ラウンドN
「お前……どうして……」
「あの後よ、ギルドに向かったんだ」
斜め上の方を見つめながら、バルドは語りを始める。
「何かの間違いのはずだって。
話せばマックスも分かってくれるって、そう思ってギルドの扉を開けた」
「けど……そこには誰もいなかった。
マックスの野郎も、今までそれなりに仲良くやってきた奴らも、みんないなくなってた」
「……スパイはあの男だけじゃなかったのか」
バルドは一呼吸入れてから話を続ける。
「別に国がどうとか、そんなのはどうだっていい。
ただ、あいつが俺に何も言わずに何か始めてたってとこが気に入らねぇ。
だから─────」
肩に担いでいた斧を改めて両手に持つ。
「今度は全部見届ける。
今まで何があったのか────そして、これから何をするつもりなのかもな」
リケルがラフトを肩から下ろし、立ち上がる。
「ああ、それなら俺も同じだ。
分からないことだらけでいい加減頭が痛くなってきたところだからな」
「はっ……ギルドが消えたからには任務も帳消しだ。
これからは調査対象じゃねえ。
友達として、助太刀させてもらうぜ」
その言葉にリケルは何も言わず頷く。
これ以上の言葉は不要だった。
「面白いのう、面白いのう。
男同士の友情……それも面白いが、何より────」
再び竜巻から外れた紙群が攻撃態勢を成す。
「儂に勝つつもりなのが一番興奮するわい……!」
「バルド……来るぞ!」
「ああ、俺に任せな」
嵐のように迫る紙を見てもバルドは動じない。
リケルも慌てる素振りは見せなかった。
むしろ余裕の素振りでバルドの隣に歩み出たほどだ。
─────『俺の能力か?それは────』
風切音を響かせながら、紙の兵器が無表情で迫る。
緻密に制御された紙群がバルドの鼻先まで接近し─────急激に軌道を外し、地面に散乱する。
バルドに遠距離攻撃が効かないことは、闘技場にてリケルも確認済みであった。
「な、なぬっ!?
紙魔法の制御は完璧だったはずじゃ……!」
「【剣技】────」
「魔道具・開────」
「ば、まずいっ!
『紙魔法────」
バルドの手元に風が集まる。
紙魔法の制御など、とうに奪われていた。
「『風柱到天』ッ!!」
「『対魔っっ!」
斧の回転のみで、身体が引き込まれるような風圧が生じる。
バルドの恵体を生かした力任せの回転のエネルギー。
そこに魔力による風のエネルギーが乗算されることで、嵐にも匹敵する破壊力を生み出す技である。
完全に制御を奪われた紙片が、竜巻の形を為して斧の周りを飛び交う。
老人が紙魔法の制御を取り戻した時には、既に遅かった。
風が止み、ようやく紙魔法の制御を手に入れたと安堵した老人の前にいたのは、刀を両手で石よりも固く握りしめ、目を光らせたリケルであった。
「これで終わりだッッッ!」
────勝負はリケルの勝ちだった。
圧倒的な魔力と力の差を見せつけられながらも、それをも上回る『能力』と『ステータス』で戦い、見事な機転を効かせて老人を追い詰めた。
バルドの『能力』と『魔法』も、相性は抜群と言えた。
ただ、彼らに一つ敗因があるとすれば────たっと一つだけ、あるとするならば────
それは、今までの人生で常にリケルを苦しめ続けてきたもの。すなわち────
「やあ、久しぶりだね、リケル君。
バルドも元気そうでなによりだよ」
────運の尽きである。
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