強い光を放つ。

「はあ⁉︎」

ツバメは、マルガレーテが大きなフロントガラスの中へ吸い込まれるように消えるのを見た。

「あれって......」

ヒゲシャイニーの魔法、「透明な物体を透過する」能力である。

偶然か、それともケモノの持つ第六感が働いたのか。

マルガレーテは魔法を使った。

ヒゲグリモーのパワーはおろか、その固有魔法までを教わることもなく使いこなしている。


「ぎゃああ!」

ツバメの正面を横切る路線バスの中から幾つもの悲鳴が聞こえた。

窓ガラスを通り抜けてネコが車内に侵入したきたのだから、大騒ぎになって当然である。

直後、フラフラと揺れるバスのリアガラスからマルガレーテが飛び出した。

今度は器用に跳ね回りながら、道路の反対側へと渡り切り、また姿を消す。


ツバメはその場にへたり込んだ。

「なっ!なによ、ウィスカーのやつ!動物だって魔法ができるんじゃないの!それも日向さんより上手に」

マルガレーテが事故を回避したのは何よりだが、聞いていた話と違う。

ほっとしたやら腹立たしいやらのツバメだったが、危険な状況に陥ったのは彼女の方である。

パパパーッ‼︎

大きなクラクションがツバメの間近で鳴り響いた。

反射的に飛び退くと、彼女の身体スレスレをタクシーが通過していく。

「きゃああ!」

気付かぬうちにツバメは、大通りの車道に立ち入っていた。

次々と鳴り響くブレーキ音やクラクションに追い立てられ、彼女は中央分離帯へ転がり込む。

「私が轢かれそうになってどうすんのよ、もう!」


車が途切れるのを待つツバメに、

「おーい!何......やってんだ......、そんなとこで」

歩道から陽子が声を掛けてきた。

震える膝に手を置き、ゼエハアと息を整えている。

かなり消耗しているはいるが、よくぞ追い付いてきたものである。

「日向さーん!かなりめんどくさいことになってます!マルガレーテは車の窓を通り抜けて向こう側へ渡って行きました!あいつ魔法使えますー!」

6車線の真ん中で立ち往生しつつ、ツバメは後ろを指差す。

「まじかよ......、見込みあるなあ」

今にも倒れそうな陽子は言った。

「とりあえず道路を渡りましょう!あそこに歩道橋があります!」



合流したツバメと陽子は再び走る。

「大丈夫ですか、日向さん」

「大丈夫だ。......で、どうする?」

「じゃあ私と日向さんで、マルガレーテを挟み打ちにしましょう」

息も絶え絶えに答える陽子に、ツバメは容赦なく次の提案をした。

「あ?挟み打つって、あいつがどこ行くかわかんのかよ」

「思い出して下さい。この先に何があるか」

「今は頭が回らん」

「シラサギ川です」

「おお。そうか、......川だ!」

白鷺川とは、W町を南北に分けるように流れる幅30m、中央の深さ1mほどの川である。

駅から徒歩10分ほどで行ける場所だが、堤防の内側には自然の草花が生い茂っており、休日には釣りや花火をしに川岸へ訪れる人も多い。


「マルガレーテがシラサギ川の方向へまっすぐ進んでいることは、足音をサーチしているのでわかっています。このままいけば奴は川へ垂直にぶつかる筈ですが、ネコが太い流れを泳いで渡るとは思えません。となると川岸に沿って左右どちらかに曲がるしかないので、私達が両側から攻めれば、どちらかが見つけられます」

「なるほどオッケー!じゃあアタシは左から回っていくわ」

「お願いします。見つけたら大声を出して下さい。すぐに行きますから。あ、あとそちらには橋があるので注意して下さいね。マルガレーテに川の向こうへ渡られると、捜索が更に大変になりますんで」

「知ってるよ!お前こそ今度は逃すなよ!」

ツバメと陽子はマルガレーテを追い込むべく、左右に分かれた。


また1人になったツバメは、エンビータクトから放たれる光の線を確認する。

光線の進む方向はツバメから見て左ななめ前方である。

未だマルガレーテは、この先に川が流れていることなど知らずに突き進んでいるようだ。


暗く細い道の先に、白鷺川の堤防が見えてきた。

コンクリートで作られた高さ4mほどの堤防は上面が遊歩道となっており、昼間はランニングやイヌの散歩に利用されている。

見晴らしの良い遊歩道の上に到着すればマルガレーテを見つけ、更には川岸へと追い込むことができるだろう。

いくらマルガレーテが逃げるのに必死であれ、冷たい水の中へ飛び込むことはあるまい。

陽子と協力すれば、どうにか川岸の草むらで捕まえることが......。

「待って」

走りながら考えていたツバメは、そこで青ざめた。

1つの可能性に気が付いたからだ。

すでに陽子に提案し、実行に移してしまっている挟み打ち作戦だが。

ひょっとすれば、とんでもない穴がある可能性がある。

「あいつ、川を渡れるんじゃない?」


マルガレーテはヒゲシャイニーの魔法を使用することができる。

先ほどバスの窓ガラスを通り抜けてみせたように、自らの身体に光の性質を加えることにより、透明な物体を透過することができるのだ。

これはツバメの目で確認済みである。

そして。

透明な物体はガラスだけではない。

水もまたしかりである。

白鷺川を流れる水は澄んでおり、日中は橋の上からでも川底を眺めることができる。

よって、もし流れる水さえも光魔法で通り抜けることが可能なのであれば。

マルガレーテは川を泳ぐことなく、水底を走って向こう岸へ渡ることができてしまう。

かもしれない。(息を止めておく必要はあるだろうが)

「そのことにマルガレーテ自身が気付いているとしたらどうよ!川岸で挟み打ちなんてできっこないじゃない!」

ツバメは自嘲気味に頬をヒクつかせた。

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