第一印象
────何年前だっただろうか。
おしなべて歳を取ると、細かい年数などは気にしなくなるのが人間だ。
私が彼女に出会ったのはたしか─────
「なあ、聞いたか?あの爺さん、ついにダラス様からも護衛の仕事を解雇されたらしいぜ」
「おいおい!解雇なんて言葉自体、この王宮内じゃあ滅多に聞かねえってのに」
少しの間休憩を頂いた二人の門番が、食事を片手に談笑する。
「しかし、どうしてあんなにも愛想がないのかねぇ」
「どんなご高名な剣士様なのか知らないが、国王候補に嫌われたら意味ないわな」
「ここだけの話だけどよ……」
右頬に大きな黒子が付いた兵士が耳打ちする。
「あの爺さん、元犯罪者らしいぜ」
「は、犯罪者だって!?そんな人間が王宮で働けんのか!?」
「おい、ちょっと声が大きいぞ」
制止する兵士だが、相手の背後を見て顔があおざめる。
「ほ、ほら……言わんこっちゃねえ……
あの爺さん地獄耳なんだよ」
噂の対象となっている老人は、廊下に立つ二人の男を一瞥すると、どこかへ向かって足を動かす。
兵士は、ほっと胸を撫で下ろすのだった。
「ルーブランよ、すまなかったな。
私の息子がお前を気に入らなかったようだ。
まだ7歳だ、大目に見てやってくれ」
「いえいえ、とんでもありませぬ……」
国王の前で膝をつくルーブラン。
とても王と部下との会話とは思えない、まるで古くからの友人と言葉を交わすかのような空気感だ。
「お前には本当に申し訳ないが、まだ次の仕事先は決まっておらん。
暫くは────」
「ええ、またいつも通り日雇いの傭兵を」
「いや、もうその必要はない」
被せるような王の発言に、瞼を少し動かすルーブラン。
「その歳で傭兵稼業というのも酷だろう。
生活費は国から出す」
「なっ……!いえ、そこまで施しを受けるのは申し訳ありません!
貯金ならある程度は──────」
「もちろん、タダでという訳ではない」
「……といいますと?」
「入ってきなさい」
王が声を上げると、重々しい扉を開けて、一人の女性と若い男性が入ってきた。
女性の方は透き通るような白い髪を腰の辺りまで伸ばし、緑の瞳に薄く可愛らしい唇。
俗に言う美女ですら霞むほどの美貌の持ち主だ。
男の方は短い茶髪、歳はおそらく二十代前半だろう。
ギラギラとした瞳でこちらを品定めするように見つめている。
「よろしくお願いします。
私はアリア。我らが国王陛下の、八人目の妻でございます」
女性が丁寧にお辞儀をする。
そばにいる男は、老人を睨むことをやめない。
そんな彼を女性が注意する。
「すみません。こちらはラフトと言いまして。
現在私の身辺警護をして頂いていますわ」
「うむ。ルーブラン、簡単な話だ。
お前には、この男、ラフトの────教育係を受け持ってもらう」