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おしゃま少女ヒゲグリモー  作者: オジョ
第4話「サンシャイン陽子のマーチ」後編
36/106

その8

ツバメが道に点々と落としていった光の球。

ウィスカーと陽子にとって唯一の道標だった音符球が、裏路地の途中でパタリと途切れている。


「何故それを早く言わないモニャ!」

「いや、お前が色々説明こいてたからさ」

ウィスカーは最後の音符球が落ちている地点まで急いで戻り、辺りを見回した。

しかし陽子の言う通り、どちらを向いても続きの球はまったく見当たらない。

しかも、最後の音符球はちょうど4棟のビルの真ん中に落ちており、行く先は3方向に分かれている。

陽子は勢いにまかせてしばらく直進してしまったが、ニセ幽霊は左右どちらかに折れた可能性がある。

ヤマ勘で道を選ぶわけにもいかない。


「つーかさあ。なんでこんなハンパなとこで途切れてんだろうな、オンプキュー」

陽子が不平を鳴らした。

「んーニャ、それは多分......」

この地点でツバメがとうとう意識を失ったか。

もしくはニセ幽霊に気付かれ、目印を残すのを封じられたか。

そのどちらかであるとウィスカーは考える。

いずれにせよ想像したくない展開であるが、最後に残された音符球がひどく小さく、また輝きも弱々しいのを見ると、前者の方が可能性が高いように感じられた。


「どうするよ。こっから二手に分かれるか?」

また自力でニセ幽霊を探さなくてはならないとなれば、2人で別の道を行った方が効率が良い。

陽子はそう提案したが、ウィスカーは彼女から目を離したくなかった。

1人で活動させるにはあまりに危なっかしいからだ。

しかし代わりとなる案は思い付かない。

唯一の道標を失った今、どうやって敵の足取りを辿ればいいのか。

ウィスカーに焦りが募る。

何でもいい、音符球以外の新たな手掛かりを探さなくては。

透明ダコがこの狭い路地を通過したときに、何か痕跡を残したかもしれない。

ウィスカーは周囲の建物を見回す。

壁に不自然な跡はないか?破れた窓は?足跡は?

呆れたように陽子が言う。

「相手はタコなんだろ?足跡なんかつくかよ」

だが直後、彼女は真剣な顔つきに変わった。

「ど、どうしたニャ?」

「......ちょっと待て、言い直す。ゲソ痕はないだろ、タコだけに」

「シャレ思い付いただけかニャ‼︎まじめに手掛かりを探すモニャ!」

ウィスカーは懐中電灯を振り回した。


そして周辺をウロウロする顎ヒゲ少女とネコだったが、ニセ幽霊やツバメの気配はおろか、この場所に不自然なものなど何一つ見つからなかった。

いよいよどん詰まりである。

コンクリート製の巨大な迷路の中、行き先を見失ったウィスカーには依然として打つ手がない。

堪らず、十字に切り取られた夜空を見上げる。

「ツバメー‼︎」

あらん限りに振り絞ったその呼び声は、四方のビル壁に虚しく吸い込まれた。

当然の如く返事はない。

再び静まり返った裏路地の闇が、ウィスカーに一層の不吉な予感を与える。

勝手を知らぬ人間の世界。

来たばかりの街。

全くの想定外の敵。

わからないことばかりだ。

宙を漂うウィスカーはフラフラとして定まらない。

ツバメ、キミは今どこにいる?

誰でもいいから教えてくれ。

そうウィスカーが祈ったときである。


「...た...」

微かな声がした。

ハッと顔を上げ、ウィスカーは隣の陽子を見る。

「なんか聞こえたな」

陽子は耳に手を当てている。

彼女のものではないらしい。

「......した」

また聞こえた。

声のした方、少女とネコは足元を見下ろす。

そこには陽子達が見つけた最後の音符球があった。

弱々しく光る小豆程の光が、ツバメのささやきを再生していた。

音が小さ過ぎて2人は気が付かなかったが、この音符球はウィスカーの名を呼んでいない。

別の言葉を音にしてあるようだった。

「...した...」

「あれ、なんか言ってんぞ。『した』ってどういう意味だ?ツバメが何かしたのか?」

陽子が眉根を寄せる。

だが一方で、

「あー‼︎」

ウィスカーはすぐにその意味を理解した。

柔らかい胴体をぐるりとねじり、レンガの敷かれたゴミだらけの路地に目をやる。

「ニャニャニャ‼︎」


そして、見つけた。

直進でも左右に曲がるでもない。

4番目の道がそこにあった。

全く気にも留めていなかったその入り口は、彼らのすぐ足元に平然と存在していたのだ。

「そうニャ!『した』は『下』ニャ!」

「シタワシタ?」

わかっていない陽子に向かってウィスカーは、地面にはまった鉄の蓋を指差してみせた。

「マンホールだニャ!敵はここから地面の下に潜ったんだモニャ!」


ツバメはきちんと声を残していた。

意識をギリギリでとどめながら、道案内をしていたのだ。

ウィスカーが今まで気付かなかったのは、彼がどうしようもなく慌てていたせいである。

しかしようやく全てが繋がった。

「これが神出鬼没の謎の正体ニャ!」

ウィスカーは早口で説明した。

ニセ幽霊が誰にも見つからず街中を自由に動けたのは地面の下、つまり下水道を利用していたためだった。

そして今もまた、奴はツバメを連れて地下に潜っている。

もしかすると、アジト自体が下水道の中にあるのかもしれない。

「ハハーン、そうか!アタシにもだんだん読めてきたぞ」

陽子が顎ヒゲをしごいた。

「今ボクが全部言ったニャろ!早く行くニャ!」

ウィスカーに急かされ、陽子はマンホールの蓋に手を掛ける。

「あらよっと」

軽々と持ち上げた蓋を傍へ放り投げ、陽子が円形の穴を覗き込むと。


果たして、闇の底には小さな光の球が落ちていた。

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