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おしゃま少女ヒゲグリモー  作者: オジョ
第5話「護符演舞」
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陽子side その6

前回までのあらすじ


車で逃げる強盗犯を捕まえるため、魔法少女へと変身した陽子。

逃走車に追いつき、乗り込むことはできたものの、強盗らの卑劣な攻めに苦戦を強いられる。

しかし固有魔法を用いた攻撃により、敵の1人を捕らえることに成功。

いよいよ反撃を開始するのであった。

果たして彼女は猿面強盗達を撃退し、人質を救うことができるのか。



「そしてこれは、ゲーセンでハブられたアタシの分だあー‼︎」

陽子はとどめの一撃を男に加えようとした。


だがその瞬間、彼女の身体は勢いよく前に飛び出した。

逆さに貼り付いていたフロントガラスからずり落ち、ボンネットを滑っていく。

突然のことに陽子は状況が理解できなかったが、単なる慣性の法則である。

運転手がブレーキを踏んだのだ。

車の外から攻撃してきた彼女に対し、強盗は車内からやり返してきたかたちになる。

急激に速度を落とした車の上、陽子は留まることができず、車体の前に転げ落ちた。

しかし、

「うがあっ!」

彼女は反射的に車のバンパーを掴んでいた。

頭は地面すれすれ、下半身のみをボンネットに残した状態だが、どうにか落車せずに保っている。

そんなスケキヨじみたド根性をみせた陽子だが、猿面運転手の反撃はここからだった。


車が再びスピードを上げ始める。

今にも落ちそうな陽子をバンパーに飾り付けたまま、爆走を再開した。

陽子は青ざめる。

この体勢はまずい。

手を離せば、頭から順番に車と地面のあいだへ巻き込まれていくことになるのだ。


そして状況は更に悪化する。

陽子の身体が揺すられ出した。

前方が見えない彼女が察するに、車は

舗装されていない砂利道に入ったようである。

今の陽子には振動がキツい。

逆さになった身体を支えているのは両手の握力だけなのだ。

揺れる弾みで指が外れそうになる。

また砂埃が口や目に入って苦しい。

地味に効いてくる一手だった。

しかし、陽子は直後に思い知る。

猿面達はじわじわと自分を苦しめようなどとは考えてはおらず。

目的地に向かって進んでいただけなのだと。


出し抜けに、車が大きく跳ね上がった。

前輪が上に傾き、ガタンガタンと揺さぶられる。

これは......。

砂利道の小石や小さな段差をタイヤが踏んだというレベルではない。

陽子は推測するまでもなく理解した。

車は階段を上っている。


強盗達は信じがたいほど冷酷かつ大胆だった。

どこかへと続く長い石の階段を、恐ろしいスピードのまま、車で上っていく。

自分を振り落とすために、

「そこまでするかよ!」

陽子は驚きを通り越し、呆れをやり過ごし、ついには感心の境地に至る。

敵は清々しいほど非道だった。

恐るべき引き出しの多さである。

だが、褒めている場合ではない。

その標的となっているのは陽子自身なのだ。

事実、石段の効果は絶大だった。

斜面を刻む段の角と陽子の頭が非常に近い。

平らな地面よりいっそうに近い。

「いて!いてて!」

というより接している。

王冠がゴリゴリと擦られている感触がダイレクトに頭蓋骨へ伝わってきた。

そして同時に厄介なのが激しい振動である。

段差を上がる度に車の先端が跳ね、陽子は更にずり落ちていくのだ。


このままではおしまいだと彼女は思った。

車と石段に挟まれて擦り潰されるのも時間の問題である。

しかし。

陽子にはこの窮地を脱する余裕がない。

車体からの移動を試みるどころか、バンパーにかじりついているのがやっとなのだ。

1番良い解決策は車を止めてしまうことだが、この状況では不可能だ。

万事休すである。


......いや。

本当に不可能か?

よく考えろ!

