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おしゃま少女ヒゲグリモー  作者: オジョ
第5話「護符演舞」
61/106

side by side その7

「や......」


瞬間、マオマオの全身が光を放つ。

「やめろおおぉぉおおお!」

大きな袖に詰め襟、たっぷりとした黒いズボン。

ヒゲを失った彼の衣装は輝く鱗粉となり、空気に溶けるように消えていく。

ヒゲグリモーの変身解除と同じ現象である。

「うわあああああ!」

やがて光が消滅し切ると。

あとに残ったのは、白い布を胴体に巻きつけただけの小さな少年だった。

黒かった髪は濡れたような光沢を放つ栗色へと変化し、露出の多い肌は陶器の如き白色になっている。

「それがあんたの正体?意外と妖精感出るじゃない」

「あああぁぁあああん!」

マオマオの叫び声はやがて泣き声に変わる。

彼は地面に崩れ落ち、駄々をこねるように喚いた。

「こんなのおかしい!イカサマだ!僕が勝っていたんだ!」

どうしても納得がいかない様子である。

「それなのに、なぜ、なんで札の力が効かなかった⁉︎」

少年はツバメを見上げる。

「僕は、......僕はたしかにお前に札を貼った!どうやって術を解いたんだ⁉︎」

ツバメは答えた。

「まだわからないの?術を解くも何も、そもそも私は操られてなんかいなかった。演技してただけよ」

「そんなわけがない!僕の札は絶対なんだ!」

マオマオは食い下がる。


ツバメはやれやれと首を振り、

「うるさいわね。そんなに騒がなくても教えてあげるわよ」

地面に落ちていた札を1枚拾った。

「けど、その前に」

彼女は札の裏面をマオマオに向ける。

「あんた、私の名前を言ってごらんなさいよ」

「は?お前は............」

そこでマオマオは固まった。

何かに気が付いたように、彼は少しずつ目を見開く。

「どうしたの?あんたが散々札に書いた名前よ?」

そう訊すツバメの目はわずかに笑っていた。

「ま、まさか」



マオマオのヒゲによる魔法、「他人を意のままに操る能力」を発動させるには条件がある。

まず魔法の服から無尽蔵に取り出せる専用の札に、相手の名前を書くこと。

そしてその札を相手の身体(衣装も含む)に貼り付けることである。

条件といっても、たったこれだけで良い。

実際、猿面男達や陽子、それからパトカーを妨害した一般市民達は、マオマオに名前を知られ、そして名前を書かれた札を貼られたために、簡単に術にはまったのである。

では何故、ツバメにだけは札の能力が効かなかったか。

その理由は単純だった。

あろうことか少年マオマオは、ツバメの名前を知らなかったのである。


そのことにツバメが気付いたのは社の中、少年マオマオとの戦いを一から思い起こしたときだった。

マオマオと対峙して以降、ツバメは自らの名前を名乗らなかった。

自分の言動であるため、まずそれは確かなことである。

問題はここからだ。

いくら思い返してみても、ツバメは誰かに名を呼ばれた記憶がなかった。

陽子にすらである。

これはまったくの偶然だろうが、陽子は一度としてツバメを名前で呼ばかったのだ。

そして。

