表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おしゃま少女ヒゲグリモー  作者: オジョ
第9話「ハロウィンナイトオペラ」
102/106

その6

 ナツの祖母、そしてツバメとナツを乗せたバイクは住宅街を抜け、片側2車線の大通りに出る。

 そして建ち並ぶ店舗の間をしばらく進んだ後。

 バイクは突如減速し、ツバメとナツが前につんのめる。

「送ってやれるのはここまでだね」

 バイクを路肩に停車させ、ナツの祖母が言った。

 見れば、車道の前方が立て看板で塞がれており、反射ベストを着た人が通行人を誘導している。

 看板の向こう側は歩行者天国であるらしい。様々な仮装をした人々が、既に多く行き交っている。

「ありがとうございます!」

 ツバメはエンジンの鼓動を鳴らすバイクから滑り降りると、すぐさま走り出した。慌ててナツが続く。

「ちょっと待ってよツーちん!」

「ああ、ごめん」

 ツバメは立ち止まり、ダラダラとやる気のない様子で歩いて来るナツを待つ。しつこいようだが、彼女は走ることができないのである。

「あんまり遅くなるんじゃないよ!」

 後ろから聞こえるナツの祖母の声に、2人は「はい!」と大きな声で返事をした。


 ゾンビに吸血鬼、ミイラや二足歩行の動物達でひしめく大通り。

 魔女の姉妹は急ぎ足で駅前広場へと向かう。

「なあ」

 ナツは前を行くツバメに声を掛けた。

「ほんとにあのバケモンに勝てる算段があんのかよ」

「何度も言わせないでよ。戦うのは日向さんで、私達はそれまでの繋ぎよ」

「だからその繋ぎの方法がわからないんだってば」

 ナツは口を尖らせた。

 既にランボーは市民の間で暴れ回り、恐怖を集めている可能性がある。となれば先程より更に強大になっている筈で、対面したら即潰しにくるかもしれない。

 陽子の到着まで間を持たせることができるとは、ナツには思えなかった。あまつさえ弱体化させるなど不可能ではないか。

 しかもツバメの言う『私達』には、間違いなく自分も入っている。

 そんな彼女の不安をよそに、ツバメはキョロキョロと辺りを見回している。

 その視線の先には、通り沿いに立ち並ぶ屋台の群れがあった。夜空の下、様々な食べ物やおもちゃを売る屋台が、電飾で輝いている。

「あった! ナツ、あれ買うよ」

 目当てを見つけたらしいツバメはナツを置き去りに、小走りで一軒の屋台へ近寄っていく。

「腹でも減ったのかよ」

「いいから早く!」

 ツバメが立ち止まり物色し出したのは、お面を売る店だった。

 並んでいるのはガイコツやカボチャ、不気味なピエロの顔など、ハロウィンらしいものばかりである。

「これ2つ下さい!」

 ツバメは迷う時間も惜しいとばかりに、適当な面を指差した。

 それは口の部分が鳥のように突き出す、つるりとした仮面だった。全体が白色で、両目の位置に丸い穴を開けただけのシンプルさである。ペストマスクを模したものだ。

「あ! あとこれも下さい!」

 更にツバメが見つけたのは、台の上に置かれたメガホンのおもちゃだった。「拡声&変声機能付きの本格派!」と黄色いポップが貼ってある。

「に、2900円⁉︎ ……じゃあこれは1つで」

 値段に狼狽えつつ、財布を出すツバメ。

「おいツーちん。こんなもんで何すんのさ」

「いいから。ナツにも活躍してもらうからね!」

「やっぱり私も活躍すんのかい」



 午後5時10分。

 駅前スクランブル交差点の一角に位置する噴水広場。

 レンガで作られた円形の池と、その四方を囲むベンチがあるだけの、こぢんまりとした待ち合いスペースである。

 その隅っこで、魔女姿の小岩加代は所在なさげに立っていた。

 心から楽しみにしていたハロウィン祭りだったが、今彼女は行くあてもなく途方に暮れている。

 ツバメからドタキャンの電話があった際には平気な風を装ったが、本当はとてもショックだった。

 たった1人、こんな寂しい気分では、とてもハロウィンなど楽しめそうにない。せっかく夜通しで作った衣装も台無しで、今やただ恥ずかしいだけである。

 ツバメからは、1人では危ないから家に帰れと言われたが、お小遣いをせがんで家を出てきた手前、すぐに戻っては両親を悲しませることになってしまう。

 どうしたらいいかわからず、彼女の小さな背中は小刻みに震え出した。

 周囲には沢山の人々が、待ち合わせた友人達と笑いながら、夕暮れの街に繰り出していく。周りの顔が幾巡も入れ替わる中、噴水前に留まるのは加代1人だけだ。

 メガネの奥で溢れ出す涙を隠しながら、加代はただ時が経つのを待つばかりだった。


 その姿を街路樹の裏から覗く、3つの影がある。

 いずれも陰険な目つきで、孤独に佇む加代を見つめていた。

「何であいつ1人ぼっちで泣いてんの?」

 血塗れナースの衣装を着た少女、高菱才女が言った。

「さあ。人が多すぎて怖いんじゃない?」

 ニヤニヤしながら答えたのは、インディアンの娘に扮したフミだ。

「つーか何あの格好。超地味なんだけどウケる」

 ウサギの着ぐるみに身を包んだ奈緒が言った。

 フミと奈緒は才女の子分で、やはりバイオリン教室に通っている。

 普段はツバメに阻まれ、満足に加代をいじめることができないが、今はチャンスだった。

 基本的に加代は泣き虫でノロマで、バイオリン歴も浅いヘタクソである。理由は知らないが人混みの中で泣いているとあれば、これは全力でいじらないわけにいかない。

「待って。紺野が来たらどうする?」

 フミが言うと、才女は意地悪く笑った。

「平気よ。どうせあのツインテに約束すっぽかされたから泣いてんでしょ。加代の友達あいつだけだもの」

 概ね正解だった。

 さてどんな悪口をいってやろうかと、3人組は肩を回しながら加代の元へと足を踏み出す。

 そのときだった。

 一足早く加代に話しかける者がいた。

 背後からの声に加代は気付き、涙に塗れた顔をそちらへ向ける。

「誰よ、あの子」

 慌てて街路樹に戻り、才女は言った。

 自分達と同じくらいの歳の少女だ。

 深紅のフード付きケープを羽織り、大きく広がったスカートを履いている。細い腕に提げたバスケットとフリルの付いたストッキング。どうやら赤ずきんの仮装である。

 フードの中から、ちらりと少女の顔が覗く。

 彼女の顔は恐ろしく整っていた。アーモンド型の大きな目に小さな唇、少し尖った鼻先。肩の上で切り揃えたまっすぐな黒髪と陽に焼けた肌が、賑わう人の中、浮き上がるように輝きを放っている。

 距離があって聞き取れないが、何事か会話を交わす2人を、才女達は盗み見る。

「あの子、メチャ可愛い」

 奈緒とフミが思わず声を漏らす。

「バカ加代にあんな友達がいるなんて」

「そんなに可愛いかしら。明るいとこだと大したことないんじゃない?」

 才女が忌々しそうに言った。

 彼女らをよそに、加代と謎の美少女は揃って歩き出す。

「どっか行く」

「ええ、どうするどうする?」

「よーし」

 子分達を制して才女は言った。

「尾行するわよ!」

 結局、ヒマな3人組である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