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おしゃま少女ヒゲグリモー  作者: オジョ
第4話「サンシャイン陽子のマーチ」後編
32/106

その4

音の攻撃が効いてない。


そう悟ったツバメは急ぎ陽子を抱きかかえ、背後へ跳ねる。

するとやはり、何事もなかったかのように透明のタコ足は2人を追ってきた。

「全然、効いてないじゃない。音符球が」

「オンプキュー?なんだ、その可愛いの」

ツバメの胸の中、抱えられる陽子が問う。


音符球。

ツバメが音を固めて作った光の球のことである。

ヒゲグリモーになるのが嫌だ嫌だと言うわりに、ツバメは自らの用いる能力に名前をつけていた。

「音を使って攻撃したんですけど、通じてないみたいです」


もしや、とツバメは思う。

振動による攻撃は、このタコのような軟体には効かないのではないか。

スプーンで叩いたゼリーみたいに、抵抗なく震えることで衝撃を吸収してしまうのだから。

中心にいる女子高生にまで届かなくては、ダメージにすらならないのかもしれない。

だとすれば、

「今回は相性が悪いモニャ」

いつの間にか、ウィスカーが傍にいた。

ツバメに付けヒゲを手渡して以来、ずっと空からの傍観を決め込んでいたウィスカーである。

突如現れたデブネコの姿に、陽子は目をむく。

「げっ、空飛ぶニャンコだ!薄気味わるっ!」

「初めまして、陽子。ボクはネコ妖精のウィスカーだモニャ」

「おう、よろしくな!」

幽霊にヒゲ少女に喋るネコ。

何が現れても恐るべき順応性を見せる陽子である。

「てか、なんでアタシの名前知ってんだ?」

「君のことは妖精の世界でずっと見守っていたモニャ」

「嘘ですよ、日向さん。プールの更衣室から観ていただけです」

迫り来るタコ足を避けながら、ツバメはウィスカーを横目で睨む。


「ツバメ、ここはいったん退いた方がいいニャ。君も気付いたと思うけど、あいつに振動攻撃は効かないようだモニャ」

「そうみたいね。ていうか、あのタコと戦う理由がまずないし。逃げましょう」

ツバメがそう言うと、

「逃げねえよ!あいつをぶっ倒すの一択だ!」

ツバメの腕の中で、陽子が吠えた。

「妖怪と喧嘩できるなんて、そうそうないこったぞ!それに、コメジとシュンゴはどうなる」

そうだった。

男子2人はタコに捕まったままである。

退散するにしても、彼らを助けてからでなくてはならない。

ツバメは背後を振り返る。

「えっ?」


コメジとシュンゴはプールの脇、目隠しに植えられた木の根元に揃って寝かされていた。

まぶたを閉じたままピクリとも動かない。

ツバメは嫌な予感を覚えたが、目を凝らしてよく見れば、2人共胸が上下している。

どうやら意識を失っているだけのようだ。

ツバメは安堵したが、直後に気が付く。

彼らを締め付けていた2本のタコ足はどこへいった?