マオマオがツバメを知ったのは、ヒゲエンビー姿の彼女が境内に現れたときである。

彼はヒゲグリモーが2人いることに驚く様子を見せていた。

よって、先に戦っていた陽子はツバメの存在をほのめかしさえしなかったということだ。

以上から導き出される結論は、ツバメの記憶が正しければという括弧付きだが、「マオマオがツバメの名を知る機会は一度もなかった」である。


それならば。

と、ツバメは続けて考えた。

どうしてマオマオは、自分に向けて札を投げたのか。

知らない筈の私の名前を札に書くことができたのか。

いいや。そうじゃない。

私の名を知っていると思い込んでいたのか。

そこでツバメは思い出した。

原因は陽子である。

マオマオの傀儡と化した彼女がツバメを絞め殺そうとしたときのこと。

ツバメの手により正気に戻った陽子は開口一番、「いつもの調子で」尻に敷いたツバメを呼んだのである。


「やっと気付いた?でも、もう遅い」

呆けた表情のマオマオに向かい、ツバメは言う。

手首を返し、札のおもて面を少年に突き付けた。

「私の名前はスルメじゃないのよ」


その一言で、マオマオは全身の力が抜けたように、カクリと肩を落とした。

「そんな。......そんなのフェアじゃない。わかるわけがないじゃないか」

妖精である彼は知らなかった。

人間の女性にスルメという名前はあまり使われないのだ。

「ダマされた......。やっぱり、お前ら人間は汚いよ。世にも醜い生き物だ」

「やめてよ。あんたのミスでしょ」

ツバメは騙したわけでも、本名を隠したわけでもない。

絶妙のタイミングで発動した陽子の呼び間違いボケを、たまたま訂正しなかっただけである。

第一、ツバメ自身がもっと早い段階でマオマオの間違った認識に気が付けていれば、ここまで苦戦することもなかっただろう。

何しろ彼女は、恐れる必要のない札をずっと避け続けていたのである。

「傀儡 スルメ」。

そう書かれた札を眺め、ツバメは深いため息を吐いた。


そんなシラけた場に突如、

「どうやらお前の負けのようだな、小僧!」

甲高い声がビンビンと轟く。

陽子復活である。

「アタシのブラフにまんまと引っかかったのが運の尽きだ!」

正気を取り戻した途端に、自分の手柄を主張する彼女だった。

一方、猿面達はといえば、皆地面に突っ伏して寝ている。

マオマオの術にかかっていた時間が長く、体力を使い果たしたのかもしれなかった。

陽子はツバメの隣に仁王立ち、マオマオを見下ろす。

「にしてもよ、作戦聞かされたときは爆笑したぜ。よく気が付いたな、一回もツバメの名前が出てないって」

「ええ。けれど、実際には一度出ています。覚えてますか?日向さんが『ツバメキック』と叫びましたね。対してこいつは技の名前をダサいと言いました。それをあとから思い返したとき、なんか変だと思ったんです。私の名前とキックを合わせただけなのに、そんな言い方をするなんてって」

「お前、恨みを忘れないタイプだな」

「それがきっかけで気が付きました。こいつは『ツバメキック』を、『空を飛ぶ燕のように素早い』という意味のキックだとでも思ったんじゃないかと。その理由は、私の名前を知らないから。すでに間違った名前を刷り込まれているから」

