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おしゃま少女ヒゲグリモー  作者: オジョ
第2話「レクイエムはいつとどく」
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その5

「もしもし、加代?ちょうど良かった。うん、ちょっと待って」


右手でタクトを振りつつ、ツバメは通話方法をスピーカーに切り替えた。

スマホ越しの加代の声が、ウィスカーにも聞こえる。

「ツバメちゃんが言ってたやつ、ネットで調べてみたよ。確かに、最近市内での窃盗とか強盗事件、増えてるみたい。えっとねえ、W町で2件、K町で2件、あとU町とY町で1件ずつかな。1人暮らしのお年寄りの家ばっかり狙われてるね。犯行時刻はだいたい午後11時から午前3時。夜、老人が寝ているときに、ピッキングして家に入ってくるんだって。恐いね」


ツバメがウィスカーの方を向き、唇を持ち上げてみせる。

ほらごらん、といった顔である。

ウィスカーは肩をすくめた。それだけの情報で犯人がこの付近に住んでいると判断するには、あまりにも根拠が薄いのではないか、とネコとしては思う。


「加代、ありがとう。参考になったよ」

「それなら良かったけど。ツバメちゃん、もしかして辻さんちに来た泥棒のこと探そうとしてるの?」

「私が?できないよ、そんなこと。そういえば辻さんのお葬式の連絡来た?」

「来たよ。日曜日の11時からだって。ツバメちゃん、行くよね」

「行くよ、間に合えば。あ、それから今夜は私、加代んちにお泊まりしてることになってるから。もしうちから連絡とか来たら話合わせといてね。じゃあね」

「何それ、ちょっと待って…」

ツバメは通話を切った。


それから一晩、ツバメは街全体に向かって、タクトを振り続けた。

辻さんから命と写真を奪った犯人を捕まえることに決めたのだ。

もちろん無理かもしれない。

しかし、できるかもしれないことをやらずに終わるよりはマシだとツバメは再び思った。


✳︎


土曜日の朝が来た。

学校は休みである。

デパートの屋上は立ち入り禁止らしく、日中も上がってくる者はいない。

おかげで誰にも見つからず、ツバメは泥棒探しに専念することができた。


だが、タクトに反応はない。

ツバメの求める犯人の手掛かりは、1日経ってもまるでなかった。

ヒゲの力によるものか、ツバメはまる24時間立ちっぱなしでタクトを振っているが、全く疲れていない。

ただし、眠気はやってきた。

何しろヒマなのである。

退屈しのぎに、傍らのネコに話し掛ける。

「ずっと気になってたけど、なんでウィスカーは女子中学生をヒゲグリモーにしたいわけ。戦士を集めるなら大人の男の方がいいじゃない。趣味?」

「違うニャ。実は魔法の付けヒゲは、もともと我ら妖精のために作られたものニャ」

ウィスカーは前足の指を一本立て、自分を指した。

「けれどボクには変身する才能がニャいし、今は妖精の仲間もいニャい。それでやむなく人間にヒゲグリモーをやってもらうことにしたモニャ。妖精と一番体質が近いのが、人間の女子なわけだから、これは仕方ないモニャ」

「ふうん。でも、女子を戦士にしようだなんて、妖精の倫理観てどうなってるのよ」

「これでも妥協してるモニャ。本当は幼ければ幼いほど、付けヒゲが馴染みやすいのだけれど、さすがに小学生以下には酷な仕事ニャ。それでギリギリの年齢である中学生を選ぶことにしたモニャ」

ウィスカーは得意げに頷いた。


「私がギリギリの年齢?なんか釈然としないけど、まあいいわ。あと、あんたの言う巨悪って何?そっちも妖精なの?」

妖精だの悪魔だのといった類いを、ツバメはまるで信じてこなかったが、立って喋って空を飛ぶネコがいるのは事実である。

とりあえずツバメは、自分を妖精だと言い張るウィスカーの存在を認めることにしていた。

認めなければ、ツバメの頭の方がおかしいことになってしまう。


ツバメの質問に、ウィスカーは明らかな動揺を見せた。

「そ、それは言えないモニャ。君が正式なヒゲグリモーになってくれたら、話せるんだけどニャ」

緑色の瞳がピンボールのように泳ぎまくっている。

その狼狽え振りからして、相手も妖精なのだろう。

どうやら妖精対妖精の戦いというものが、どこかで起こっているらしい。


妖精同士のケンカ。

ツバメの頭に浮かんだのは、三角の帽子を被った小人達が、ハニーポットの陰に隠れながら角砂糖をぶつけ合っている絵だった。

いやいや、とツバメは首を振り、幼稚な想像を頭から追い出す。

だとしたら人間である自分には尚更縁のない話ではないか。

何ゆえ巻き込まれなくてはならないのか。

ツバメにはわからないが、詮索するつもりもなかった。

正式なヒゲグリモーになる気がないからだ。

「そんなら、そっちで勝手に砂糖まみれになってればいいじゃないの」

「なんの話ニャ」

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