Aube Pour Vous
「敵はざっと8人ってとこか」
気がつくと、リケル達を取り囲むように、黒いローブに身を包む男達が立っていた。
「こ、今度は一体なんなのよ!?意味わかんない!変な魔物に襲われたり道に迷ったり、散々な目に────「あぶないっ!」」
騒ぎ立てるアレシアに飛びかかるリケル。
直後、倒れた2人の頭上を黒い何かが掠めた。
「リケルさん、大丈夫ですか!?」
「ああ、ソニアはアレシアと一緒にこの結界の中にいてくれ」
「…………わかりました」
ソニアが何やら不服ながらも頷くのを確認して、リケルは右手をかざす。
すると、彼女達を包み込むようにドーム状の光膜が構築された。
「……さて、それじゃあ始めるか」
少し嬉しそうに拳を鳴らすリケル。
その言葉を皮切りにして、彼の体はほんのりと光に包まれる。
「さっきは身体が訛ってたし、聖気のコントロールも稚拙だったが────今度はあんなヘマはしないぜ?」
好戦的な態度をみせながら、彼の目がぎらりと光る。
彼を相手に小細工は無用と悟ったのだろう。
男達は合図でもしていたのか、一斉に黒い矢を放つ。
先程よりも威力が増したように見える弾幕は、聖気のガードに衝突して、鈍い音を立てながら砂塵を巻き上げる。
「まだだ!油断するな!」
男の1人が叫ぶまでもなく、8人はリケルから目を離すことなく構えている。
(この砂塵を晴らすべきかどうか…………奴が煙に紛れて反撃してくる可能性がある。
しかし、ここでむやみに攻撃すると余計に砂を巻き上げることに─────「上だよ、馬鹿」
予想外の声に、全員が同時に上を向く。
確かに彼らの目は夜空の中に一つの人影を捉えた。
「撃てええぇぇぇぇぇっ!?」
最初に我に返った男が叫ぶのが先か、リケルの体から強烈な閃光が発せられ、男達は視界を失った。
「練習相手にしてやるよ」
彼の体をおおっていた光が、一瞬にして右手に集まる。
『聖侵葬《Aube Pour Vous》ッッ!!』
右手が振り下ろされた瞬間、リケルの身体が今までにないほどに鮮烈に光る。
彼の姿は月と重なり、太陽のように男達を照らした。
ソニア達は白い結界の中にいたので状況は理解できなかったが、それでも白い視界がより明るくなるのを感じ取った程である。
周りが全く見えないほどの真白い光は数秒ほど続き。
辺りが元の暗さを取り戻した頃には、男達はみな例外なく、地面に横たわっていた。
聖侵葬(Aube Pour Vous) ─ 体の中に溜めた聖気を光に変換し、爆発的に放出する。
物理的な威力は一切無いが、闇の魔力に対してのみ多大な効果を発揮し、熟練した使い手が放てば、闇属性の魔力を使用している者を問答無用で気絶させる程の威力となる。
普通は聖気を1度体内に溜めてから放出するが、リケルは「溜める」イメージが苦手であったため、1度右手に聖気を溜めた後にそれをもう一度全身に纏う、という二度手間によってこの技を使用している。