「なるほど、よくわかったよ。じゃあ、その閃きもアタシのおかげだったわけだ」

「日向さんは自己顕示を忘れないタイプですね」

「見習ってけよ」

陽子は満足そうに頷いた。


「さて、それではこいつをどうしましょう」

惨めにうなだれる少年を、ツバメは睨んだ。

ヒゲを奪うことは成功したが、マオマオには顔を見られている。

このまま帰してしまっては安心して眠ることができない。

「とりあえずウィスカーに知らせようぜ。このガキはあいつの敵なんだから、対処の仕方も心得てんだろ」

陽子がまともなことを言った。

「そうですね。けれどあいつはどこにいるんでしょうか。私はこのガキと同じくらいウィスカーが憎らしいです。結局ずっと現れないままじゃないですか」

ツバメは晴れ渡る空を見上げた。

ウィスカーと思われる影はどこにも見当たらない。

「そのうち来んだろ。まあ待とうぜ。今はアタシ達の時間だ」

「何ですって?」

陽子の目がギラリと光った。

彼女はしゃがみ、マオマオの顔を覗き込む。

「言ったろ。こいつをボコボコにするって」

マオマオは仰け反った。

「ひっ!」

這いずるように逃げ出そうとする彼の足を、陽子が乱暴に踏みつけた。

「ぎゃあっ!」

「逃がすかよ」

力を失った少年に対しても容赦がない。

「オラ、立てよ!」

陽子は腕を伸ばし、マオマオの首根っこを掴もうとした。


だが、

「うわっち!」

陽子は大きく飛び退いた。

マオマオの周囲が俄かに輝きだしたのである。

地面から光の筋が湧き出るように現れ、瞬く間にマオマオを包み込むアーチが形作られた。

「なんだ、こりゃあ」

少女達は目を剥く。

「......お迎えだ」

何かを悟ったのか、マオマオが青白い顔で歯噛みした。

アーチの内側から幾本もの蔓が伸びる。

草色の蔓は、少年の首や手足を縛るように巻き付いた。

「な、なによ、そのぐるぐる。あんたどうなるの?」

四肢の自由を奪われ、糸繰り人形のように身体を浮かすマオマオにツバメが訊くと、

「強制送還されるのさ。ヒゲがなきゃ僕らはこの世界にいられない」

濡れた頰をヒクつかせ、少年は自嘲気味にそう答えた。

次第にマオマオの身体から色が抜けていく。

彼は透け始めていた。

身体の向こう側、境内の石畳がうっすらと見えている。

少年は言う。

「......僕は負けた。でも、......いい気になるなよ。帰って仲間に伝えてやる......、ヒゲ...モーなん......取るに足ら......奴らだっ......」

姿が朧になるにつれ、彼の言葉も小さく、途切れ途切れになっていった。

「急に捨てゼリフ吐き出すんじゃねえ!わけわかんねえっての!」

「覚え...いろ......ウィ...カー、......勝つのは僕ら、............ードだ」

「はあ、何だって?聞こえねえよ!」

ほとんど見えなくなった小柄な少年へ、陽子が耳を向ける。

するとマオマオはカッと目を見開き、最後の力を振り絞るように叫んだ。

「ビアードだ!」

そして、少年は完全に消え去った。

彼を囲っていた光のアーチも、役目を終えたとばかりに霧消する。


「消えちまった。......あのガキ死んだのか?」

辺りを見回しながら陽子が言った。

「いえ、あいつの言い方からすれば、どこか別の場所に行ったんじゃないでしょうか」

ツバメは、ウィスカーやマオマオの示唆する妖精の世界を思い浮かべる。

マオマオがそこへ帰っただけだとすれば、再びやって来ることもあるのだろうか。

しかも今度は仲間を引き連れて。

「なんか最後の最後に言ってたな。ポマードとかビリヤードとか」

同じことを考えていたらしく、陽子が言った。

「いえ、ジハードでは」

「ビアードだモニャ」

「それだ、そのビアードってのがお前と敵対してる組織......ってお前‼︎」

陽子とツバメが振り向くと、丸々と太ったオレンジ色のネコが立っていた。

「ニャ」


「ぅウィスカぁああー‼︎あんたどこにいたのよ!」

顔中の穴から火を吹く勢いのツバメ。

彼女は怒りを爆発させた。

「敵がいなくなった途端出てきて!ちょっと待って!まさか、ずっと隠れて見てたんじゃないでしょうね⁉︎いや、絶対そうでしょいっつもそうだもん!よくも今更のこのこ出てこれたもんね、なにが『ニャ』よブタみたいな体型して!私達殺されそうになってたのよあんたのせいで日向さんが変なガキに誘き出されてその上この私まで巻き込まれてっていうか呼び出したのあんただしそれでいて高みの見物ってどういうわけ今度という今度は本当に信じられないんだけど‼︎」

ノーブレスでまくし立て、肩を上下させる。

「だいたいあんたが早くに出てきて話つけてれば......」

「まだ続ける⁉︎ちょっと待ってニャ!わかったから落ち着くモニャ!」

ウィスカーは短い前足を振り回す。

そして、小さく咳払いをすると言った。

「まずは諸君、任務ご苦労だったニャ」

瞬間、ウィスカーの脳天にツバメの拳がめり込んだ。


つづく

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