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痛喰者は再び舞い戻る  作者: 龍 拡散
王都レイタスの異変
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不完全な再会②

「285……286……287。

 ここか」


 最低限の視界を確保するために付けられた照明と聖気で作った明かりを頼りに、リケルは『棺』内を進んでいた。


 ルーブランとの戦闘で多くの聖気を失ったリケルだが、ルーブラン本人の協力によって今は聖気を回復することに成功していたのだ。















「これで全てです。

 こんな老人の聖気では気休め程度にしかなりませぬが」


「いいや、むしろ思ったよりも補給できたくらいだ。

 こんなことをさせてすまない」


「元は私との戦闘で失ったものですから。

 聖気を分け与えるくらいなら喜んで致しますぞ」


 ルーブランの身体から漏れ出た聖気は、磁石に引っ張られるようにリケルの体内に入っていく。

 全回復とまでは言わずとも、失った聖気の大部分が補われているのを感じていた。


「『止血(ベザ)』『再生加速(アラリネ)』『苦痛緩和(ペリマ・レージュ)』」


 聖気の補給が終わり、老人が魔法の名を口にすると、緑の魔法陣がリケルの傷口に現れる。


「これは────」


「エルフの友人がいるもので。

 彼らの扱う医療魔法は、少しだけ習得しております。

 これで少しは傷もマシになるでしょう」


 彼の言うとおり、耳の出血と痛みは止まり、右手も刀を持てる程度には回復していた。



「それよりも、聞きたいことがあります」


「なんだ?」


「なぜ私の、地下室が崩壊していくように見せる幻覚魔法や強力な結界魔法、暗視魔法が、壁に埋め込まれた魔道具によるものだと?


 それに、そもそもあの結界魔法は魔法の核が魔道具に存在する特殊な魔法です。

 魔法の核を捉える『対魔(マギア・スレイ)」で直接破壊することは不可能なはずですが」


 リケルが首を傾げる。


「魔道具の存在は、部屋中激突しまわっている時になんとなく勘づいた。

 壁の中に感触が違う部分があったからな。

 しかし、結界魔法を壊せたことについては俺も分からない」


「そうですか……」


 ルーブランは腑に落ちない顔をしているが、それはリケルも同じである。


「悪いな、期待に応えられなくて。

 ソニアの処刑まで時間が無い。

 そろそろ行っていいか?」


「…………ええ。それならこれを」


 ルーブランが胸ポケットから黄色い装置を取り出す。

 小指くらいの大きさだ。


「帝国の技術です。『付加機装(サレンティア)』といって、これを魔道具に取り付ければ装置に応じた魔法効果が得られます」


「……なんだそれ?それじゃあ結局その装置さえたくさん付けていれば、際限なく強い武器が生まれるんじゃあないか?」


「いいえ、魔道具によって付けられる付加機装(サレンティア)の数が違います。

 大抵の魔道具は付加機装(サレンティア)に対応していませんし、武器としての能力を無くして付加機装(サレンティア)の取り付けに特化したこの魔道具でさえ、付けられる機装の数は2つだけです。

 そもそも付加機装(サレンティア)の効果は幻覚や暗視などサポート程度のものがほとんどですので……」


 壁に埋め込まれていた球状の魔道具を持ちながらルーブランが説明する。

 球状の魔道具からは青色と白色の装置が引き抜かれ、彼の手に握られている。


「なるほど、あくまでサポート用の装置というわけか。

 それで、その付加機装(サレンティア)にはどんな魔法が付加されているんだ?」


「『覚醒(ノヴァス)』…………洗脳や束縛の魔法を強制的に解除する魔法です」


「解除……どうしてそれを俺に?」


「元は私自身にかけられた束縛魔法を解除して()に反撃するために、十数年かけて作ったものです。

 奴と戦う時には必要になるでしょう」


「『奴』?」


「それは……言えませんな」


 ルーブランの右目が青く光った。




「……そうか。了解した。

 …………お前はこれからどこに行く気なんだ?」


「本当ならお供したいところですが……それが出来るような状態でもありませんので」


 彼の老体には、リケルが作った生々しい傷が依然として主張を続けている。

 血こそ医療魔法で止まっているものの、戦闘どころかリケルについていくことすら厳しい状態だ。


「そうか。ならそういうことにしておくよ」


「……ッ!」


 ルーブランが目を丸くする。


「────20年分の記憶を見たんだ。

 お前がここで本当にただうずくまっているような人間じゃあないことは知っている」


 初めて軽快な笑いを見せるルーブラン。


「それもそうですな。

 ですが、期待はしないで下さい。

 少し回復したら行くつもりですが、おそらく敵に関する情報の提供くらいしかできませんのでね」


 彼の言葉に、リケルはああ、と呟きながら後ろを向く。


「そろそろ本当に行かなければならない。

 ルーブラン──アレシアのことは…………任せてくれ」


「ええ。頼みましたよ。

 命よりも大切な姫ですから」


 今は女王だろ、と心の中で相槌を入れるリケル。

 そんな彼の姿も、ルーブランが瞬きをする間に消えてしまっていた。


「本当に、頼みましたよ……ここからが本番ですからな」


 誰に呟くでもなく、ただ誰かに言い聞かせるように、ルーブランは独り言を浮かべた。


 















「やっと来たか」


「ああ。遅くなって済まない」


 ──この時をどれほど待っただろうか。


 ──やっと取り戻せる。


 ──俺の初めての友人を───────












「ソニアは……どこだ?」


 茶髪と黄髪の二人は、7日ぶりの顔合わせを始めていた。

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