ツバメが辺りを見回した瞬間、不意に足をすくわれる。

気付けば、背後から忍び寄ってきたタコ足が、彼女の脚に絡みついていた。

透明のタコは8本全部の足を使い、ツバメを狙うことにしたようである。

吸盤が強力に吸い付き、振り払うことができない。

あっという間にツバメは逆さ吊りにされていた。

身体をひねって逃れようとするが、体勢が悪い。

柔らかい軟体生物の足が、次々とツバメに巻き付いていく。

「ええい!」

全身がくるまれる直前、脱出ができないと悟ったツバメは、陽子を放り投げた。

タコ足の隙間を抜け、陽子はグラウンド上を飛んでいく。


「ぎゃあ!」

したたかに尻もちをついた陽子。

投げられた勢いが止まらず、踏みしめられた土の上をバウンドしながら滑っていく。

「痛えって!何すんだ!」

陽子は素早く立ち上がり、尻を押さえながらピョンピョン跳ねた。

だが、彼女の不平に答える者はいない。

陽子が見上げると、地上から5mほど、不自然に身体を曲げたツバメが逆さまに浮かんでいた。

「どうした、ツバメ!」

陽子は叫んだ。

繰り返すが、彼女の目には巨大な透明ダコが見えていない。

ぼんやりと淡く光るニセ幽霊女子高生と、宙に浮かぶツバメの姿が映るのみである。

「妖怪パワーで動けねえのか⁉︎」


今やツバメの身体は、太いタコ足によって幾重にも巻かれていた。

顔までヌメヌメと覆われているため呼吸ができない。

常人離れしたヒゲグリモーの腕力をもってしても、まるで身動きが取れなかった。

そして足掻けば足掻くほど、体内の酸素は激しく消費される。

酸欠により、ツバメの視界が徐々に狭くなっていく。

「助けて」

そう叫ぼうとするも、彼女の声は口の中を反響するばかりだ。

焦りとはうらはらに意識が薄れ、全身に力が入らなくなる。


「まずいニャ!ツバメが捕まったモニャ!」

タコの全貌が見えているウィスカーには、ことの重大さがわかる。

とぐろを巻くタコ足の中、ツバメが脱力していく様がはっきりと見て取れた。

しかしウィスカーになす術はない。

自称ネコ妖精の彼だが、この場をどうにかできる力は持ち合わせていなかった。

身体能力的にもただのネコとほぼ同じである。

力がないからこそ、味方となる魔法少女を募っているのだ。

そして今、その大事な戦力であるツバメがわけのわからない奴に捕らえられ窒息しかかっている。

気持ちが追い付かないほどに突然訪れたピンチだった。


「ツバメを下ろせ、タコ野郎!」

何もできないウィスカーを尻目に、陽子はまたも飛び出す。

敵の正体を言い当てた陽子だったが、ただの偶然である。

眼前に迫った太いタコ足に、今度は気付けていない。

「あぶニャい、陽子!」

ウィスカーの叫びも虚しく、陽子は突っ走る。

そして鞭のようにしなるタコ足に、真正面から身体を叩かれた。


だが、

「捕まえたぞ、コラ!」

陽子は弾き飛ばされない。

衝突の瞬間、透明のタコ足に腕と脚を回し、ガッチリとホールドしていた。

「てめえ、ツバメをはなしやがれ!」

見えない軟体に噛みつき叫ぶ。

しかし、そんな陽子の身体が浮き上がった。

陽子をへばりつかせたまま、タコ足はみるみるうちに高く持ち上げられ、そして地面に向かって大きく振るわれる。

勢いに堪えきれず、手足を離した陽子は地面に叩きつけられた。


「陽子!」

ウィスカーが傍に寄り声を掛けるが、陽子は身体を打った衝撃で呼吸ができず、口からヒューヒューと乾いた息を吐くばかりだ。

ぐったりと地面に横たわったまま、身動きすらとれないでいる。

ウィスカーは緑色の目を燃やし、タコの胴体に埋まった女子高生を睨み付けた。

無謀が過ぎる陽子も陽子だが、ただの少女に対する仕打ちとしてはあまりにひどい。

「なんでこんなことを!この子が何をしたモニャ!」

怒りに、大きく背中が膨れる。

だが、それに応えたのは、


「うひゃひゃひゃひゃひゃ。」


笑い声だった。


うひゃひゃひゃ。

ひゃひゃひゃひゃ。

幽霊女子高生が、大口を開け笑っていた。

虚ろだった両目が、今は爛々と輝きを放っている。

その瞳には陽子もウィスカーも映っていない。

熱のこもった粘り気のある視線でもって、捕らえたツバメを観察していた。

「こりゃ、一体どういう仕組みかの。どっから見てもただの小娘が、信じられん力でアーマーから抜けようとしよる。それに、さっきの妙な攻撃。衝撃で通信が途絶えかけたわ」

女子高生にしてはおかしな口調であるが、これはもちろん牧島博士が喋らせている。

イヤホン型意識乗っ取り器の機能の一つである。

「......お前、喋るのか」

寝転んだまま、呼吸の整ってきた陽子が感心したように言ったが、博士の耳には入らない。

「収穫じゃ、持ち帰って調べてみよう。そっちの浮遊ネコも気になるが、またにするかい。欲張るのは良くないからの」

そう言うと、博士の操るエイトアーマーは陽子達に背を向ける。

そして胴体を低く沈めると、タコ足をバネのように弾ませ跳躍した。

校舎を飛び越え、夜闇に姿を消す。

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