陽子は自らを奮い立たせる。

何でもいい、ここからサル供を攻撃する方法があれば。

車を止めるとまではいかなくとも、小さなきっかけさえ起こせれば。

どうにかできるかもしれない。

どうするどうする。

離れた場所にいる敵にダメージを与えるには。

いや、離れてはいない。

姿を見ることはできないものの、猿面どもとは2mと離れていない。

同じ車に接しているのだ。

車.........。

「あっ」

陽子は閃いた。

土壇場で絞り出した。

それはかなり危険な賭けだったが、もはや迷っている暇はない。

彼女は片手を車体から離す。

そして、思い切りの力でバンパーをぶん殴った。


その瞬間。

車中にて、運転する男を激しい衝撃が襲った。

ハンドルの中央部から飛び出した白い袋が爆発的に膨れ上がり、男を弾き飛ばしたのである。

セダン車がバンパーへの強い衝突を感知し、運転席の保護システム、つまりエアバッグを作動させていた。


予想だにしない奇襲を受け、男は思わずハンドルから手を離した。

タイヤの擦れる音と共に、セダンの進行方向がずれていく。

段で刻まれた急斜面という不安定な場所。

一瞬でも指示を失った車は直進を保てない。

石段の中心線から大きく左に曲がった。


その好機を陽子は逃さなかった。

車の遠心力を味方に、バンパーから手を離す。

なかば投げ出されるかたちで、彼女は階段の上へと落下した。

「ぎゃあああ!」

勢いが止まらず、身体を打ちながらゴロゴロと転がる陽子。

しかし彼女の被害はそれだけだった。

大ケガには至っておらず、車の下敷きにもなっていない。

辛くも危機を脱したのである。


「はあっ、はあっ......。あっぶねええ」

仰向けに寝転んだまま、陽子は動けなかった。

たいして動いたわけでもないのに、心臓の鼓動が激しい。

冗談抜きに死ぬところだったのである。

しかしどうにか助かった。

「日ごろのおこないが良かったからなあ、アタシ」

陽子は真っ青な空に向かって、安堵のため息を吐いた。


と。

凄まじい衝突音が辺りに轟く。

それは陽子の頭上、石段の先から聞こえてきた。

強盗達の車が何かとぶつかったようだ。

陽子はそう肌で感じる。

彼女が脱した後、車は蛇行しながらも長い階段を上り切ったらしい。

だがその先にある障害物を避けられなかったのだろう。

あの音では、車は大破したに違いない。

ざまあみろと陽子は思う。

そして飛び起きた。

「やべえ‼︎」

奴らの車には人質が乗っている。



大きな鳥居をくぐり、広場へと足を踏み入れると、黒いセダンがボンネットから煙を吐きながら停止していた。

バンパーがひしゃげ、その前には口を開けた石の犬が鎮座ましましている。

車は狛犬の載った台座に激突したようだった。


辺りを見回した陽子は気が付く。

駅前から随分と移動してきたものだ。

ここはタヌキ山の中腹にある神社、その名も多貫神社の境内である。

石畳の敷かれた境内の先には、小さな社がしんと佇んでいた。


幸いにも参拝客はいない。

陽子は壊れた車に駆け寄った。

「おい、大丈夫か!」

後部座席のドアを開け、中を覗く。

車内は静かだった。

4人の猿面達は皆シートへ崩れ、全く動かない。

気絶しているようだった。

だが、そんなことはどうでもいい。

人質はどこだ?

陽子は車の中を見回す。

いた。

折り重なるように倒れる男達の中、モゾモゾと動く布ぶくろがあった。

陽子は急いで車外へと引っ張り出す。


「大丈夫か!生きてるか⁉︎」

呼び掛けながら陽子は、人質に被せられていた布ぶくろを取り去る。

中から顔を出したのは、やはり子供だった。

7、8歳とおぼしき男の子である。

声を上げられないようにするためか、鼻から下に白い布を巻かれていた。


闇から解放された少年は、切れ長の目を細める。

どうやら無事な様子だ。

「良かった」

陽子は胸をなで下ろす。

「怖かったろ、小僧。よく頑張ったな」

そう言って彼女は、少年の頭に手を置いた。

「うふふ」

少年はくすぐったそうに笑う。

それから、言った。

「あー、面白かった」

「......は?」

「よく頑張ったのはそっちでしょ。おねえちゃん」


大きく開かれる少年の目。

陽子は後ずさった。

「なんだ、お前?」

その問いに少年は答えない。

ふふ。

ふふふ。

子供らしく笑う。

「でもまさか、こんなに簡単に見つかるなんて」

あははははは。


車のドアが次々に開いた。

猿面の男達が降りてくる。

少年を守るように、彼の両脇に並び立つ。


「何なんだよ、お前は」

陽子は強い口調でまた訊いた。

すると少年は自ら、口に当てられた布を解く。

露わになった全貌。

ニコリと微笑む少年の両頬には。

首の付け根まで届く細長いドジョウヒゲが生えていた。


「さあ、ウィスカーを出してよ。ヒゲグリモーのおねえちゃん」

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