激戦①
「……さて、次はどのような攻撃を見せてくださるのですか?」
余裕の表情を崩さずに白髪の老人────ルーブランが笑う。
彼の足元にはリケルの刀。
(まずはあの刀を拾わないと……)
ちらりと自分の刀に視線を向けた後、リケルが右手に光を集める。
「いやはや、聖気の才能についてはかなりのものですな。
────魔法が使えないのではそれも無駄なものですが」
「…………今、なんて言った」
予想外の一言にリケルは眉を動かす。
それを見たルーブランが不敵に笑う。
「リケル・シックザール。
『反転』以前の能力名は『幸喰』。
能力の内容も『反転』後の能力も想像がつきませんが、おそらくはその桁外れな強さの原因でしょう」
そう言うとルーブランは『これ以上はもういいだろう』とでも言わんばかりに口を噤んだ。
能力の内容を知られたわけでもなければ、詳しい出自を調べられた訳でもない。
しかし、目の前の老人が自分という存在を、その情報を、知っていることに少し恐怖した。
だが、そんなことは関係ない。
彼にとって、今やるべきことはひとつ。
────目の前の老人に、自分の大切な人をひどい目に遭わせたクソ野郎に、一太刀浴びせてやる。
最初からそう決心していた彼にとって、適量の恐怖はむしろ戦いのスパイスとなった。
彼をほんの少し冷静に戻した老人の言葉が、それを気づかせてくれた。
(今の俺たちにとって、この暗闇は相当な障害だ。
実際、さっき攻撃した時も相手に肉薄するまでは姿すらぼんやりとしか見えていなかったくらいだ。
だからこそ、近づく時には何の戦法もなしに突っ込むしかなかった─────。
しかし、あいつの方から攻撃してきた時には、なんの迷いもなく足を、それもピンポイントで命中させてきた。
つまりはあの老人────視えている……!)
少しの間思考の海に潜り込んでいたリケルだが、まるで定食屋で頼む物が決まった時のように、パッと前を向いた。
「この状況で笑いますか……何か勝機でも掴みましたかな?」
(表情までばっちりと…………見えていることで間違いないな)
老人の発言の数秒後。
リケルが消えた。
「今度は真っ直ぐには飛んできませんか…………!?」
刀を構えるルーブランの右耳に爆音が知覚される。
慌てて右を向くが、そこには壁に人が激突したであろう凹みと、多少の砂塵が残されたのみだ。
ルーブランがそれを視界に入れたのとほぼ同時に、今度は後ろで激突音が鳴る。
振り返るが、やはりそこには誰もいない。
「なるほど……」
ルーブランがいちいち振り返る間もなく、四方八方で激突音と砂塵が生まれる。
さながら突進と激突を繰り返す凶暴な猪のように、リケルは無数に直線の軌跡を描き続けていた。
(これではいくら長年培った勘があってもどこから攻撃してくるのか全く分からない…………持ち前の持久力とスピードがなせる技ですか。
考えましたな)
老人が目を閉じる。
目視での確認は不可能と判断。
勘頼りで攻撃を受け止めることに決めたようだ。
今、リケル対ルーブラン、些か不平等な第2ラウンドが始まった。